第18話 不登校

〈之愛〉

「なんか...すごい式だったね!」


〈旭葵〉

「ほんとに、隣の人は何を考えていたのかしらね〜」


〈優斗〉

「刺さってますよ〜?自業自得とはいえ、刺さりまくってますよ〜?」


執事服から制服に着替えて教室に戻った。今は1時間目の途中だが、任命式が早く終わったので、残りは休み時間となっていた。


そして俺はというと...めちゃくちゃイジられている。まだイジってくれるだけマシか。無視が一番キツい。


〈旭葵〉

「期待してたんだけどなー。ね、有海くん?」


〈優斗〉

「返す言葉もございません...」


...カッコつけておいてこれはダサすぎるぞ俺!あぁ、あの時に戻れるなら、過去の自分をブン殴ってでも止めるのに。


〈之愛〉

「でも、生徒会ってなんか面白そうだなって思ったよ!」


〈優斗〉

「そういってくれるなら、やった甲斐があった...」


〈旭葵〉

「ダメよ之愛、甘やかしちゃ。有海くん、私との約束覚えているわよね?」


〈優斗〉

「も、もちろんでございます!」


旭葵の期待に応える。その為に1ヶ月という期間を設けて了承してもらっている身。


〈旭葵〉

「次何か訳の分からないことをして、生徒会の...ひいては胡依美先輩の株を落とすような事したら...ね?」


〈優斗〉

「はいぃ!!...でもあれは一応北条先輩にも許可取ってやったんだけど–––」

〈旭葵〉

「わかった?」


〈優斗〉

「わかりましたぁぁぁ!!」


期待に応えるどころか、旭葵に落胆されてしまった。このままでは本格的に、生徒会を辞めさせられるかもしれない。


そうなってしまえば、ヒロインと青春する以前の問題だ。


 なんとかして自分が使える人間だということを示ればいいのだが...


生徒会の業務って何か行事が無いと、やる事はあまり無いらしい。近いうちにボランティア活動的なのはあるらしいが...


 まぁ焦って空回りするのが一番よくないか。次は無いと釘も刺されたし。


〈之愛〉

「それにしても、優斗の執事服似合ってたねー!カッコよかったよ!」


〈優斗〉

「うっ...すっげぇ嬉しいが今の俺にとって執事はトラウマ...」


〈之愛〉

「え〜なんで?礼もホンモノの執事みたいですごいよかったのに...ね、旭葵!」


〈旭葵〉

「え!?...まぁ、似合ってはいたわね。式自体は大失態だったけど」


少し照れながらもそう答えた旭葵。...全てが全てダメだった、というわけでも無かったかもしれない。


〈之愛〉

「あ、あと!きさなちゃん...だっけ!優斗の妹だよね!すっごい可愛かった!!本当にアイドルみたいなメイドさんだったし!」


〈優斗〉

「そういえば之愛に言ってなかったな。如月夏は俺の...妹だ」


〈之愛〉

「やっぱりー!名字が同じだったから、そうだと思ったよー!」


〈旭葵〉

「...あの時如月夏だけ露骨に恥ずかしがってたけど...まさか、無理やりやらせたの!?」


〈優斗〉

「そ、それは...その.......はい。俺たちで巻き込みました...」


〈旭葵〉

「...はぁ、呆れたわ。しっかりしてる如月夏が、なんであんなことしたんだろうな〜とは思ったのよ」


〈優斗〉

「利奏と謝罪します...」


如月夏は俺たちの悪ノリで巻き込まれただけだ。如月夏に落ち度はない。


と、都井先生が教室に入ってきた。そして俺に真っ直ぐ向かって...え?俺に何か用!?


〈都井先生〉

「有海、さっきのは本当に良かったぞ。あんなに笑ったのは久しぶりだ」


〈優斗〉

「都井先生!?もう散々イジられたんでそれ掘り起こさないでください!」


〈都井先生〉

「悪かったな。で、だ。お前に用があるんだが、ちょっと着いてきてもらえるか?」


〈優斗〉

「俺に用...ですか。はい、わかりました」


都井先生に連れられて、教室を出る。


まさか...呼び出してまでイジる気か!?...いや、さすがに違うか。ということは、恐らく...


〈都井先生〉

「お前に私からの初仕事だ。当然、あの時の約束は覚えているよな?」


〈優斗〉

「俺を生徒会として入れてもらう代わりに、都井先生の雑務全般を手伝うことですよね。もちろん覚えてるし、そのつもりです」


〈都井先生〉

「その言葉が聞けて良かった。で、肝心の内容だが...歩きながら話すようなものじゃない」


誰かに聞かれたくない話か。どんな話をされるんだろう...と、俺はつい身構えてしまう。


〈都井先生〉

「生徒会室まで行くのは面倒だ。そこの生徒指導室を使わせてもらうぞ。いいな?」


〈優斗〉

「なんか俺がやらかしたみたいですね...まぁある意味今日やらかしましたし、全然良いですが」


先に先生が生徒指導室に入り、続いて俺が入る。先生が、念の為に鍵も内側から掛けた。


〈都井先生〉

「さて。話、なんだが」


〈優斗〉

「はい」


〈都井先生〉

「...くどいようだが、本当に協力してくれるんだな?」


 そんな確認する程ヤバい内容なのか!?


〈優斗〉

「ほ、法に触れるのは勘弁してください...!」


〈都井先生〉

「...そこまでの事を生徒であるお前に頼む訳がないだろ」


とりあえず俺はホッと一安心。協力すると言っても、犯罪の片棒を担ぐつもりはない。


〈都井先生〉

「ただ、お前が協力することで好転するか悪化するか分からないこと...ではある」


〈優斗〉

「なるほど。単純な力仕事とかではない...って事ですか」


〈都井先生〉

「そうだな。では、本題に入らせてもらうが...先週の木曜日に、一年生の男子が女子トイレに入った事を...知ってるか?」


 一年生の男子が女子トイレに入った...?は?なんだそれ。先週の木曜...ってことは9日か。


旭葵と約束して、会長とお弁当食べて、歓迎会をした...俺にとっての始まりのような日。


〈優斗〉

「いえ、今初めて知りました。警察沙汰とかにでもなったんですか?」


故意なら、そうなってもおかしくない。盗撮目的とかなら余計に。


〈都井先生〉

「いや、そこまではいってないが...まぁ一年の間では結構有名な話らしい。本人曰く、見間違えただけらしいが...どうだろうな」


〈優斗〉

「...なるほど、その事件の真相の捜査を...って無理じゃないですか?」


そんなの嘘発見器的なのでもなけりゃ証明できない。でも女子トイレと男子トイレを見間違えるか?


そもそも入った瞬間分かりそうな物だが。聞いてた感じだと、入ってすぐに気付いて出た訳でもないのだろう。


〈都井先生〉

「いや、違う。そんな事を頼んだりしない。ぶっちゃけ私的にはその真相はどうでもいいと思ってる」


 どうでもいい...は言い過ぎでは?犯罪だぜ?普通に。でも、それよりも優先するものがあるらしい。


〈優斗〉

「じゃあ、俺は何をすればいいんですか?」


〈都井先生〉

「その女子トイレに入った男子生徒が、不登校になってしまった」


〈優斗〉

「...なるほど」


確かに俺がその状況だったら、まともに学校になんて行けないかもしれない。


警察沙汰にはならなかったものの、下手したら女子全員に敵視されているのではないだろうか。


一年には他にも男子がいるとはいえ、女子の割合がほぼ占めているのは変わらないし。


 ということは話の流れ的に...


〈優斗〉

「俺がその子を学校に連れ出す...ということですね?」


〈都井先生〉

「そういうことだ。ただ、関わり方には注意して欲しい。担任が電話しても本人は出ないし、家に行っても部屋から出てこなかったらしい」


〈優斗〉

「なるほど。だから俺が関わる事によって好転する可能性も悪化する可能性もありえると。...ちょっと待ってください!」


〈都井先生〉

「なんだ?」


 妙に、気になる事がある。さっきから人伝に聞いたみたいな言い方だし、実際まぁそうなのだろうが。


〈優斗〉

「なんでその生徒の担任でもない先生が、こうやって学年も違う俺に頼んでいるんですか?」


都井先生からしたら、他の学年の生徒が不登校になったところで、大したダメージが無い...どころか無傷だろう。


わざわざ解決する為に俺を使ってまで動こうとしている、その動機が知りたい。


〈都井先生〉

「あぁ。確かに言うべきだったか」


〈都井先生〉

「その生徒の担任が、私の友人なんだ」


〈優斗〉

「なるほど...え?まさか、それが男の先生でいい関係になりたいとか言いませんよね?」


私的に俺を使って、恋愛に発展させようとか考えられていたら笑う。


〈都井先生〉

「いや、女だ。私に男の友人なんている訳がないだろ。...おいなんか悲しくなってきた。執事の格好でもして笑わせてくれ」


〈優斗〉

「な、なんかすみませんでした。でも執事イジりは辞めてください」


〈都井先生〉

「まぁ、とにかくだ。私はその友人の力になりたい。その為にタダで使えるし、その生徒と同性のお前にこの話をした。どうだ?協力、してくれるか?」


 都井先生がファイルに入った、書類をちらつかせる。ここで同意したら、更に詳しい生徒の情報を知ることになるのだろう。


〈優斗〉

「先生には恩もありますし、協力したいと思ってますが...ちなみに断った場合は?」


〈都井先生〉

「お前を力仕事メインで使いまくってやる」


先生の目がガチだ。元より手伝う気だったので、問題ないっちゃないが。


〈優斗〉

「...わかりました、やります。ただ上手くいくとは言い切れないですよ?」


〈都井先生〉

「そこはお前の手腕の見せどころ、だな。くれぐれも悪化はさせるなよ?」


悪化とはこの場合退学や、最悪命を...ということになるのだろうか。それは責任重大だな。


〈優斗〉

「先生から貰った初仕事です。精一杯頑張りますよ」


〈都井先生〉

「では、その生徒の住所や名前、電話番号はこのファイルの中に入っている。個人情報だ。取り扱いには十分気をつけて欲しい」


〈優斗〉

「わかりました」


先生から書類の入ったファイルを手渡される。


〈都井先生〉

「以上で話は終わりだ。可能なら今日の放課後にでも、寄ってみて欲しい。何か進展があれば、学校で私を呼んでくれたらいい。他に何か質問はあるか?」


〈優斗〉

「そうですね...一つ、いいですか?」


〈都井先生〉

「なんだ?」


〈優斗〉

「生徒会メンバーを一人、連れて行ってもいいですか?」


〈都井先生〉

「...誰を連れて行くつもりだ?」


〈優斗〉

「うーん。まだ決めてませんが、俺一人よりも成功率が上がるのは間違いないと思います」


〈都井先生〉

「...この件は私とお前だけの間で済ませたかったが。まぁ、お前が信用できると思うなら好きにしろ」


〈都井先生〉

「ただ、これは生徒会の仕事じゃない。私の名前を出すのはいいが、私から頼むことはできないぞ?」


〈優斗〉

「わかりました。そこは自分でなんとかします。連れて行く許可を取りたかっただけなので」


〈都井先生〉

「もう質問はないな?これでこの話は終わりだ。成功したら、そうだな。スイーツぐらいは奢ってやる」


〈優斗〉

「それは...楽しみです。二人分、お願いしますね」


〈都井先生〉

「分かった」


〈優斗〉

「では先に。失礼します」


鍵を開けて、ファイルを持って生徒指導室を出る。


 さぁ、誰を連れて行こうか...


スイーツという報酬が出るのはでかかった。


俺との仲も良好で、不登校の生徒と同じ学年、尚且つスイーツ好きな如月夏,利奏なら着いてきてくれる可能性が高そうだ。


あ〜でも、会長がもし着いてきてくれるなら絶対頼もしいだろうな〜。


 って!


今考えたら秘密の割には先生に連れ出された後に、個人情報の入ったファイルを持って教室に帰ってくるって...結構ガバガバだな!


ファイルの中身は絶対見せない方向で...とりあえず今は之愛辺りにバレないように適当な言い訳でも考えておくか。

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