第17話 コスプレ任命式

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今日は任命式の日。この為に昨日3人で、買い物と打ち合わせをしたのだ。


利奏は夜ご飯前に帰ったので、今は如月夏と二人学校へ向かっている。


〈如月夏〉

「本当にやるの...?」


〈優斗〉

「そりゃもちろん。もう会長に許可は取ったし、今更逃げれないぜ?」


〈如月夏〉

「うぅ...学校までの道が遠いよぉ...」


一応会長に許可は得ている。俺は連絡先を知らないので、会長と連絡先を交換していた如月夏を通して連絡させてもらった。


返事は「面白そう、いいですね!」と二つ返事でOKをもらえた。旭葵には反対されそうだったので、サプライズにすることにした。


〈優斗〉

「まぁ、最悪スベったとしても3人で思い出として共有できるから。あのステージに黒歴史あるの今んとこ俺だけだし」


〈如月夏〉

「そんな前提やめてよ!?...別にあのスピーチ私は悪くないと思ったけどなぁ、"ゆう兄ぃらしいスピーチだな"って思ったよ」


〈優斗〉

「そうか?それならまぁ...いいか」


主人公と矛盾していなかったのなら、特に問題は無いか。


〈優斗〉

「任命式、絶対成功させてやろうぜ」


鞄の他に手に持った荷物を、如月夏に見えるように持ち上げた。


〈如月夏〉

「まぁ、やるからには本気でやりますとも!」


なんだかんだノリの良い如月夏にも救われる。任命式が楽しみだ。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



〈之愛〉

「今日の任命式出るって聞いたよー!頑張ってね〜優斗!」


〈優斗〉

「ありがとう。頑張るよ」


教室で、之愛に話しかけられる。


俺の生徒会入りはもうみんな知っている。


会長とゲーム部に凸った日の朝、生徒会入りを応援してくれていた之愛に話したら、そこから広がっていってしまった。


別に隠すことでも何でもないので全然良いのだが。


 俺としては之愛だけでなく、旭葵とも話したいところだ。


"おはよう"ぐらいは言い合う仲にはなったが、休み時間や空き時間に話す程は仲良くなれていない。


最低限シカトはしないようにしてくれているので、話しかけてみてもいいが...


話を振ってくれる会長や如月夏,利奏と違って、旭葵からは用がある時以外は話しかけられない。


ということで、まぁ俺にはハードルが高い。


任命式のことを話すのは、この後のHRホームルームが終わって生徒会のメンバーで体育館に集まってから明かすことになってるし。


〈之愛〉

「そういえば、前になにか水倉さんとあったみたいだけど、もう平気なの?」


〈優斗〉

「え?...あぁ!うん、もう大丈夫。なぁ、水倉」


〈旭葵〉

「え!?...そうね、解決したわ」


確かに前、之愛をダシに旭葵と和解したことあったな!...なかなか之愛にツッコまれなかったのでもうすっかり忘れていた。


〈之愛〉

「良かった〜!一部では、"優斗が水倉さんを密室で襲ったんじゃないかー"とか言われてたからね!そんなこと、優斗はしないよね!」


之愛の話を聞いてて冷や汗が止まらなかった。実際には故意ではないが...。


〈旭葵〉

「そうよね〜、有海くんはそんなことしてないわよねー?」


確かな圧を彼女から感じた。目が笑ってないですよ!旭葵さん!!


〈優斗〉

「ソンナコトシマセンヨ」


〈之愛〉

「なんか怪しい!?」


之愛をダシにしたしっぺ返しが来た。どうやらあの時に情報を残しすぎたようだ。


〈優斗〉

「俺はケダモノじゃないですよね!水倉様!」


〈旭葵〉

「それはまだ私には分からないわね」


〈優斗〉

「水倉様!?すまん之愛、弁明は出来ないが俺を信じてくれ!」


〈之愛〉

「えぇ...でも、わかったよ、信じる」


〈優斗〉

「素直!!」


"信じてくれ"と言いはしたが、そんなに簡単に信じてしまっていいのだろうか。いつか壺を買わされそうな素直さだ。


〈之愛〉

「だって水倉さんがこんなに楽しそうに喋ってるの、初めて見るもん。それはきっと、優斗と仲良くなったのがきっかけだろうし」


〈優斗〉

「そう...なのか?」


之愛なりに俺を信じる理由はあったらしい。


楽しそう...か。楽しそうというより、自分が話題に挙げられて無視できないような状況にされてる感があるが。


俺の席に之愛が来てるので、必然的に隣の席の旭葵には、俺らが喋ってる内容が耳に入ってくるだろうし。


...というか之愛の話し方的に、去年之愛は旭葵と同じクラスだったのだろうか。そんな感じがする。


〈旭葵〉

「...無愛想で悪かったわね」


〈之愛〉

「全然そんなんじゃなくて!なんか水倉さん"孤高"ってイメージあって、私もあまり話せなかったから...」


之愛が、旭葵のすぐ目の前まで行き、旭葵に向かって手を差し出した。当然旭葵は訳も分からず目をぱちくりさせている。


〈之愛〉

「私と、お友達になって下さい!」


〈旭葵〉

「え...」


〈之愛〉

「ずっと水倉さんと仲良くしたいって思ってました!」


〈旭葵〉

「...私と?理由を、聞いてもいいかしら」


〈之愛〉

「理由!?うーん...ただ仲良くしたいってだけじゃ、ダメ?水倉さんとも一緒にお買い物行ったり、スイーツ食べたりしたいな」


〈之愛〉

「だから...さ、友達になろ!私あんまり頭良くないけど、きっと仲良くなれる...ううん、仲良くなりたい、です!」


旭葵は之愛の真っ直ぐな瞳を見て、おずおずと差し出された手を握った。


〈旭葵〉

「...そこまで言われたら、その...仕方ないわね。友達に...なってあげてもいいわよ」


頬を染めて目を逸らしながらだったが、旭葵は確かに之愛に心を開いた。


〈之愛〉

「やったー!!"旭葵"って呼ばせてもらうので、私のことは"之愛"って呼んで下さい!」


〈旭葵〉

「わかったわ、之愛」


〈之愛〉

「仲良くしようね、旭葵!」


〈周りの女子〉

「「おぉ〜」」


〈旭葵〉

「なに、かしら」


その光景を見物していた周りの女子が拍手しだしたので、俺も合わせて拍手した。


旭葵は見られていたと思っていなかったのか困惑している。


之愛は、その人当たりの良さから人気者だ。それに旭葵と話してるとなったら、当然注目される。


〈女子A〉

「君も混ざったら?」


〈優斗〉

「俺は...」


〈女子A〉

「水倉さん困ってるよ?」


〈優斗〉

「...わかった」


俺と旭葵の仲を何か勘違いされているような気がするが。


俺は席を立ち、一歩距離を詰める。もともと隣の席だったが、旭葵のすぐ目の前まで移動する。


旭葵は俺を見て、身構えた。その行為は、俺にもっと、彼女との関係を深めたいと思わせた。


〈優斗〉

「俺も、もっと水倉と仲良くしたいなって、思ってます!」


〈旭葵〉

「有海くんまで!?」


〈之愛〉

「おぉー!優斗もいっちゃえー!」


〈優斗〉

「だから、その...俺も"旭葵"って呼んでいいですか!!」


〈旭葵〉

「それは絶対イヤ!!」


この波に乗れば行けるかと思ったが断られてしまった。...まぁゆっくりと仲良くなれれば良いか。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



HRが終わり、1時間目の任命式が始まる前に体育館に向かう。


旭葵を先に行かせて、誰にもバレない様に男子トイレの個室で着替える。前髪もあげて、鏡を見る。


おぉ!コイツ超カッコいいな!!


さすがは美少女ヒロインのハートを射止める男(予定)だ。


如月夏達が来るのが楽しみだ。一応サイズ確認の為に各々部屋で着替えたが、姿を見るのは当日のお楽しみとなっている。


俺がずっとワクワクしている理由は主にコレ。


さぁ、イメチェンもしたし体育館に行くか。


〈優斗〉

「よう、水倉1人か。お待たせ」


〈旭葵〉

「有海くん、来たのね...って本当にコレ有海くん!?しかもなんでそんな執事の格好なんてしてるの!?これから任命式よね!?」


旭葵にはサプライズという事で何も知らせてないのだが、予想の倍以上驚いてくれた。これはサプライズしがいがあったな。


そう、俺がしたのは執事の格好。顔良し,スタイル良しの主人公なら絶対似合うと思ったが、面白いほどに似合う。罪な男だぜ。


と、執事が居れば当然...


〈利奏〉

「すみません遅れました!おぉ!先輩めっちゃ似合ってますね!ちょっとカッコいいなって思っちゃいましたよ!あ、メイド利奏、今参りました!!」


メイド姿となった利奏が先に現れた。と、


〈如月夏〉

「すみません、着替えてて遅れました!あ、お兄ちゃんも............うん。似合ってるね!」


少し遅れてメイド姿の如月夏も合流し、メイドさんが2人となった。


って、絶対似合うと思ってたが、この2人のメイド姿可愛すぎるだろ!?破壊力抜群だ。目の保養なんてもんじゃない。たとえ今死んでも悔いはないレベルだ。


いや、悔いはあるか。欲を言えば旭葵と会長のメイド姿も見てみたかったな。


...ここで一旦冷静になる為に少し解説を挟むが、エロゲとメイド服といえば、まぁ何かと縁がある要素だ。


中でも学園もののエロゲでは大体のヒロインが文化祭やらでメイド喫茶をして、メイド服を着ることとなる。


というか、もともとメイドのヒロインさえいるぐらいだ。


じゃあ俺もわざわざ任命式にしなくても、文化祭にメイド喫茶をすればいいだろと思われそうだが、理由は二つある。


一つは俺が文化祭まで居られる保証がない事。


そもそも共通ルートがいつまでなのかもわからないので、メイド服を見れずに終わる可能性がある。


もう一つは単純、俺の夢だったからだ。


こうやって女の子のメイド姿を生で見る事が。エロゲー大好きな人なら、わかってくれる...きっと...多分。


〈優斗〉

「二人ともめっちゃ似合ってるぞ!可愛すぎる...!!」


〈利奏〉

「そ、そうですか?...ありがとうございます」


〈如月夏〉

「ありがとうお兄ちゃん!」


〈旭葵〉

「なんか私だけ置いていかれてる気がするけど、要するに執事とメイドの格好をして任命式をするってことでいいかしら?」


〈優斗〉

「その通り!」


〈旭葵〉

「...3人ともバカなの?」


驚きを通り越して呆れられながら旭葵にそう言われた。


〈優斗〉

「うおっ!直球火の玉ストレートが刺さる!」


〈利奏〉

「...昨日はノリだけでここまでやっちゃいましたが...今考えると私たちすんごいバカですね」


〈如月夏〉

「いまさら!?」


〈優斗〉

「冷静になるんじゃない!もう都井先生やその他校長先生を始めとしたいろんな先生にも確認取ってて、引き返せないんだから!」


そう、都井先生だけでなく、校長先生にも朝HR前に、職員室,校長室と訪ねに行き、一応確認を取った。ちなみに都井先生は職員室で爆笑しながらOKを出してくれた。


今日はその為に朝早くから如月夏と学校に赴いたのだ。つまり今更戻れない。


〈利奏〉

「胡依美さんにも許可をもらってますからね」


〈旭葵〉

「えっ胡依美先輩が...本当!?」


〈胡依美〉

「本当ですよ〜。遅れました、私で最後みたいですね」


会長がやってくる。さすがに会長は制服だが、旭葵は期待したのだろう。会長の声がした方を一瞬で振り返って、少しガッカリしていた。


〈胡依美〉

「先生にも確認は取ったみたいですし、いいんじゃないですか?好きなようにさせてあげても。何より生徒会を楽しんでもらいたいですし」


〈旭葵〉

「胡依美先輩がそう言うなら私に反対する気はないですが...。まぁ、3人とも頑張りなさい」


〈胡依美〉

「私も先輩として、出来ることはしますね」


〈優斗〉

「ありがとう。水倉に、北条先輩も。じゃあ、気合い入れてやりますか!如月夏、利奏、最後の確認するぞー!」


〈如月夏〉

「はーい!」

〈利奏〉

「やりましょー!」



⭐︎★⭐︎★⭐︎



1時間目の任命式が始まる。


全校生徒が集まった。


チャイムが鳴り、俺ら新任組の3人はステージ上に用意されてある椅子に座って待機している。


並び順は 利奏 如月夏 俺 となっていて、如月夏の3歩先くらいにスタンド型のマイクが置かれてある。


 思ったよりも、反応がないな。


メイドの格好した二人に加えて、執事の格好してる俺がステージで座っているということで、めちゃくちゃ目立っているはず。


でも思ったよりもざわつかれず、逆に俺が驚いてしまってる事態だ。


ちなみに会長と副会長である旭葵は、少し離れたところで司会を担当している。


〈旭葵〉

「それでは、これより任命式を始めます。起立!...礼...着席」


マイク越しに聞こえる旭葵の声。遂に、任命式が始まった。


〈旭葵〉

「この度生徒会に新しく加わる事となった新任役員3名を紹介させていただきます」


〈旭葵〉

「"書記"担当、一年A組 川瀬 利奏」


〈利奏〉

「はい!」


利奏は一度席を立ち、礼をする。ただメイドという事でただの礼ではなく、スカートの裾を両手でつまみ、恭しくメイドスタイル。


 やべぇ、めっちゃ萌える。


〈旭葵〉

「..."会計"担当、一年A組 有海 如月夏」


〈如月夏〉

「は、はい!」


如月夏も利奏と同じように礼をする。ほんの少し恥じらいが見えて、余計に萌えた。


一方旭葵は、何も聞かされていないので、もう顔が怖い。だが本番はまだこれからだぜ?


〈旭葵〉

「......"庶務"担当、二年A組 有海 優斗」


〈優斗〉

「はい」


俺は本物の執事のように、左手を前に出し腹部へ、そして右手を後ろに回し、礼をする。


実は昨日結構練習をした。と、明らかに旭葵が嫌そうな顔をしたので、会長が司会を変わった。


〈胡依美〉

「新しく役員となった3名には、これから生徒会活動をしていくにあたっての公約を発表してもらいます。まず川瀬利奏さん、お願いします」


指名された利奏は先程のようにメイドらしい礼をして、マイクの前まで行き、スイッチをいれる。と、大きく息を吸って、


〈利奏〉

「はっじめまっしてー!!書記メイドの、りなでーーっす!!」


体育館を静寂が支配した。


 地獄かここは。


...利奏が今喋っている内容は、俺の考えた公約だ。自分で書いておきながら、俺は血の気が引いていくのを感じた。


そして俺と如月夏は恐怖に震えた。この後俺たちも似たような事をするのか...と。


あぁ、やっぱりノリだけであんなことするんじゃなかった...



〜〜〜優斗の回想〜〜〜



〈利奏〉

「ぜんっぜん公約思いつかないよ〜!どうしよ!?」


〈優斗〉

「真面目にやるのか、それとも衣装に沿ってやるのか...悩みどころだな」


〈如月夏〉

「真面目にしよ!!格好だけで大分おかしな事になっちゃってるんだから!」


〈利奏〉

「うーん...二人のなら、公約かけそうなんだけどなぁ...」

 

〈利奏〉

「そうだ!」


〈利奏〉

「自分以外の二人の公約を書いて、読ませるってのはどう?」


〈優斗〉

「面白そうだけど...でもそれだと2つ読むことにならないか」


〈利奏〉

「んーじゃああの流行ってる"右左どっち?"で決めよ!」


〈優斗〉

「あれか!あの回答者の目隠したり、背後に立ったりして右か左で選ばせるヤツ!」


〈利奏〉

「そう、それです!」


〈優斗〉

「じゃあ、さっそく二人の公約を書いてやるぜ...あ!他人事だと思ったらすげぇ筆が進む!!」


〈如月夏〉

「え?ちょっと待ってよ...まさか私も!?」


〈利奏〉

「地獄まで着いてきてもらうよ?きさ」

〈優斗〉

「もう衣装は買っちゃって決定事項だし、今更大したダメージにはならないだろ」


〈如月夏〉

「やるって言うんじゃなかったぁぁぁ」



〜〜〜回想終了〜〜〜



 まさかここまでスベるとは...。


周りを見てみると会長はニコニコと、旭葵は驚きを隠せない様子で、都井先生は笑うのを必死で抑えていた。


〈利奏〉

「公約はですね〜!"ここにいるみなさんを笑顔にすること"です!」


〈利奏〉

「私が生徒会に入ったからには、皆さんに笑顔満点の学校生活を送ってもらいますからね!ではみなさん、私がせーのって言ったら"りなー"って言って下さい!行きますよー」


会場はうんともすんとも言わない。


地獄すぎる。なんだこの空気は。


でも何より、この空気の中でここまでのポテンシャルを発揮できる利奏に、最大限の敬意を表したい。


それにこの雰囲気にしてしまったのは、俺の書いた公約のせい。責任は取るべきだ。


〈利奏〉

「せーの!!」


〈如月夏〉

「り–––」

〈優斗〉

「りなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


俺は思いっきり叫んだ。生徒達からもらえる予定だった声の代わりになれるように。


〈利奏〉

「...先輩、」


小さく、すぐ後ろの俺と如月夏にしか聞こえないような、マイクにも入らない声で利奏が呟き、


〈利奏〉

「ありがとうございました!」


今度はちゃんと大きな声で言った。言い終えた後に利奏はくるっと振り返って、俺を見てニコッと笑った。


 その笑顔が、俺には眩しくて。ステージの上なのに、ついドキッとしてしまった。


そして利奏はもう一度生徒の方を向いて、スカートの裾をつまんでメイドらしく礼をして座った。


 や、やりきりやがった...!!


会場の空気は依然死んでいる。なんでこんなことをやってしまった...と俺は後悔していたが、彼女は悔いのないようにやって見せた。


 次は、如月夏の番だ。


〈胡依美〉

「では次に有海如月夏さん、お願いします」


〈如月夏〉

「は、はい!」


如月夏は、明らかに緊張してるのが目に見えた。こっちが緊張してしまうほどに。


〈如月夏〉

「この度会計を担当する事になりましたっ!銀髪天使のメイドアイドル、き...きさきさでーす!」


言い切って如月夏の顔が一気に赤くなった。


如月夏が引いたのは、利奏の考えた公約。内容自体は俺も知らない。


ちなみにこの公約の書いてる内容がヤバい順に並べると、推測でしかないが、利奏>>>俺>>>>>>如月夏の順となる。


つまり、俺と利奏は如月夏の書いた公約を引けば2分の1で助かる可能性があったが、如月夏にとっては完全ハズレくじ。更によりにもよって利奏の公約。


〈如月夏〉

「き、きさきさの公約はね、"みんなの望みを叶えること"だよ!何か困ったことがあったら、きさきさに、いってねー!」


〈如月夏〉

「あなたのハートをずっきゅーん!以上みんなのメイドアイドルきさきさでした!」


如月夏は顔を終始真っ赤にしたまま、素早く普通の礼をして座った。


如月夏もやりきった。一年生の二人がやりきったんだ。俺が逃げる訳にはいかない。


〈胡依美〉

「では最後に、有海優斗さんお願いします」


〈優斗〉

「はい!」


俺は椅子から立ち、マイクの元へ行き、執事らしく一礼。そして、


〈優斗〉

「お前らぁぁぁ!!青春、しているかぁぁぁ!!」


そう声を張り上げた。返事はナシ...かと思ったが。


〈利奏〉

「してまーーす!!」

〈如月夏〉

「う...うおー!」


背後から返事が来た。そうだ、俺は一人じゃないんだ。気合い入れていけ!


もはやこの最初の一言で説明不要だが、これから喋るのは利奏の考えた公約。


〈優斗〉

「俺の公約はただ一つ。"この学校を青春で埋め尽くすこと"だ!!」


〈優斗〉

「泣いている子がいたら青春させ、怒っている子がいたら青春させる!!俺は青春に燃える熱き青春モンスターだぁぁ!!」


〈優斗〉

「わかったかぁぁぁぁ!!俺は雑務担当のゆうちゃんだぁぁぁぁぁ!!これからよろしくぅぅぅぅぅ!!」


そして右腕を高く突き上げた。


やりきった...やりきったぞ!!


〈胡依美〉

「ありがとうございました。新しい役員となった皆さんに、盛大な拍手をお願いします」


 パチパチパチパチ。


会長の温情で拍手だけは貰うことができた3人だった。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



〈如月夏〉

「もう学校いけないよぉ!」

〈優斗〉

「ヤバいすげぇ死にたくなってきた」

〈利奏〉

「私たちはなんでこんな事をしてしまったんでしょう...」


ステージ裏に戻り、俺たちは我に帰った。全員もれなく黒歴史をステージに刻むことになった。


だって、もう少し盛り上がるものだと思ったんだもん。女子生徒が殆どだから...か?


〈旭葵〉

「...これからもちゃんと生徒会で働いてもらうわよ?」


〈優斗〉

「本当にすみませんでした!」


旭葵に睨まれる。まぁ、これで生徒会の評判が落ちたら完全に俺らのせいだ。失った信用は働いて取り戻すしかない。


〈旭葵〉

「呆れて物も言えないわ〜、3人ともホントに何やってるんだか」


〈利奏〉

「...それにしても、もう少し盛り上がってくれてもいいと思います!ノリがキツかった自覚はありますけど、あんなにシーンってしなくたって...」


〈如月夏〉

「私はなんとなくこうなる気がした...」


〈優斗〉

「ほんとに誰も反応しなかったな。全員人形って言われた方がしっくりくる」


〈胡依美〉

「こうなってしまっては仕方ないので...切り替えてこれからも、頑張りましょう!」


〈優斗〉

「はい...今日は特に働かせて頂きます!」


会長の優しさが心に染みる。本当にこの世の地獄みたいな任命式だった。


この後生徒会内では、"公約"・"メイド"・"任命式"の3つは禁止ワードとなった。


帰ったらこの執事の服をしばらく封印しよう。


俺はそう心に誓ったのだった。

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