第16話 二人でデート

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今俺は主人公の部屋で私服に着替えを済ましたところだ。やはりこの他人の身体を使っている感覚にはどうしても慣れない。


私服に着替えるだけでも一苦労だ。


今日は日曜で学校は休み。昨日は連日の疲れからか一日中ほぼ寝て過ごしてしまったので、今日はもっとアクティブにいこう。


情報を集める為に散歩とかでも行くか?もしくは日雇いのバイトとかでもいいかもしれない。


と、ノックもなしに部屋のドアが開いた。


〈利奏〉

「おはようございます先輩。入学早々ダラけてるみたいですね〜きさから聞きましたよー?昨日ずっと寝てたって」


〈優斗〉

「おはよう。最近いろいろ忙しかったからな...って利奏、来てたのか」


私服姿の利奏は初めて見たかもしれない。女の子って感じでめちゃ可愛いな。


〈利奏〉

「はい、ついさっき来たばかりですが。先輩こそ着替えてどこか行くんです?」


〈優斗〉

「特に行く場所は決めてないけどな、なんとなく」


〈利奏〉

「そうですか〜...私に着いて来て欲しいです?先輩がどうしてもって言うならしてあげてもいいですよ?」


で、デート...だと!?それはすごい...魅力的だ。


〈優斗〉

「...どっちでも」


だが漢優斗。ここは簡単にデレる訳にはいかない。


〈利奏〉

「あー!先輩、そこは土下座で頼み込むところですよ〜?」


〈優斗〉

「着いてきてくださいお願いします!!」


しっかり地面に頭を擦り付けて完璧な土下座を披露する。一瞬で俺の決意は折れた。


〈利奏〉

「よろしい!」

〈如月夏〉

「入るよ〜」


と、今度はドアがノックされ如月夏が部屋に入ってきた。そしてまじまじと俺の土下座を見られる。


〈如月夏〉

「え...?何で利奏に土下座してるのゆう兄ぃ」


〈優斗〉

「流れでつい」


〈如月夏〉

「どんな流れっ!?って、そんなことより、利奏そろそろ始めるよ〜。あ、ゆう兄ぃも一緒にする?」


〈利奏〉

「そうだ...すみません先輩、土下座までさせましたが、やっぱり着いていけないです」


〈優斗〉

「これから二人で何かするのか?」


〈如月夏〉

「任命式の公約を考えようかなって。式明日だし」


〈優斗〉

「忘れてた...」


〈利奏〉

「私も...」


〈如月夏〉

「この為に今日利奏に来てもらったんでしょー?」


〈利奏〉

「その通りです...」


〈優斗〉

「じゃあ俺も一緒に考えようかな。内容被ったらダメだろうし」


せっかく着替えたが、それよりも彼女達との時間を大切にする方がいい気がした。デート...は惜しいが、散歩ならいつでも行ける。


〈如月夏〉

「私の部屋でやる予定だったけど、ゆう兄ぃも参加するならこのままゆう兄ぃの部屋でいっか」


如月夏の部屋...気になる!如月夏の部屋が隣にあるのは知っているが、中に入ったことは実はない。


妹...とはいえ、俺にとっては他人だし、女の子の部屋ということで、男子校が生んだ紳士である俺には躊躇われた。


〈優斗〉

「如月夏の部屋でやりたいなー...なんて」


俺は好奇心からダメ元で特攻してみる。


〈如月夏〉

「ゆう兄ぃは私の部屋を出禁にしてるはずでしょ?...開けたら家族の縁切るからね?」


〈優斗〉

「...その通りです。すみませんでした」


過去に何やったんだ主人公。如月夏の部屋はタブーっぽいな。


如月夏が居ない時にこっそり入ってもバレないとは思うが...余計なことはするもんじゃないか。


〈利奏〉

「じゃあさっさと始めちゃいましょう!何か書けるもの持ってきますね〜」


〈如月夏〉

「私はお茶と何かつまめる物持ってくるねー!」


〈優斗〉

「あぁ、すまん」


そしてこの新任役員3名による"任命式対策会議"が始まったのだった。


〈優斗〉

「公約...ってどんな事言えばいいんだ?勝手に嘘八百並べれば良いみたいなイメージがあるが」


〈利奏〉

「ダメですよ〜先輩、そんなんじゃ二流です。真実の中に嘘を混ぜ込むのが一流なのです」


〈如月夏〉

「二人ともまず嘘をつくことから離れようか!」


嘘つき二人組は、真面目に考える気など無く、如月夏にツッコまれた。


〈優斗〉

「まぁでもあぁいうのってやる側は死ぬ程緊張するけど、見てる側は俺らが何言ったかなんて絶対覚えてないよな」


〈利奏〉

「確かに...じゃあもう逆にめちゃくちゃ印象に残るようなのします?」


〈優斗〉

「それいいな、賛成」


〈如月夏〉

「私は普通にやるからね?」


〈利奏〉

「如月夏だけやらないってのも、ある意味浮くかもよ?私と先輩がめちゃくちゃした後とかだったら」


〈如月夏〉

「え...まず二人とも何する気なの?」


〈優斗〉

「それは今から考える......あ、こんなのどうだ?まずは––」

〈利奏〉

「先輩、私だけに教えて下さい!きさはやらないみたいですし!そうですね...耳打ちとかでお願いします!」


〈優斗〉

「そうか?わかった」


利奏が悪い顔をしている。なるほど、如月夏も巻き込む気か。って耳打ちはさすがに恥ずかしい。まぁ、ここはやるしかないか。


〈優斗〉

「いくぞ」


〈利奏〉

「いつでもオッケーです」


俺は利奏のすぐ隣まで行き、利奏の小さくて可愛らしい耳を両手で覆い...


〈如月夏〉

「わかったよ!やる!やります!!だから仲間外れにしないで〜!!」


〈利奏〉

「やったー!」


涙目で参加することになった如月夏。


俺はホっと一安心する。このまま続けてたら俺の心臓が爆発するところだった。


〈優斗〉

「じゃあ改めて説明するぞ。何言うかは全く決まってないんだが、–––––ってのはどうだ?」


〈利奏〉

「それ、めっちゃ面白いですね!採用!」


〈如月夏〉

「やるって言っちゃったから付き合うけど...それ怒られない?」


〈優斗〉

「まぁ都井先生も特に確認とかしないみたいだし。何よりあの先生割とこういうの面白がるタイプだから、最悪なんとかしてくれる...って願ってる」


思い浮かぶのは俺の青春宣言で、一人だけ爆笑してた都井先生の顔。


〈如月夏〉

「本当...?まぁいっか。内容は真面目にすれば...」


〈利奏〉

「話し方も当然変えてもらうよ?」


〈如月夏〉

「やるって言うんじゃなかった!」


〈利奏〉

「じゃあさっそく、お店に行って必要な物買ってこよう!!」


〈如月夏〉

「肝心のスピーチの内容は!?」


〈利奏〉

「あとあと!」


〈優斗〉

「よっし!行くぞー!」



⭐︎★⭐︎★⭐︎



電車でデパートに行き、その専門の店に行って目当てのものを買うことができた。


〈優斗〉

「必要な物は買えたな...と、そろそろ腹が減ったな」


〈如月夏〉

「もうお昼の時間かー。フードコートでも行く?私ミックとかがいい!」


〈優斗〉

「誰それ!?...あぁ!!なるほど。いいねミック」


一瞬、人の名前かと思ったが、某ハンバーガーショップだと気づいた。


〈利奏〉

「ではミックにしますか!」



⭐︎★⭐︎★⭐︎



階をエスカレーターで移動してフードコートに行き、ミックに着いた。


やはり頭に浮かべていたミックで間違いなさそうだ。


それぞれ注文してトレーに乗せられたハンバーガー,ポテト,飲み物を受け取り、空いていたソファの4人席に如月夏,利奏が隣同士で、俺が如月夏の対面側となるように座った。


〈如月夏〉

「ハンバーガー美味しいね〜。あんまり食べたことなかったけど」


普段は如月夏が作っているからだろうか。あまりハンバーガーは食べないらしい。


〈利奏〉

「きさ〜そっちのも一口ちょうだい!私のも食べていいから!」


〈如月夏〉

「いいよ〜、はい」


〈利奏〉

「わーい!いっただきまーす!...うん、美味しい!」


〈如月夏〉

「私ももらうね〜...利奏の頼んだのも美味しい!」


二人仲良く味の違うハンバーガーを食べ合う如月夏と利奏。眼福眼福と。


ん?...勝手に静観に徹していた俺を如月夏と利奏が見つめている。


厳密には俺じゃなく俺の持っているハンバーガーに、だ。


〈如月夏〉

「ゆう兄ぃ〜、一口ちょうだい?」


〈利奏〉

「わ、私も!!いいですか?先輩」


〈優斗〉

「...どうぞ」


ちょっと待ってくれやばい。心臓ぶっ飛ぶ。

こ、恋人でもないのにこんなことして良いのだろうか...


〈如月夏〉

「うん、ジューシーで美味しい!」


〈利奏〉

「どれどれ〜、わ!本当に美味しい!先輩、その...私のも食べますか?」


〈如月夏〉

「あ、ゆう兄ぃも私の食べる?」


〈優斗〉

「け、結構です!!」


〈如月夏〉

「いらないの?あれ、なんかゆう兄ぃ顔赤くない?...って利奏も!!なぁんだ〜そういうことか〜お二人とも可愛いですな〜」


嬉しそうに弄ってくる如月夏。利奏も意識していたのか俯いている。先程と状況が逆転してしまった。


まさか俺の状況に自分も一役買っているとは毛ほども思っていないんだろうな。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



お昼を食べ終え、デパートを移動する。


〈如月夏〉

「スイーツ、食べたい人〜!」


スイーツ...か。別に甘いのが苦手とかではないけど、あんまり食べないな。


〈利奏〉

「はいはいはーい!!」


〈如月夏〉

「ゆう兄ぃはー?」


〈優斗〉

「まぁ着いてくよ」


〈如月夏〉

「え!!ゆう兄ぃもスイーツ大好きでしょ!?なんでそんな反応薄いの!?」


そうなのか!知らなかった。


〈優斗〉

「...わ、わーい!俺超楽しみー!」


〈如月夏〉

「まさか...まだ利奏との間接キスまだ引きずってるの!?さすがにウブすぎない!?」


〈優斗〉

「お、おい!やめろ!利奏に聞かれる!」


〈利奏〉

「...普通に聞こえてますけど。先輩ってそういうところありますよね。嫌じゃ...ないですけど」


〈優斗〉

「...そ、そうか」


〈如月夏〉

「ごめんもうスイーツいいや。うちに帰ってブラックのコーヒー飲みたくなってきた」


〈優斗〉

「じゃあ目的の物はもう買ったし、帰るか」


〈利奏〉

「そうしましょう、明日の作戦会議もしなきゃですし」


〈優斗〉

「そうだな」



⭐︎★⭐︎★⭐︎



〈優斗〉

「ただいま」


〈利奏〉

「おかえりなさい、先輩!」


〈優斗〉

「いや、利奏も今帰ったとこだろ」


〈利奏〉

「"ただいま"って言われると"おかえり"って言いたくなりません?」


〈如月夏〉

「確かにわかる!おかえり、ゆう兄ぃ」


〈優斗〉

「如月夏まで...まぁ何も言われないよりはそりゃ嬉しいな」


元は一人暮らしだったから、"ただいま"なんて言っても返事がないのは当たり前だった。それが今ではこんなに可愛い女の子が2人も返事をしてくれる。...幸せなことだ。


如月夏はさっさとリビングに向かったが、利奏は動こうとしない。


〈優斗〉

「どうかしたか?」


〈利奏〉

「いえ、結局3人でデートしちゃったな...って」


〈優斗〉

「...買い物とご飯を食べただけだろ?」


〈利奏〉

「まぁそうですが...」


どこか不服そうだ。デート...の認識は当然俺の中でもあったが、それをわざわざ口に出せるほど俺は肝が据わっていなかった。


〈利奏〉

「あ、先輩荷物ずっと持って下さってありがとうございました!」


〈優斗〉

「わざわざお礼言わなくても。もともと俺の案だし、年下の女の子に荷物を持たせて俺が手ぶらの構図は避けたいしな...」


〈利奏〉

「それでもですよ。そういうのがさらっとできるのは、先輩ポイントの加点対象です!」


〈優斗〉

「ちなみに貯まるとどうなるんだ?」


〈利奏〉

「さぁ、どうなると思います?」


小悪魔のように笑って聞き返す利奏。本当に揶揄うのが好きなんだな。可愛い。


〈如月夏〉

「二人とも、いつまでも玄関で話してないでさっさと上がった上がったー!明日の作戦会議、始めるよー!」


〈利奏〉

「きさが待ってるんでいきましょうか、先輩」


〈優斗〉

「あぁ、そうだな」


〈利奏〉

「ねぇ先輩」


〈優斗〉

「ん、どした?」


〈利奏〉

「今度は、しましょうね!」


利奏は悪戯に笑ってそれだけ言い残し、如月夏の元へと行ってしまった。


...やべぇ。可愛すぎてどうにかなってしまいそうだ。


それでも俺が落ちないのは、彼女が俺ではなく、主人公を見ているからだろうか。


その後、作戦会議が終わったのは夕方だった。


明日が楽しみで仕方ない俺と利奏に対し、逆に不安でしかない如月夏だった。

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