第15話 貧乏くじ
4/10 放課後
昨日は歓迎会という事で仲を深めてお開きとなったが、今日から正式に生徒会としての業務が始まる事になっている。
〈胡依美〉
「それでは、生徒会の仕事を始めます!」
〈如月夏,利奏〉
「はーい!」
生徒会メンバーは5人全員既に集まっている。都井先生は用がある時以外は基本生徒会には来ないらしい。
なので、部屋の鍵は会長が管理している。
〈胡依美〉
「まずは目安箱の確認をしましょう。旭葵ちゃん!」
〈旭葵〉
「はい!えーっと、用紙は...2つ入ってます!!」
〈胡依美〉
「2つも!初めてですね!」
〈優斗〉
「ちなみに普段はどのくらいの頻度で入ってるものなんですか?」
〈胡依美〉
「実は...ゴミ以外の紙が入っていたのは初めてなんです。なので少し感動してます」
〈優斗〉
「それは...本当に良かったです」
悲しいことをカミングアウトされた。
今まで0なのに日課として確認してたらしい。何より、気になるのはその内容だが。
〈旭葵〉
「...どうやら間違って入っちゃったみたいです!うっかりしてる人もいるのね〜!ということでこれは、私が責任を持って処分させていただきますね!」
2枚とも中を見て確認した旭葵が、焦ってその用紙を処分しようとする。...何が書いてあったんだ?気になる。
〈胡依美〉
「一応、見せてもらえますか?旭葵ちゃん」
〈旭葵〉
「え、え〜と...胡依美先輩はあまり見ない方が...」
〈旭葵〉
「見せてくださいますよね?」
〈旭葵〉
「は、はい...どうぞ...」
旭葵も会長には強く出れないらしい。尊敬してるって言ってたもんな。折り畳まれた2枚の用紙を会長に渡す。
〈利奏〉
「なんて書いてあるんですかね〜」
〈如月夏〉
「ね、めっちゃ気になる!」
俺もここまで焦らされると、内容が気になって仕方ない。...果たして。
〈胡依美〉
「..."生徒会長さんの今履いているパンツの色を教えて下さい"」
会長の一言を聞いた瞬間、比喩抜きで場が凍りついた。
ということはもう一枚の方も...
会長がもう一枚の方の紙も捲る。
〈胡依美〉
「..."会長のおっぱい揉ませてください。お願いします"」
...なるほど。旭葵が隠そうとした訳が分かった。
〈胡依美〉
「匿名で書かれていますが...男子生徒のイタズラ...でしょうか」
〈優斗〉
「一応言っておきますが俺じゃないです。多分一年の男子です」
〈胡依美〉
「わかってますよ優斗くん。...どうやら、目安箱の使い方が、分からない生徒がいるみたいですね」
笑顔で用紙をビリビリに破き出す会長。
ヤダ怖いっ!なんてことしてくれたんだ一年。
〈胡依美〉
「...目安箱は今日でおしまいにしましょうか」
〈旭葵〉
「そ、そうですね!もともと入ったことなかったですし!用があるなら私たちに直接言えばいいですもんね!」
〈如月夏〉
「ほ、他の仕事やりましょう!!胡依美先輩!ご指導お願いします!!」
旭葵と如月夏のフォローもあり、なんとか場の悪い空気が霧散した。
〈胡依美〉
「では、各部活の予算案などの書類のチェックをしましょうか」
隣の部屋にあるパソコンを使って、前年比と比べて報告書に見合った予算となっているかの確認をする作業へと移行した。
これで事態は好転する...かと思われたが、
〈胡依美〉
「...なんですかこの"ゲーム部"というのは。新設なので成果が無いのは仕方のないことですが、報告も用途すらなく予算100000円って...ふざけてるのですか?」
〈胡依美〉
「...そもそもこの部活、顧問の欄が空欄ではないですか!却下です」
普段丁寧で優しい会長だからこそ、あまり機嫌がよろしく無い時は、雰囲気が一瞬でガラッと変わる。
そして生徒会室は完全お通夜モードに。
〈如月夏〉
「わ、私この仕事やってみたいな〜!」
〈利奏〉
「私も!」
〈旭葵〉
「じゃあ、如月夏と利奏にさせてあげましょう!私が見てるので、胡依美先輩は少し休憩なさってください!!」
〈胡依美〉
「そ、そうですか?わかりました、そうします」
〈優斗〉
「じゃ、じゃあ俺はそのゲーム部とやらと話に行ってみますね」
俺も何かしないと、会長の相手をさせられそうなので逃げることにする。今の会長なら何に噛みつかれるか分かったもんじゃない。
〈胡依美〉
「待ってください優斗くん、私もご同行してもよろしいですか?」
〈優斗〉
「多分俺一人で大丈夫だと思い–––」
〈胡依美〉
「ご同行しても、よろしいですよね?」
〈優斗〉
「は、ひゃいっ!」
会長に圧力を掛けられ、為す術もなく了承。
〈胡依美〉
「では、行きましょう!」
静かに親指を立てて俺を見送る如月夏と利奏。旭葵は...もう俺の方を見ていない。
あれ?もしかして...いやもしかしなくても貧乏くじを引いてしまったのか!?
会長と二人でゲーム部とやらのある部室へと向かう。
生徒会室を出て会長と隣に並んで歩き出す。
〈胡依美〉
「私は、舐められているのでしょうか?」
〈優斗〉
「そんなことは...」
〈胡依美〉
「そうでなければ、あんな用紙など入りません」
〈優斗〉
「...」
これは...会長と二人なのにすげぇ気まずい。上手く逃げれなかった自分への罰だと思うしかないな。
〈胡依美〉
「ゲーム部は、一年生の男子が主体となって構成されているみたいです」
〈胡依美〉
「あの用紙を出した人の手掛かりを見つけて、予算の再検討をしてもらいましょう」
〈胡依美〉
「それでもし犯人が居た場合の作戦を考えてみました。––––––という感じで、お願いします」
〈優斗〉
「...はい、わかりました。どこまでもお供します」
作戦を聞かされるも、めちゃくちゃ不安だ。
その場合は悪いのは向こう側なのだが、場にいる全員を震え上がらせるのがもう目に見えていた。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
ゲーム部とやらがある場所についた。生徒会室程では無いにしても、そこそこ広い部屋を使っているらしい。
〈胡依美〉
「失礼します。こちらは、"ゲーム部"で間違いありませんか?」
〈男子部員A〉
「は、はい。そうっすけど...生徒会長さんが何か用ですか?」
1番近くにいた部員が応対をする。部屋には合計5人の部員がいた。
〈胡依美〉
「最初に一つ聞きたいのですが、この中に..."目安箱"にイタズラ用紙を投函した生徒はいますか?」
途端、部屋の中の全員が静まり返った。でもソワソワした生徒や目を逸らす生徒が多く、俺でも一目で何か知っているとわかった。
〈胡依美〉
「怒ってない...とは言いません。ですが、今後このようなことが起こって欲しくないんです。だから、何か知っているなら話してください」
被害者本人のはずなのに、あくまでも友好的に話す会長。
だが結局、待っても誰も名乗り出なかった。
これが犯人で一人だけなら名乗り出た可能性は高いだろう。でも集団でいると、心理的に自分が矢面に立ちたく無いと思うのは人間として当然のことで。
〈胡依美〉
「そうですか。...このままなら部活が無くなってしまいますよ?」
〈男子部員A〉
「はっ!?何言って...」
〈胡依美〉
「皆さんが私の差し伸べた手を拒絶したんです。それなら私が皆さんに味方する道理も無いですよね?」
圧倒的な威圧。俺なんて隣に居るだけなのに震え上がりそうだ。誰も言い返せないのを見るに、全員黒と見て良さそうだ。
〈胡依美〉
「まだ顧問の先生がどうやら見つかっていない様子ですね。顧問の先生が居ないのなら、部活動とは呼べません」
〈胡依美〉
「ここの部活の予算案が100000円...でしたっけ?例え私が許可しても、通る訳が無いですが。部活でないのなら、何円でも許可を出すつもりはありません」
〈男子部員B〉
「それは...でも、部屋だって先生に許可貰ってるし!」
〈胡依美〉
「その先生は、正式な許可を得て申請していません。そもそも顧問でないと部活動に使う部屋の申請は出来ませんよ?」
〈男子部員C〉
「なんだよそれ...ッ!!せっかく、俺達で部活を立ち上げたのにっ!!」
〈男子部員D〉
「クソッ!あんな事しなければ...ッ!」
〈男子部員E〉
「お前がやろうって言ったんだろうが!責任取れよ!!」
まさしく阿鼻叫喚だ。そろそろ、か。
〈優斗〉
「多分お前らは何か勘違いをしているぞ」
〈男子部員A〉
「勘違い...?」
〈優斗〉
「俺達は、この部活がどうなろうと知ったこっちゃ無い。この中にイタズラの犯人が居ようが居なかろうが、それは揺るがない」
〈男子部員B〉
「...この部活が消えたら、先輩達は"ザマァwww"ってなるんじゃないんですか?」
〈胡依美〉
「酷いこといいますね。私がそんな人間に見えますか?」
絶対見えない...とは言い切れないかも。あの用紙見た時あからさまに不機嫌だったし。
〈胡依美〉
「あー!優斗くん今見えるかもって思いましたね〜!!」
〈優斗〉
「北条先輩!それより、ゲーム部の皆さんとの話し合いの方!」
〈胡依美〉
「...そうですね。では気を取り直して。これで最後です。皆さんで話し合って、イタズラの犯人を知っているなら、教えて下さい」
〈男子部員A〉
「...おいお前ら、ちょっと集まれ」
⭐︎★⭐︎★⭐︎
〈ゲーム部全員〉
「「すみませんでした!!」」
話し合い後、男子部員達は一斉に会長に頭を下げた。
〈男子部員A〉
「あの用紙は、ゲームで負けた罰ゲームで...匿名で書けばバレないだろって!つい、ノリでやってしまいました...」
〈男子部員D〉
「提案したのは俺なんです!!だから...悪いのは、俺だけで...」
〈男子部員E〉
「いや、乗っかった俺らも同罪だ!さっきはその...責めてごめん...」
事の真相は、ただの罰ゲームだった。犯人はゲーム部全員。
会長はゲーム部の謝罪を見た後、一度"はぁ"と一息ついて、
〈胡依美〉
「仕方ないので、許してあげます。でも...次は無いですよ?」
〈ゲーム部全員〉
「「はい!!」」
謝罪を受け入れたのだった。
〈胡依美〉
「では、話し合いを再開しますか」
〈男子部員A〉
「話し合い...ですか?」
〈胡依美〉
「決まってますよ。顧問の先生と、部費問題の解決です」
〈男子部員B〉
「あぁ、顧問か...でも俺達入学したばっかで、担任の先生に部屋だけもらってるけど、先生は別の部活担当してるし他に宛もないしな...」
〈胡依美〉
「だから、話し合いなんですよ。少し待ってください...これが、今フリーの先生のリストです」
〈胡依美〉
「この中から顧問をしてくれる先生を探しましょう。必要なら一緒に掛け合ってあげます」
待ってましたと言わんばかりに、会長はスマホを取り出し、トークアプリの旭葵の通知から写真を取り出して見せた。
なんだよ、旭葵達も知ってたのか。それに、旭葵が会長を尊敬する理由も分かった気がした。会長は、強くて優しくて正しい。
旭葵もきっといろいろ助けてもらったんだろう。
〈胡依美〉
「部費も、用途とそれに見合う額にしてください。ノリで適当に100000円なんて書かれても困ります。提出するのは私たち生徒会なんですからね?」
〈男子部員E〉
「うぐ...本当にすみませんでした」
〈男子部員B〉
「でもなんで俺たちにそこまでしてくれるんですか?俺らはその...嫌われる事をしましたし、こちらの先輩が言うには、この部活がどうなっても知ったこっちゃないって...」
〈胡依美〉
「基本的には、そうですね。私も優斗君の考えと同じですが...」
〈胡依美〉
「でもその前に私は生徒会長で、君たちの先輩なんですよ?だから、後輩である君たちを正しく導こうとするんです」
〈胡依美〉
「皆さんも、いつかそんな先輩になってください。優斗くんも、ね?」
〈優斗〉
「は、はい!」
そう言って、俺にウィンクした会長がとても印象的だった。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
〈ゲーム部全員〉
「「本当にありがとうございました!!」」
結局顧問となってくれる先生も見つけて、部費の予算も7000円まで大幅カットされ、なんとか万事解決した頃にはもう夕方だった。
今はゲーム部から生徒会室へ会長と戻っている。
〈優斗〉
「そういえば、作戦の内容聞かされてたのにビックリしましたよ...絶対に北条先輩は怒らせないようにします」
〈胡依美〉
「優斗くんには貸しがありますし、あまり怒るようなことはないと思いますけど...」
〈優斗〉
「貸しって...アレですか?だからアレは俺本当になんもしてないです!というか、そのイメージ今回で吹き飛びましたよ!」
もうあのぶっ倒れたイメージは俺の中で消し飛んでしまった。それほどまでに会長は凄い人だった。
〈胡依美〉
「あれはもう忘れて下さい...一生の不覚です...」
会長から聞かされたのは"飴と鞭作戦"。俺は歯止めが効かなくなってきた時用の保険でしかなかったが、それで充分だった。
この作戦は、ただ許すだけで終わってしまっては、また人を平気で傷つけてしまうのではないかと、会長が優しさで考えたもの。
会長曰く、一年生に舐められたままなのが許せなかったらしいが。
"もしイタズラ用紙と全く関係無いのなら、目を見れば分かります!"と、自信満々に会長が言っていたので信じたが、俺でも分かってしまうレベルの誤魔化しだったな。
〈胡依美〉
「貸しのことですが、君が生徒会に入ってくれたことが一番嬉しいんですよ。旭葵ちゃんも、君のことを嫌っているようには見えないですし」
〈優斗〉
「旭葵には、少しずつ慣れてもらえたら嬉しいです。俺も旭葵と仲良くする気満々なんで!」
〈胡依美〉
「あっ!優斗くんまた旭葵ちゃんを名前呼びしてますね!」
〈優斗〉
「あぁぁ!!今のナイショでお願いします!!水倉!水倉です!」
〈胡依美〉
「旭葵ちゃんとも上手くやれそうで良かったです」
会長はなんか"先輩"って感じだから間違えないが、旭葵は旭葵呼びが一番俺の中でしっくりくるので、ついそう呼んでしまう。本人の前では恥ずかしくて呼べないけど。
〈優斗〉
「あ、生徒会室まだ電気ついてますね。待っててくれてたのかな。どうします?今日もお祝いパーティーやりますか?」
〈胡依美〉
「なんのパーティーですか?」
〈優斗〉
「ゲーム部が正式に部となったパーティーですよ」
〈胡依美〉
「それは...いいですね!ジュースとお菓子ぐらいならありますよ。さすがにケーキは無理ですが」
〈優斗〉
「え!?冗談で言ったんですが本当に良いんですか?俺今日別に何もしてないですよ?」
〈胡依美〉
「じゃあ私がやりたがってる!ってことにしてください」
〈優斗〉
「それは俺が悪いんで、二人でみんなに頼みこみましょうか」
〈胡依美〉
「ではそれで行きましょう」
その後、暗くなるまで生徒会室に残って俺たちは5人で談笑した。
結局目安箱はそのまま残されることになった。
後日、ゲーム部からお礼の手紙が入っていて会長が「結局目安箱の使い方がわかってませんね」と微笑んだのはまた別のお話。
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