第13話 会長とお弁当

4時間目を終え、待ちに待った昼休みになった。"庶務"の役割が駄目だったら、結局振り出しとなってしまう。


と、隣の旭葵あさぎがお弁当を持って席を立った。恐らく生徒会室に行くのだろう。


〈優斗〉

「生徒会室で食べるんだろ?一緒に行こうぜ」


〈旭葵〉

「げ...なんであなたがついてくるの?」


〈優斗〉

「まぁ俺は都井先生に呼び出されてるからな」


〈旭葵〉

「そうなの?じゃあ私は行かない方がいいわね」


〈優斗〉

「いや、別に来てもいいと思うぞ。無関係ってわけでもないし」


〈旭葵〉

「遠慮しておくわ。あまりあなたと2人で動いて変なウワサされたら嫌だし」


〈優斗〉

「そか。んじゃ、行ってきまーす」


ちゃんと話してはくれるものの、まだまだツンは強めだな。まだ2日目だし長い目で見れば大きな進歩だろう。


俺は弁当を持って教室を後にする。


因みにこのお弁当は如月夏が作ってくれたものだ。


朝ご飯担当は利奏りな(サラダは如月夏きさな)だったが、お昼のお弁当は如月夏となっていた事を今朝3人で登校する際に聞いた。


何か俺も手伝いたいが...如何せんあの皿洗い以来キッチンに入れてもらえない。


一人暮らしだったから最低限は料理できると思うんだが...


でもそれはそれで主人公と矛盾しちゃうのか...?


まぁ俺から変なアクションは起こさないに限る。どうせならこのままずるずる甘やかして貰おう。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



〈優斗〉

「失礼しまーす」


胡依美こよみ

「はい、どうぞ〜」


ノックして両開きドアの片側を開け、生徒会室に入る。と、先客が居た。それも都井先生ではなく、


〈優斗〉

「会長?普段はここでお昼を食べてるんですか?」


重箱に入ってるめちゃ高そうなお弁当だ。さすがいいとこのお嬢様。


〈胡依美〉

「そうですよ〜お邪魔でしたか?」


〈優斗〉

「いえ、そんな。あ、そういえば昨日あの後大丈夫でしたか?」


会長と言えば、ヤツが出てぶっ倒れてしまったイメージが強い。


〈胡依美〉

「その節は本当にご迷惑をお掛けいたしました!虫全般が...その、ダメでして...」


〈優斗〉

「俺も虫苦手なんで、気持ちは分かりますよ。でもこうして綺麗に片付いたようで良かったです」


生徒会室はちゃんと掃除されていた。床に埃一つない。俺が追い出された後、旭葵や先生が掃除したのだろう。


〈胡依美〉

「私は倒れてるだけだったので大丈夫でしたが、なにやら旭葵ちゃんと揉めたと聞きましたが...」


確かに揉めたな。2つの意味で。


〈優斗〉

「なんとか話し合って生徒会入りを許可して貰いました。1ヶ月のお試し期間みたいな感じですけど」


〈胡依美〉

「そうですか、それは良かったです!では生徒会に入られるのですね」


〈優斗〉

「まぁそのつもりですが...それは都井先生の結果待ちって感じですね」


〈胡依美〉

「結果待ち、とは?」


〈優斗〉

「それは––––」

〈都井先生〉

「入るぞー...おい、邪魔なんだが」


会長に説明しようとした途端、両開きのドアが開き都井先生が入って来た。


〈胡依美〉

「こちらに座りますか?」


〈優斗〉

「ありがとうございます」


ドア前で突っ立って話していたので先生の邪魔になってしまった俺を、会長が気を利かせて会長の向かい側の席に座らせてもらった。


わ、近くで見ると本当にすげぇなこのお弁当。


〈都井先生〉

「北条も居たのか。まぁ丁度良い、お前らにも関わる事だ」


〈優斗〉

「あ、都井先生!それより結果は!?」


逸る気持ちを抑え切れず、結果を聞く。果たして。


〈都井先生〉

「端的に言うと、通った。これからは"庶務"の役職が追加され、4人ないし5人で生徒会役員をすることができるようになった」


〈優斗〉

「よっしゃあ!」


これで、もう何人たりとも俺の生徒会入りを止められる者はいない。


〈胡依美〉

「庶務の役職の追加、ですか。...今年は一年生に二人の推薦が出ましたし、それに青春君が加わる、ということですね」


〈優斗〉

「...なんていうか。すごいですね。まだ何も説明してなかったのに」


一瞬でここまで状況を把握されるとは思わなかった。そう褒めると、真正面の会長に笑顔を返された。


〈都井先生〉

「まぁ、そういうことだな。あと形式状は、北条からの推薦という形になるが、それで本当にいいのか?」


〈胡依美〉

「はい、それで問題ないです。私、人を見る目は結構あるんですよ?」


教師よりも会長の推薦の方が効力があるとか言ってたし、それで確認が必要なのだろうか。


その確認に対して謎に自信ありげに答える会長。


〈都井先生〉

「分かった。じゃあ今日の放課後は、ここに役員全員集まってもらう。連絡は私の方でしておこう。書類の方も放課後持ってくる」


〈都井先生〉

「私からは以上だ。鍵を置いてくから、教室に戻る際は閉めていけよー」


〈胡依美〉

「わかりました〜」


鍵を置いて、都井先生が生徒会室を去り、再び会長と2人きりとなった。


〈胡依美〉

「お昼ここで食べますか?」


〈優斗〉

「もともとここで食べるつもりではいたんですが...俺が居て迷惑じゃありませんか?」


〈胡依美〉

「全然迷惑じゃないですよ。もしよろしければ、お話ししませんか?」


〈優斗〉

「俺でよければ」


OKを貰えたので、包からお弁当を取り出した。


〈胡依美〉

「そちらのお弁当は、手作りですか。ご自分で?」


〈優斗〉

「いえ、きさ...妹です」


〈胡依美〉

「そうですか。妹さんって、一年生の如月夏さんですよね」


〈優斗〉

「そうですが...会ったことあるんですか?」


〈胡依美〉

「いえ、役員候補として認識してるだけですよ」


〈優斗〉

「あーそうですよね」


〈胡依美〉

「それにしても...とても美味しそうですね」


お弁当を取り出し、食べながら話していると、会長が不意にそんなことを言った。食べたい...のだろうか。


確かにめちゃくちゃ美味しい。会長の高級そうな重箱と如月夏の料理なら、俺は如月夏の料理をとる。


単純に如月夏が作ってくれたってのもでかいが、料理も最高にうまいので最強だ。


〈優斗〉

「えーっと...食べますか?」


〈胡依美〉

「いいのですか!?」


目を輝かせる会長。...可愛い。


〈優斗〉

「はい、俺が作った訳じゃないですが」


〈胡依美〉

「では、このたまご焼きをいただきますよ?本当にいいんですね?」


〈優斗〉

「あ、はい。なんでもどうぞ」


ダシで巻かれたたまご焼きを会長が頬張る。お嬢様の会長だが、如月夏の料理はどうなのだろうか。


〈胡依美〉

「っ!とっても美味しいです!妹さん、とても料理上手なんですね!」


会長が幸せそうに食べるので、俺が特に何した訳ではないが嬉しくなった。


〈胡依美〉

「あ、私のお弁当も食べてみますか?とくにこれとかオススメなんですよ〜はい、どうぞ〜」


〈優斗〉

「ありがたく頂きたいのですが、すみません自分で取らして下さい!」


会長が口元まで箸を持ってくるので、危うくパクっと間接キスするところだった。


そういうのがしたいという願望はもちろんあるが、いきなりは男子校だった俺にはハードルが高すぎた...


〈胡依美〉

「青春君は、ずいぶんと紳士的なんですね」


〈優斗〉

「そのあだ名やめて下さい!なんかその...恥ずかしいんで...」


〈胡依美〉

「そうですか?可愛いと思いますが...」


〈優斗〉

「男は可愛さなんて要らないんです!」


〈胡依美〉

「わかりました...」


少ししゅんとしてしまった会長。言わない方が良かったか?でも一年間ずっと青春君呼びは...嫌だな。


慌てて俺はこの空気を変えれる話題を探す。


会長と俺との共通点...はっ!


〈優斗〉

「あ、会長!俺を生徒会に推薦してくださってありがとうございました!」


〈胡依美〉

「いえいえ、お気になさらずに。でも...そうですね」


彼女の纏っていた空気が一瞬変わった気がした。


〈胡依美〉

「私が君を推薦した理由、わかりますか?」


片目を閉じ、俺を試すように問いかける会長。


基本的には物腰柔らかで丁寧だが、都井先生に対しても一瞬だけ見せたように、たまに挑発的なところがあるなこの人。


俺を推薦した理由...か、、、


〈優斗〉

「昨日の片付けの謝礼...的な感じではなくて、ですか?」


最初に都井先生に会長からの推薦を聞いた時、パッと思いついたのはこれしかなかった。


俺は実際には途中で追い出されたので、あんまり活躍はしてないのだが。ヤツを殺ったのは先生だし。


〈胡依美〉

「いえ、違います。お礼はまた、謝罪を兼ねて別の形でさせて下さい」


〈優斗〉

「俺から吹っかけといてなんですが、実際は何もしてないのでお礼とかは本当に大丈夫ですよ」


〈胡依美〉

「そうですか?...では、代わりにヒントを教えましょう!ヒントはですね...推薦自体は始業式の後すぐにしました」


始業式の後...俺の青春宣言に影響されたってこと!?...なんか、違う気がする。いや、間違ってはないんだろうがしっくりこない。


もう少し、別の理由な気がする。そこで一つの可能性を思いついた。


〈優斗〉

「もしかして、旭葵と関係があったり?」


〈胡依美〉

「はい、あります」


〈優斗〉

「あいつの男嫌いの克服...とか?」


〈胡依美〉

「正解です!もともと、共学になるにあたって、生徒会に男子を入れるつもりだったんですよ?」


〈優斗〉

「それを旭葵が反対したんですね...あれ?じゃあなんで俺会長に推薦されたんです?」


〈胡依美〉

「あの式の後、旭葵ちゃん"彼なら怖くないかも"って言ってですね」


〈優斗〉

「それで俺を...ですか」


"怖くない"...か。優しいけど怒りっぽいとこあるし、勝手に"男は馬鹿だから嫌い"的なのかと思っていたが、想像以上に重症らしい。


だからこそ故意でないとはいえ、旭葵の期待を裏切った俺の罪は重い。


約束通り、旭葵の期待を裏切る事のないようにしなければ。


〈胡依美〉

「それだけじゃないですよ?私も、君の青春宣言を聞いて、すごく楽しいことが起こる予感がしたんです」


会長が俺を見つめながら、嬉しそうに微笑んだ。これからの日々にワクワクしているのは俺だけじゃなかったってことか。


〈胡依美〉

「だから、君を推薦したんです。これからよろしくお願いしますね、優斗くん!」


〈優斗〉

「はい、よろしくお願いします。会長」


会長とも気が合いそうで良かった。どんどん生徒会入りが楽しみになっていく俺だった。


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