第12話 役職交渉

場面は教室前の廊下。


HRが終わり、担任の都井先生が生徒会の顧問という事を、如月夏きさな達から聞いた俺は早速都井先生を捕まえた。


のだが...


〈優斗〉

「あの...一応もう一度言っていただけますかね」


〈都井先生〉

「だから、生徒会はもう定員に達した。生徒会長・副会長に、推薦された新1年生の2人...片方はお前の妹か、が参加を表明した」


ここまではいいか?と前置きされ、都井先生はサルでも分かるように話を続ける。


〈都井先生〉

「生徒会の役職は4つ。生徒会長・副会長・書記・会計。役職は一人一つだ。つまり一年生の二人が書記、会計のいずれかに就く」


〈優斗〉

「はい。一年生ズが書記、会計になるのは分かりました。で、僕の役職は?」


〈都井先生〉

「あるわけないだろ」


〈優斗〉

「うそーーん!!」


どういうことだ?そもそも生徒会中心というのが俺の読み間違えとか!?...いや、1年生の2人にも推薦が来てる以上それはないな。


如月夏や利奏りなに降りてもらうのもおかしな話だ。そもそも、ヒロインみんなが生徒会にいないと意味が無い。


〈優斗〉

「ちなみにこの事って旭葵あさぎは知ってたり?」


〈都井先生〉

「定員は当然知ってるだろうが、今朝私に一年生の2人が参加を表明したんだ。定員割れなんて水倉みずくらが知ってるわけないだろう」


〈優斗〉

「た、確かに」


そうなってくるとお互い恥ずかしいな旭葵。あんなやりとりまでして、"定員で入れませんでしたー"って...笑えない。


 それに、あの約束を嘘にしたくない。


考えろ、ここは現実世界じゃない。ここで諦めてはゲームが崩壊する。何か策がある筈だ。


〈優斗〉

「お手伝いとして生徒会室に入り浸るっていうのは...どうでしょう?」


〈都井先生〉

「...考えた結果がそれか。そもそも生徒会室には生徒会役員に入室を認められた人物で、それ相応の理由がないと入ったらダメだ」


〈優斗〉

「その相応の理由ってのは...具体的には?」


役員に入室を認められるってのは、如月夏と利奏もいるし、旭葵も反対はしないだろう。

会長も俺に興味は持ってくれてるらしいし。


問題はその理由だ、理由がどうにか出来れば入り浸れそうだが、果たして。


〈都井先生〉

「私に話しても私が承諾する内容...と言えば分かりやすいか?」


〈優斗〉

「あ、ダメってことですね」


青春感覚で行ったら先生に追い出されそうだ。


となると、結局俺は正式に生徒会役員になるしかない。


〈優斗〉

「役職は1つにつき1人だから生徒会の定員は4人、なんですよね?」


〈都井先生〉

「...ほう?そうだが...何か思いついたか?」


〈優斗〉

「だったら、役職を新たに増やしたらいいんじゃないですか?」


俺がこう話した途端、先程まで呆れ顔だった先生が僅かに笑ったのを見逃さなかった。


〈都井先生〉

「なるほど、まぁ一応筋は通っているか。で、どんな役職を足すんだ?言ってみろ」


〈優斗〉

「それはですね..."男子役員"とか!」


〈都井先生〉

「そんな役職があるか」


〈優斗〉

「ですよねー。じゃあ..."庶務"とか、どうですか?」


〈都井先生〉

「庶務...か。いいじゃないか。じゃあその役職を付け足す理由は?」


〈優斗〉

「理由...ですか」


〈都井先生〉

「そりゃ当然新しい役職を足す以上、理由が必要だろう」


自分が生徒会役員になりたいから!なんてのは本音だがまぁ論外だろう。その上で考える必要がある。


〈優斗〉

「去年まで、女子校だったじゃないですか」


〈都井先生〉

「...それが、どう庶務という役職を増やす事に繋がるんだ?」


まるで俺を値踏みするかのように見ている都井先生。ここが、勝負時だ。


〈優斗〉

「はい、それはですね。まず一つ目にこれから生徒が増える事が予測されます。近隣の高校が廃校になりましたし」


〈優斗〉

「ここの学校は女子校だった割には、共学の高校より全然大きいですよね。空き教室は結構あるはず」


俺が昨日、学校を初めて見た時にも思ったことだ。今も思ってるが、女子校だった割にはバカでかい高校だ。


〈優斗〉

「生徒が増えるってことは厄介事が増える確率も、当然増します。今までのように生徒会4人で回る保証はないかと」


〈都井先生〉

「確かに、来年からもっと多くの生徒が入るのは目に見えてるな。男子生徒も来年には大勢くるだろう。で、2つ目があるんだろ?」


〈優斗〉

「はい。2つ目にトラブルの増加が予測されます。今までは女子校だった故に、男子と女子が対立する可能性は低いとは思えません」


〈優斗〉

「生徒同士のトラブルを生徒会が解決するのが先生方にとっても、学校にとっても理想のはず」


〈優斗〉

「そのトラブル解決にも、"庶務"なんて役割は真っ先に使えると思います」


俺は特に女子と問題を起こす気はないが、1年の男子もそうとは言い切れない。そこで真に公平に図るなら男子側にも味方が必要だ。


だから、先程言った"男子役員"も、あながちふざけては無かったのだが。男手が必要な時もあるだろうし。


〈都井先生〉

「なるほど。確かに有用性は示されたわけだが、どちらもすぐに必要かと言われると頷けない、な」


まだ、ダメか。


〈都井先生〉

「いや、そう気を落とすな。大分良い線行っているぞ。決め手に欠けるって感じだ」


決め手に欠ける...ね。


先生の中では先程の2つの理由なんて所詮上辺だけだから、先生には何のメリットも無い。だから心が踊らない。


"男子役員"じゃなくて"庶務"と聞いて、先生が乗っかった理由を考えるんだ。建前じゃなくて...だ。


...なるほど、そういうことか。


〈優斗〉

「最後にですね、この役職は先生の好きなように使ってくれて良いです」


〈都井先生〉

「好きなように、とは?」


〈優斗〉

「顧問として、生徒会を動かしたい場面は山程あるはず、面倒事から力仕事まで」


〈優斗〉

「そこで、真っ先に動かしてもらって構いません。だって、"庶務"なんて言い換えれば"雑用"なんですから」


言い終わると、先生は笑って、


〈都井先生〉

「そうだ。正解だ。それだ、その言葉が欲しかったんだ」


〈優斗〉

「じゃあ!」


〈都井先生〉

「交渉成立、だな。ただ、長く続いた4人という歴史に終止符を打つことになる。校長・教頭先生には今日中に許可を取っておこう」


〈優斗〉

「なんかすみません」


〈都井先生〉

「私に重い腰をあげるだけのメリットをお前は示したんだ。ちゃんと働いてもらぞ?」 


〈優斗〉

「わかってます」


〈都井先生〉

「役職を増やす理由は...丁度良い、お前の1つ目と2つ目を利用させて貰おう」


〈優斗〉

「あ、はい。それはどーぞ」


遂に、遂にだ。俺は美少女4人が待つ生徒会に!


〈都井先生〉

「実はだな、こんな回り道しなくても、お前は生徒会に入ろうと思えば入れた」


〈優斗〉

「...はい?」


〈都井先生〉

「知っているかは知らないが、お前は生徒会長から推薦を貰ってる」


〈優斗〉

「...いえ、知りませんでした」


生徒会長が推薦?俺に興味を持ってくれているとは思っていたが、そこまでしてくれていたのか。


〈都井先生〉

「それに転入生ということで成績面もまぁ申し分ない」


〈優斗〉

「...はい」


そこは今後の俺次第みたいなところがある。どうしようめっちゃバカだったら。それで生徒会追い出されたら泣く。


〈都井先生〉

「ここの学校の生徒会は教師からの推薦よりも、生徒会長からの推薦の方が効力が強い」


〈都井先生〉

「つまるところ、優秀な1年生を押し退けてでも生徒会に入ることもできたってわけだ。水倉とも和解したみたいだしな」


〈優斗〉

「なるほど。でも、それじゃあ結局5人で活動は出来なかったんですよね?」


〈都井先生〉

「?まぁそれはそうだが」


〈優斗〉

「それなら、やっぱり俺は5人で生徒会をやりたいです」


〈優斗〉

「あと他の誰か1人が欠けるくらいなら、部外者である俺が、真っ先に消えるべきだと思ってます」


〈都井先生〉

「部外者って...お前もこの学校の生徒だろ」


〈優斗〉

「...そうですね」


〈都井先生〉

「そこまで5人にこだわるってことは、一年生の、お前の妹じゃない方とも知り合いか?」


〈優斗〉

「はい。俺のお気に入りの後輩です」


〈都井先生〉

「...そうか。じゃあ、余計な事を言ったようだな。昼休みには結果を話す。生徒会室を開けとくからそこで待っててくれ」


〈優斗〉

「...はい!!」


先生が去り、1時限目の始まりを告げるチャイムが鳴る。


急いで教室に戻り、自分の席に座る。


誰だか知らない教師が来て、今年度最初の授業とのことで、1時間目の数学は特に授業をせず、オリエンテーションをするようだ。


というか、今日は教科ごとにずっとオリエンテーションかな。


席の隣には旭葵がいて、その綺麗な金髪に妙に目が奪われるのが、難点だ。


お、旭葵と目が合った。俺はすかさず親指を立ててサムズアップ。


旭葵はプイッと目を逸らし、またシカトされた。


...かと思えば、ペンを持ちノートに何か書き出し、俺に見えるようにノートを広げる。


「バカやってないで真面目に授業を受けなさい」


と、綺麗な字で書いてあった。


ただのウザ絡みと思われ、シカトされても文句は言えなかったが、それでも彼女なりに反応してくれた。


それはきっと、シカトが傷つくと俺が言ったのを気にしてのことで。


 やっぱり、彼女はめちゃくちゃ優しい。


期待を裏切らない...か。


旭葵だけじゃなく、如月夏に利奏、会長に都井先生も、みんな俺に期待してくれている。


少なくとも、俺があの日全校生徒の前で語った青春には一歩ずつ着実に近づいていると思う。


だから今は、その期待を裏切らないように、全力でこの世界を駆け抜けていこう。そう誓ったのだった。

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