第11話 期待

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如月夏きさな

「ゆうぃ〜!起きてー!」


女神のような声が聞こえる。そうか、俺死ん...ではないな。状況証拠的には死んでてもおかしくないが。


〈優斗〉

「はいはい、今起きますよ〜」


声だけ返事して、もう一眠りといく。俺はめちゃくちゃ朝が弱い。主人公の体質なのか、はたまた俺の悪い癖か。...両方か?


〈如月夏〉

「ゆう兄ぃ〜そろそろ起きて〜!」


利奏りな

「チッチッチ如月夏くん。そんな起こし方じゃあヤツは起きませんぜ」


〈如月夏〉

「あ、あなたは!」


〈利奏〉

「"利奏"と、そうお呼び下さい」


〈如月夏〉

「り、利奏!」


〈利奏〉

「では行ってきやすぜ」


〈如月夏〉

「おねがーい」


何やら不穏な会話が聞こえたのは気のせいだろうか。夢であって欲しい。


〈利奏〉

「せーんぱーい?起きなくていいんですか?今なら私のあられもない姿が見れちゃいますよ?」


...なにそれ気になる!!


〈優斗〉

「色気より眠気だ...くー...くー...」


〈利奏〉

「おや、思ったやりも手強いですね」


しかしここは漢、優斗。エロで釣られるかと謎のプライドが邪魔し、狸寝入りを再開。


〈利奏〉

「これでも、起きないんですか?」


〈優斗〉

「ッ!?!?!?!?」


あぁ、なんかすげー良い匂い...と思ったら、まさかのその次に利奏がとった行動は、俺と一緒の布団に入ってくるという力技だった。


俺は布団を蹴り上げ利奏と距離を取る。


〈利奏〉

「あー先輩赤くなってる!赤くなってるー!」


〈優斗〉

「...普通に制服じゃねぇか!」


あられもない姿とか言うから期待したのに。


〈利奏〉

「さっきまではそうでしたよ?起きなかったから強行手段に出たまでです」


どこまで本気なのやら。


〈優斗〉

「...とりあえずおかげで目が覚めたよ。大人しく着替えるから部屋から出てくれ」


〈利奏〉

「はーい!あ、今日はきさと3人で登校しましょーねー!」


〈優斗〉

「そうだな」


〈利奏〉

「やったー!じゃーねー先輩」


利奏が部屋を去り、俺は一息つく。


そして自分の下半身をズボン越しに見る。


全く...とんだ息子...じゃないな、俺のじゃないもん。バカガキ...いや、クソガキだな。


朝から元気いっぱいなクソガキをなんとか利奏に見られずにすんだ。


こういうのはパンツ、ズボンを履いていても平気でバレるから困る。


まぁクソガキだろうとこうなっているのは、俺の意思のせいなのだろうが。


なんとかクソガキを抑えて着替える。制服は立て掛けてあるので俺でも着替えられる。というか中のシャツ以外昨日も着たし。


1階に降りて顔を洗い、適当に身だしなみを整えた後、3人で朝ご飯を食べる。


〈優斗〉

「うん、うまい!」


〈如月夏〉

「朝作ってくれてありがとうねー利奏」


〈利奏〉

「いいよいいよー!慣れてるし、昨日はきさに作ってもらっちゃったからね」


利奏が作ってくれたのか。危ない、完全に如月夏が作ったものだと思っていた。


〈優斗〉

「このサラダとかめっちゃうまいよ、利奏」


〈如月夏〉

「......あちゃー」

〈利奏〉

「そのサラダはきさが作ったもので、私が作ったのはこっちの手の込んだサンドイッチなんですが?もう一回言って頂けます?先輩」


〈優斗〉

「......すみませんでした!!」


褒めたつもりが逆に地雷を踏んだ。とりあえず味覚に自信が出来るまでは、うまいとだけ言っておこうとこの時俺は誓ったのだった。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



〈利奏〉

「3人で登校するのは初めてですねー先輩!」


〈優斗〉

「ん?あぁ確かにそうだな」


主人公自体が引っ越したて?っぽいし登校自体はそうなるのだろう。


俺は居なかったので知らないが、一昨日の入学式は新一年生+生徒会メンバーだけの登校だったらしいし。


〈如月夏〉

「ゆう兄ぃこんな可愛い後輩2人も連れて登校したら、騒ぎになっちゃうんじゃない?」


〈利奏〉

「スクープ!謎の転入生!転入早々二股!」


〈優斗〉

「なるか!しかも内訳は妹とその友達だし」


と、ツッコんだものの実際そうならない保証もまたない。二人ともめちゃくちゃ可愛いし。


〈如月夏〉

「あーそうそう。今日中に生徒会訪ねてみる?利奏」


〈利奏〉

「そうだね。行っちゃお!先輩置いてけぼりで!」


〈優斗〉

「ぐぬぬぬ...あの事件さえなければ...」


〈如月夏〉

「あ、そう!副会長さん...だっけ?にきちんと謝った方がいいよ?」


〈優斗〉

「それはそうなんだが、まず話を聞いてもらえるかが...って如月夏に話したつもりは無いんだが、当然のように知ってるんだな」


〈利奏〉

「そりゃあ、私たち3人の間に秘密はナシですもん!!」


利奏を睨むと、悪びれずにそう言い返された。それも案外刺さる言葉だ。"秘密はナシ"か。


〈利奏〉

「副会長さんに一緒に謝りましょうか?」


〈優斗〉

「とりあえずそれは最終手段で。後輩に頼るのも情けないしな」


〈利奏〉

「確かにそうですね」


〈優斗〉

「...始業式で息巻いた挙句この結末は...既にダサかったか」


〈如月夏〉

「まぁまぁそう言わずに、ゆう兄ぃが生徒会入ってくれなきゃ始まらないんだから」


〈利奏〉

「そうですよー、私たちは先輩を揶揄う為だけに生徒会入るんですから」


〈優斗〉

「動機が不純だな...」


まぁ俺も青春とか言ってたしあんまり人のこと言えないか。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



〈優斗〉

「昨日は大変申し訳ございませんでした!」


旭葵あさぎ

「......」


如月夏、利奏と別れ教室に行く。そして隣の席の金髪の美少女に頭を下げた。


クラス中の注目を集める。が、そんな事気にしてられない。


対する旭葵はというと本を読んでシカト。でもここまで注目を集めてしまった(俺のせい)ので、苛立ちかプルプルと震えている。


もう一押しか!?とりあえずこのシカトを突破しない限り事態は好転しない。


之愛のあ

「どうしたのー!?そんな頭下げて」


そこでやってくる之愛。これは、イチかバチか上手く使ってみるしかない。


〈優斗〉

「実は昨日生徒会の掃除を手伝ったんだが、気が動転してつい転んで旭葵を押し倒––––」

〈旭葵〉

「あ〜〜〜〜!!もう、分かったわよ!!着いてきなさい!!」


事の詳細を話す前に本を置いて机を思いっきり両手で叩き、立ち上がった旭葵。賭けは成功したようだ。


成功しないと俺も死にかねない諸刃の剣だっただけに、勝算は高かったが。


〈優斗〉

「悪い之愛、また後で!」


〈之愛〉

「わかったー」


ずんずんと教室を出ていく旭葵の後を追う。まだHRまでは時間がある。なんとか和解できる方法を探らねば。


〈旭葵〉

「で?私に!何の用かしら〜?」


旭葵の語気は強く、まるで俺がカツアゲされるみたいだ。


〈優斗〉

「このとおり誠心誠意謝りにきた」


〈旭葵〉

「どこが誠心誠意よ!あれだけ教室で注目を集めておきながら!」


〈優斗〉

「じゃあ、呼び出したら来てくれたか?」


〈旭葵〉

「それは...無視するわね」


〈優斗〉

「ほらー」


〈旭葵〉

「何が"ほらー"よ!やっぱり謝る気なんてないんじゃない!」


〈優斗〉

「いや、あれは俺が100悪かった。だから謝りたい。でも、故意じゃないし、ケダモノでもないんだ。それだけは––––信じてくれ」


そう伝えると、旭葵は諦めたように一息ついた。


〈旭葵〉

「...ケダモノ呼びしたのは悪かったわ。あなたが故意じゃないってのは、何となくわかる気がする」


〈旭葵〉

「もともとはあなた一人でやろうとしていたのを、私が手伝うって言ったんだし」


〈旭葵〉

「それでも少しだけ、あなたを信じてみたいと思ってたから...私の心情の問題ね」


一瞬、仲直りできるかと思ったが、事はそう簡単には進まないらしい。


〈優斗〉

「...そう言えば、何もしてない最初っから俺にアタリがキツかったよな。それも関係あるか?」


〈旭葵〉

「...そうね」


何もしてないのに嫌われる。そしてここは去年まで女子校。憶測でしかないが、俺の中でしっくりとくる答えが見つかった。


〈優斗〉

「そんなに信じられないか、が」


〈旭葵〉

「...」


〈優斗〉

「その無言は肯定と受け取るぜ?」


彼女のさっきまでの剣幕は何処へやら。目を逸らし、押し黙ってしまう旭葵。


〈優斗〉

「過去に何があったのかは知らないし、聞きもしないけどな。何もしてないのに嫌われる...ってのは、俺が可哀想すぎる」


〈旭葵〉

「でも、実際にあなたは期待を裏切って!」


〈優斗〉

「シカトした割には、俺に勝手に期待もするのかよ」


〈旭葵〉

「...」


痛いところを突かれたと言わんばかりに、旭葵は黙り込んでしまった。


〈優斗〉

「そんなお前のワガママに振り回される、俺の気持ちにもなって欲しいが...俺もさっきも言った通り、悪い事したって思ってる」


わざとじゃなくても、女の子を押し倒して、胸を揉んだ。水場だったし服だって濡らしてしまった。最低な事をした。


一生口を聞いてくれなくても仕方ないかもしれない。ましてやそれも男嫌いな子にやってしまった。


〈優斗〉

「だから...ここは痛み分け、と行こうぜ」


それでも、今こうして話してくれている彼女の優しさを利用する。でもその優しさを、今度は決して裏切らないように。


〈優斗〉

「その代わり...だが、」


少し怯えた様子の旭葵の青い瞳を見つめる。


お前も、俺の中のヒロインなんだよ。俺がどんなにダサいヤツでも、カッコつけたいに決まってる。


〈優斗〉

「これからの俺には期待してくれていいぜ。もう絶対にお前の期待を裏切らない。約束する」


〈旭葵〉

「...っ!」


旭葵の瞳が戸惑いながらも俺の瞳を捉えた。


〈優斗〉

『俺が、お前のその男嫌いなんて、忘れされてやる』


ゆっくりと、この言葉を決して嘘にしないように、旭葵の心に届くように、そして自分の中で噛み締めるように、そう力強く言い切った。


俺の言葉は彼女に届いただろうか。長い沈黙を耐えて、彼女の言葉を待つ。


〈旭葵〉

「...1ヶ月」


ゆっくりと口を開き、出てきた単語は予想だにしない言葉で。


〈優斗〉

「え?」


〈旭葵〉

「あなたがそれまでに私の期待に応えられなかったら、生徒会を辞めてもらう。それでいい?」


〈優斗〉

「...っ!あぁ!上等だ!」


旭葵なりに、俺を認める準備をしてくれたのだろう。


これで、誰も俺の生徒会入りを反対する者は居なくなった。期限付きとはいえ、大きな進展だ。


〈優斗〉

「あと1つだけ、いいか?」


〈旭葵〉

「...なに?」


〈優斗〉

「もうシカトは禁止な?あれめちゃくちゃ傷付く」


〈旭葵〉

「...考えておくわ。じゃあね、せいぜい頑張りなさい」


〈優斗〉

「おう!」


先に教室に戻った旭葵を追いかけることはしなかった。


〈優斗〉

「よっしゃぁぁぁぁ!」


ガッツポーズを決める。これで俺は晴れて生徒会入り...でいいのだろうか?


ようやくだ!ようやく俺の青春in生徒会が始まる!!



⭐︎★⭐︎★⭐︎



都井とい先生〉

「あー、悪いが、もう生徒会は定員なんだ」


〈優斗〉

「...え?」


...俺の夢の生徒会入りは、まだ遠そうです。

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