第14話 新生生徒会

5.6時間目を終えて放課後になった。俺は浮き足立つ気持ちを抑えて生徒会室に赴く。


まだ何かあるんじゃないか。そう疑ってしまう気持ちもある。


それほど今俺がここにいるのは、奇跡みたいなことで。


旭葵あさぎ如月夏きさな利奏りなと一緒に来れたら良かったんだが、旭葵には断られるし如月夏達は教室を探して突き止めた頃にはとっくに行ってしまっていた。


連絡すれば良かった...んだが、トーク履歴も一切無いのが不気味であまり使いたくなかった。そもそも俺のスマホでもないし。


 生徒会室のドアの前に立つ。


そして両開きのドアの持ち手に手を掛けた。


大きく息を吸って、役員として堂々とドアを開けた。


〈優斗〉

「失礼します!...って、みんなもう揃ってる!?遅くなりましたすみません!!」


会長、副会長(旭葵)に如月夏、利奏、そして都井先生、全員揃っていた。


〈如月夏〉

「お兄ちゃん遅〜い〜」


〈利奏〉

「女の子を待たせるなんてまだまだですね〜先輩は」


〈優斗〉

「すみませんでした!!」


一年生の二人に小言を言われた。あれ、如月夏が俺をお兄ちゃん呼びしてる...そうか。利奏以外の人の前では呼び方を変えてるのか。


〈胡依美〉

「ではこれで役員全員が揃いましたので、始めましょう。まずは...そうですね。自己紹介でもしましょうか」


みんな俺を待っていてくれたらしい。それは悪い事をした。


〈胡依美〉

「まずは私からさせてもらいますね。会長の三年A組 北条ほうじょう 胡依美こよみと申します。何かわからないことがありましたら何でも頼って下さいね」


〈旭葵〉

「次は私ね。副会長の二年A組 水倉みずくら 旭葵よ。一年生の二人ともこれからよろしくね。...あとどっかの青春君も」


〈優斗〉

「青春君言うな!って次は学年的に俺かな。同じく二年A組 有海 優斗だ。役職は"庶務"になると思う」


〈優斗〉

「これの経緯は後々話すとして、とりあえずよろしく!あと、そこの如月夏の兄です」


〈如月夏〉

「はいはーい!ご紹介に預かりました、そこの兄の妹、一年A組の有海 如月夏です。利奏と話し合った結果、役職は会計になりました!兄妹共々よろしくお願いします!」


〈利奏〉

「はい!きさと同じ一年A組の川瀬かわせ 利奏です!役職は書記です!よろしくです!」


〈都井先生〉

「...一応私もしておこうか。生徒会の顧問となった都井だ。クラスは二年A組を担任している。職員室に居なかったらクラスの方を訪ねてくれ」


〈胡依美〉

「皆さんよろしくお願いしますね。とりあえず新任の3人には書いてもらいたい書類があるのですが...」


〈都井先生〉

「その事については私が話そう。この書類に名前を書いてもらって、正式に生徒会入りすることになる」


書類を都井先生に渡された。俺たち新任3人組は、それぞれの役職の紙に名前を書いて先生に渡した。


〈都井先生〉

「あともう一つ、来週の月曜日に任命式をすることになった」


月曜日...か。今日は4/9の木曜日。なので任命式は4日後となる。あまり猶予はないな。


〈都井先生〉

「その式で新任の3名には生徒会に入るにあたっての公約を考えておいて欲しい」


公約...か。青春することしか考えてなかった。如月夏と利奏も目が泳いでる。まぁ、二人なら問題は無いのだろうが。


〈都井先生〉

「あと台本を持ってくのは無しだ。1分程度でいいから全部覚えてくれ」


台本見ながらは無しか。...なんか緊張してきたな。


〈都井先生〉

「連絡事項は以上だ。後は解散でもいいし、親睦を深めるでもしてくれ。私は職員室に戻る。何か用があったら職員室まで来てくれ」


〈都井先生〉

「あと鍵は北条に任せる」


〈胡依美〉

「わかりました〜」


都井先生が生徒会室を去り、美少女4人に俺一人の空間となる。


〈胡依美〉

「ということで...新任のみなさんの、歓迎会をしま〜す!」


会長がクラッカーを鳴らし、一気にお祝いムードとなった。


ケーキやジュースが会長、副会長の手によって運ばれる。


〈如月夏〉

「えぇ!?わ、悪いですよ!」


〈旭葵〉

「都井先生からよ。生徒会の会費から出してるらしいけど、お昼に急いで買って来てくれたのよ。あとでお礼を言いに行きましょうね」


お昼...ってことはあの後か。やっぱりいい先生だな。


〈如月夏〉

「せめて何か手伝わさせてください!」


〈旭葵〉

「あなた達は歓迎される側なんだから、じっとしてればいいのよ」


〈如月夏〉

「うぅ...落ち着かない...」


如月夏が手伝おうとしたが、歓迎される側という事で旭葵に拒否されていた。


普段尽くすタイプだからこういうのに慣れていないのだろう。


〈利奏〉

「きさ、じっとする!」


〈如月夏〉

「は、はい!」


うずうずしている如月夏を利奏がじっとさせた。


お皿が並べられ、みんなのコップにジュースが注がれた。


〈胡依美〉

「乾杯、しますよ!みなさん、ジュースを持ってください!」


〈胡依美〉

「では、みなさん。これから、力を合わせて頑張って行きましょう!」


〈胡依美〉

「かんぱーい」


〈全員〉

「「かんぱーい!!」」


ケーキを取り分けられ、お皿に移して口に運ぶ。うん、美味い。甘くて美味しい。


〈旭葵〉

「そういえば有海くん、"庶務"って...?今5人でいることに関係してるのよね?」


〈優斗〉

「そうそう。定員は4人らしくってさ。この5人で生徒会をやりたいと思って、役職を増やして定員を5人にしてもらった」


〈旭葵〉

「そんな事があったの...だからお昼に生徒会室に行ってたのね」


〈優斗〉

「そういうこと」


〈利奏〉

「定員なんてあったんですか...知りませんでした」


〈如月夏〉

「私も知らなかった...言ってくれたら、私が代わりに––––」

〈優斗〉

「あともうひとつ!もうひとつあるんだ」


如月夏がその先を言う前に、無理やり割り込んだ。その先は歓迎の席で言うものでも、俺が言わせたい言葉でもない。


〈優斗〉

「実は、俺は今日から1ヶ月のお試し期間的な採用となっている」


そうだよな!と、俺は旭葵を見る。


〈旭葵〉

「えぇ、そうね。彼が信用できない人だと思ったら、辞めてもらうわ。でも普通に生徒会として仕事をしてくれるなら文句は無いわ」


〈優斗〉

「ということで...みんな何があったかは知ってると思うが、大目に見て貰った。俺はその期待に応えれるよう頑張る次第だ」


〈優斗〉

「俺からの報告は以上だ。お祝いムードを邪魔して悪かった」


話しの流れ的にはここで言えて良かったが、少しだけ雰囲気を悪くしてしまったか?


何か、場を一変させるギャグでもやるか?

クソ!おもいつかねぇ...


〈利奏〉

「...呼び方!呼び方とか決めませんか!」


そんな中、空気を察してか利奏が助け舟を出してくれた。


〈利奏〉

「"会長さん"とか名字で呼ぶのはちょっと距離あるなぁって思って!」


〈如月夏〉

「私も賛成!」


〈胡依美〉

「いいですね〜。どんな呼び方でもいいですよ〜」


〈旭葵〉

「私も、なんて呼んでもらってもいいわよ」


〈優斗〉

「じゃあ"青春ちゃん"なんてどうだ?」


〈旭葵〉

「...出てってもらうわよ?」


〈優斗〉

「なんて呼んでもいいって言ったのに...!!」


〈旭葵〉

「あの二人に言ったのであって、あなたに言った覚えはないわ」


〈胡依美〉

「青春ちゃん...可愛いと思いますが...」


〈旭葵〉

「こ、胡依美先輩!?胡依美先輩がそう思うなら...いや、それでも有海くんと同じは...」


〈優斗〉

「悪かったな青春君で」


〈如月夏〉

「すみませーん!私はお二人を胡依美先輩、旭葵先輩って呼んでもいいですか?」


〈胡依美〉

「もちろんいいですよ!ね、旭葵ちゃん!」


〈旭葵〉

「はい!...先輩、ね。...良い響きだわ」


〈利奏〉

「私は胡依美さん,旭葵さんって呼ばせてください!」


俺には先輩呼びなのに会長達は先輩呼びしないのか。...利奏はそれほどまでにこの関係が好きなのだろう。


〈胡依美〉

「わかりました〜!じゃあ私は利奏ちゃん,如月夏ちゃんって呼びますね」


〈旭葵〉

「私は如月夏、利奏って呼ぶわね」


〈優斗〉

「俺も」


〈利奏〉

「先輩はいつもと変わらないじゃないですか!」


〈如月夏〉

「じゃあお兄ちゃんは、胡依美先輩や旭葵先輩のことはなんて呼んでるの?」


記憶を探り出す。会長は会長だが、旭葵のことなんて呼んでたっけな...


〈優斗〉

「会長と、...おまえとかかな」


〈如月夏〉

「会長はいいけど、旭葵先輩はせめて名字で呼んでよ!?」


〈旭葵〉

「...確かに名前を呼ばれたことない気がするわ」


〈優斗〉

「だって恥ずかしいんだって!おまえだって俺のこと"あなた"呼びすること多いだろ?」


〈旭葵〉

「べ、別に良いじゃない!呼び方なんてなんでも!」


〈優斗〉

「そうだそうだ!」


〈胡依美〉

「優斗くん、私の前では旭葵ちゃんのこと"旭葵"って呼んでませんでしたっけ?」


〈旭葵〉

「え...」


〈優斗〉

「そんなこと俺言ってましたっけ!?」


...いや、確かに言った気がする!!心の中で旭葵呼びしてるからついッ!!


〈利奏〉

「おぉっと先輩〜?本人の前以外でそう呼んでるんだったら、呼べますよね〜?もちろん名前で」


もうこうなりゃヤケだ!之愛だって名前呼び捨てで呼んでるし!今更だろ!


〈優斗〉

「あ、旭葵...」


〈旭葵〉

「っ!?なんでそんな顔を赤らめて私の名前を呼んでるのよ!?」


〈利奏〉

「先輩照れてる照れてるぅ〜」


〈如月夏〉

「お兄ちゃんって変なとこでウブだよね〜」


〈胡依美〉

「どうせなら私も名前呼び捨てでもいいですよ?」


〈優斗〉

「先輩にそれは本当に無理です!!」


結局、旭葵の呼び方は旭葵の猛反対により"水倉"呼びに、会長は"北条先輩"呼びすることになった。


それぞれの呼び方も決まり、いよいよこの世界の青春が始まった実感がした。


いろいろと、不安なこともある。まだこの世界のことも分からないことだらけだ。


それでも俺は...この世界で、この5人の生徒会メンバーで、夢見てた青春を謳歌してやる。



 そう、俺の物語はようやく始まったんだ。

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