第7話 ピンクの小悪魔

旭葵あさぎに追い出され、俺は弁明の為に1人で掃除させてくれと頭を下げるも、都井先生に"今日はやめとけ"と言われ撃沈。


会長は気絶したきり終始起きなかった。


ふと旭葵と事が起こる数十分前の会話が思い浮かんだ。



〜優斗の回想〜


〈旭葵〉

「...ふぅ、セーフね」


紙をめくり、安堵したように旭葵が呟いた。


〈優斗〉

「無理してないか?ちょっとくらい休んでてもいいぞ」


〈旭葵〉

「あなたが休んでないのに、どうして私が休まないといけないの?」


〈優斗〉

「いや、まぁ俺は...単純に生徒会に入りたい人間として手伝いたいってだけだし。点数稼ぎみたいなものだ」


〈旭葵〉

「あなたって結構計算高いのね。それとも気を使わせないようにしてるのかしら?」


〈優斗〉

「さぁな」


〈旭葵〉

「私は胡依美こよみ先輩の為っ!...じゃなかった。私のプライドの為に休んでなんていられないわ」


〈優斗〉

「なぁ、一つ気になったんだが会長って、どこか有名なところのお嬢様なのか?」


〈旭葵〉

「...転入してきたんじゃ知らないのも無理ないわね。胡依美先輩は北条グループの社長令嬢で私とは比べ物にならない程の––––」

〈優斗〉

「お、おう。よく知らんがそんだけのお嬢様なら確かに虫は無理だな...」


どうやら会長はめちゃくちゃすごい人らしい。旭葵に力説される。


〈旭葵〉

「...本来の胡依美先輩ならあんな取り乱すことなんて!仕事だってなんでも出来るし丁寧で優しいしほんっっとに完璧なんだから!」


〈優斗〉

「うすうす勘付いてたが、もしやお前会長LOVEだったり...?」


昨今流行りの百合というものだろうか。挟まった男はもれなく読者に抹消されるらしいが、果たして。


〈旭葵〉

「ち、違うわよっ!...でも、憧れもあるし尊敬もしてるわ。1年間、ずっと近くでその背中を見てきたから」


〈優斗〉

「...そういうもんかね」


1年間っていうと入学してからか。旭葵も副会長だし、ハイスペック人間だろうに会長はそれほどまでに眩しく映るのか。


俺には散らかして気絶している会長のイメージが強いので、あまりそうは映らないが。


〈旭葵〉

「だから、今の会長のことは絶対に他言無用よ?分かった?」


〈優斗〉

「了解」



〜優斗の回想終了〜



やっぱり、今でも生徒会に入りたいが...どうしたものか。


結果的には如月夏きさなに連絡しなくて良かったな。俺は用も無いのでもう帰るしかない。都井先生にも帰れと言われたし。


俺は一人で如月夏と朝来た道を帰っていく。


...そう言えば、会わなかったな。桃髪の子。

他のヒロイン+攻略対象外のヒロインとは一応喋ることは出来たが。


旭葵とはどうしよう。一気に脈ナシになった感がある。でも、すげぇいい子だし、あの時に戻れるなら関係を元に戻したい。


...それはそれでアレが無くなるのか。めっちゃ柔らかかったな。


前世(死んでない)男子校の俺には衝撃が強かった。と、その時だった。


〈???〉

「だーれだ!」


〈優斗〉

「!?えーっと...」


いきなり背後から何者かに両目を隠される。声を出して驚くのをギリギリで抑えた。


だーれだ?そんなの親しい仲の人同士でやるやつだ。


俺はその声に対して、心当たりがなかった。少なくとも今日会ったことのある人じゃない。


...ということは、一人だけ候補が思いつく。


〈優斗〉

川瀬かわせ?」


利奏りな

「はい!正解です〜!」


覆われていた視界が開ける。


そしてさも当然のように背後から俺の隣に移り、笑顔を向ける桃髪の美少女...間違いない。この子が4人目のヒロイン川瀬かわせ 利奏りなだ。


左右に大きなリボンによって二つに括られた髪とは別に、肩まで伸ばされた後ろの髪...これ説明難しいな。なんて説明するんだ。


ツーサイドアップ、だったか?された髪型に、旭葵よりやや薄い水色の瞳。


3.14で求められる例のアレも、エロゲーヒロインらしくでかい。...ってか、でか!旭葵や会長よりでかいんじゃないか!?


〈利奏〉

「でもなんで名字呼びなんですか?それに5秒はちょっと悩みすぎじゃないですか〜?ちょっと傷ついちゃいましたよ〜先輩」


随分と親密な関係らしい。幼馴染...なのか?それも先輩、後輩の関係。制服からも同じ学校ということがわかる。


後輩でいて名字呼び捨てじゃないとすれば、恐らく彼女を名前の呼び捨てで主人公は呼んでいたのだろうと推察。


転入試験的なの以外で学校に来たのは、主人公も今日が初めてのはず。ということは少なくとも学校以前からの関係になる。


いずれにせよ、情報が無い今の俺ではボロを出す可能性がある。会話はなるべく避けるべきと判断した。


〈優斗〉

「わるい、利奏。今ちょっと取り込み中だ」


〈利奏〉

「えー、先輩1人じゃないですか。私が構ってあげてるんですよ?」


どうやら立場的には利奏の方が上らしい。


名前呼び捨てについては突っ込まれなかったので、このまま利奏呼びさせてもらう。


〈優斗〉

「一人になりたいこともある」


〈利奏〉

「へー。何かあったんです?」


回り込んで上目遣いに俺を見てくる利奏。...どうせ帰ったら妹(他人)がいるんだ。この子から何か得れるものがあるかもしれない。


リスクもあるが俺はある程度会話をしてみることに。


〈優斗〉

「実は...



⭐︎★⭐︎★⭐︎



...ってことがあった」


生徒会に入ろうとして、黒くて速いヤツと出会い、結果的に副会長の胸を揉んで追い出された話を利奏にした。


旭葵との約束の為、会長の情報は一切出してないのでちょっと説明不足感は否めないが。


そもそも俺が話せることなんてこの話以外無い。


そして肝心の利奏は真剣に聴いているかと思えば、胸の件で笑い出し...


〈利奏〉

「それで先輩生徒会入れなかったんです!?全校生徒の前であんな演説しといて!?あははははっ先輩、最高です!」


この有様だ。...言うんじゃなかった。


〈利奏〉

「すみません面白くてつい。でも、私も先輩が生徒会入るなら、やっぱり入ってみようかな〜」


〈優斗〉

「マジ?」


ヒロインとしては入って欲しいが...恐らく主人公と長い付き合いの彼女が生徒会に入るのは...どうだろう。


〈利奏〉

「先輩が1人で謝れないのなら、一緒に謝ってあげますよ?副会長さんに」


〈優斗〉

「ぐぬぬ...」


俺一人では旭葵に避けられる可能性は十分ある。恐らく俺の青春に生徒会入りはマスト。


〈利奏〉

「今ならなんと私が耳元で囁いてあげるオマケ付き!」


〈優斗〉

「よろしくお願いします!!」


〈利奏〉

「よろしい!ふふーん...ではでは。"感謝、してくださいね?"」


〈優斗〉

「あひゅん」


利奏に耳元で囁かれた。なんかすごいドキドキした。


すると利奏は、人差し指を自身の口元あたりまで持っていき思案ポーズを取る。


〈利奏〉

「なんか今日の先輩って...」


マズイ。まさか他人とバレた!?先輩を返せ的なこと言われてもそもそも戻り方わかんねぇよ!もしヤンデレ化したらどうしよう!?


〈利奏〉

「可愛いですね!いつもなら"そんなもんでドキドキするかよ"とかいいながらめっちゃ顔赤いのに。まぁそれも可愛いんですが!」


...セーフ。バレてはいなさそう。めちゃくちゃ笑顔で言われた。


〈利奏〉

「まぁでも先輩青春したがってるんですもんね〜私みたいな可愛い女の子なら尚更じゃないですか?」


〈優斗〉

「そりゃ.....そう、だろ」


ミスったか...?出した言葉を止めることもできなかった。


さっき利奏に聞いた主人公の情報とは受け答えが少し違う気がした。


〈利奏〉

「......」


隣を歩いていた利奏が歩みを止めて俯く。


"やらかした!"と思いすぐさま駆け寄り弁明する。


〈優斗〉

「い、いや...!今のは言葉の綾...的なアレで!」


〈利奏〉

「先輩、私のこと"女の子"として見てますか?」


顔を上げ、俺に向き直った利奏は、さっきまでとはまるで別の...言うなら乙女の顔だった。


さっきまでは俺をイジるのが楽しいのか、ずっとニヤニヤしていたのにこの落差。


〈優斗〉

「...」


俺は利奏になんて答えれば良いんだろう。この返答は、後の運命を変えかねない気がする。


〈利奏〉

「答えてください!」


〈優斗〉

「そりゃ...」


〈優斗〉

『可愛いと思ってる。女の子として』


迷ったが、俺は自分の気持ちを正直に答えた。


〈利奏〉

「...え」


〈優斗〉

「...これが今の俺の気持ちだ!それ以上でも以下でもないっ!」


利奏がマジな反応をするので俺は慌てて取り繕う。と、利奏はあたふたと周りをキョロキョロしだし、


〈利奏〉

「せ、せんぱい?やっぱり、今日おかしいですよ...普段ならそんなこと言わないのに...」


〈優斗〉

「...」


〈利奏〉

「先輩がヘンだから、私までヘンになっちゃいました」


〈利奏〉

「...ちょっと落ち着いてきます。きさと今日お泊まりの約束してるので、先に家上がらせてもらいますね」


〈優斗〉

「あ、あぁ」


〈利奏〉

「先輩はゆーっくり帰って来てください!分かりました?」


〈優斗〉

「...了解」


〈利奏〉

「ではまた後で!」


そう言い残し、走り去ってしまった。


俺は間違ったのか?主人公らしくは少なくても振る舞えていないのだろう。でもそれは仕方ないことだ。俺は主人公じゃない。


いっそのこと如月夏と利奏だけにでも言うべきか...?でも言ったところで俺はどうなる?


信じられないか信じられても追い出されるか。追い出されるだけならまだ良いかもしれない。最悪の場合は...いや、やめよう。


結局のところ俺は主人公でなきゃいけないのだ。それに、ずっと夢見ていた美少女との青春を謳歌できるチャンスでもある。


俺のやることは変わらない。


今までのエロゲー知識を総動員させ、展開を読み、ヒロインを攻略する。


そう。たったそれだけなんだ。

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