第6話 ヤツ
〈優斗〉
「それにしても...なんでこんなに散らかってるんですか?」
なかなか掃除しようという気も起きず、書類やら本やらで生徒会室の床が埋め尽くされているまま話を続けた。
〈
「あ、私も気になります。昨日入学式の業務で来た時は普通でしたよね?」
〈
「それがですね...大掃除だ!って思って張り切っていたら...」
〜会長の回想中〜
〈胡依美〉
「まだ旭葵ちゃんは来てないみたいですね。先に綺麗にしちゃって旭葵ちゃんを驚かせちゃいましょう。ふふ、やりますよ〜」
〈胡依美〉
「棚の下も〜丁寧に丁寧に〜♪わぁ、埃がいっぱ....」
カサカサ...
〈G〉
「(やぁ)」
〈胡依美〉
「*°☆$#>○・$°☆#%¥>☆×〒〆¥=>|=^」
(声にならない叫び)
〜会長の回想終了〜
〈胡依美〉
「そこから先の記憶が無くて...気づいたらこんなことになってしまいました...」
...なるほど。派手に暴れたな。
〈旭葵〉
「え!?ちょっと待ってください...ってことはまだヤツはいるんですか!?」
マジか...それは俺も困る。と、会長の顔がみるみる青ざめていく。
〈胡依美〉
「わかりません...けど...まだ...あ、あぁ....」
バタッ
...会長が倒れてしまった。
〈優斗〉
「か、会長!?」
〈旭葵〉
「胡依美先輩!?こんなとこで倒れないでください!?せんぱーい!!」
気絶して倒れた会長を、涙目の旭葵が受け止める。
主人公がどうだったかは知らないが、俺は虫が大嫌いだ。多分そこの2人に負けず劣らずの苦手レベル。ヤツなんて特に無理。
でもここで何もしないのは違う気がする。
それに、これは俺にとってピンチでもありチャンスでもある。
漢を見せろ俺!ヒロインをカッコ良く救う、そんなエロゲー主人公に、ずっと憧れてたんだろ!?
〈優斗〉
「会長を連れて廊下に避難するぞ」
〈旭葵〉
「え?...う、うん...でも...」
言わんとしていることは分かる。一度逃げたとして、いつか向き合わなければならない問題だ。
それに部屋中ぐちゃぐちゃなだけでなく、いつヤツが出てきてもおかしくない状況。それゆえに先生などの助っ人も呼びづらい。
〈優斗〉
「なんとかしてみる。お前は会長の面倒を見ててくれ」
〈旭葵〉
「わかったわ」
旭葵と2人で会長を運び、生徒会室から避難に成功する。
〈優斗〉
「じゃあ、行ってくる...」
〈旭葵〉
「待って!」
再び戦地へ向かおうとドアを開ける寸前、声とともに旭葵に服の裾を掴まれた。
〈優斗〉
「どうした?」
〈旭葵〉
「あなた、虫平気なの?」
〈優斗〉
「へ、へへへ平気。び、ビビってなんかねぇし」
〈旭葵〉
「...ッ!?虫苦手なんじゃない!!大人しく待って助けを...いえ、それじゃ胡依美先輩の...その、失態が明るみになってしまうわ」
〈優斗〉
「大丈夫だ。ちょっとずつ片付けてけば多分いつかは決着がつくと思う...今日中には」
〈旭葵〉
「〜〜〜!分かったわよ!私も行くわ!」
〈優斗〉
「いや、そんな無理しなくても。それに会長はどうするんだよ」
〈旭葵〉
「無理するに決まってるわよ!そもそもあなたはまだ生徒会入り志望なだけで、正式に入ったわけでもなんでもないのよ!?」
〈旭葵〉
「胡依美先輩は隣の部屋のソファーで寝かせるわ」
〈優斗〉
「なるほど...でもお前だって苦手だろ?」
〈旭葵〉
「それは...そうだけど、あなただけに無理をさせるのは生徒会副会長として、私自身のプライドが許せないの!」
〈優斗〉
「...そうか。心強いが、ダメそうだったら無理せず逃げていいからな」
〈旭葵〉
「ふんっ!あなたこそね!」
旭葵は何か吹っ切れたのか興奮気味だった。それでも彼女の決意も固いらしいので尊重したい。
それと俺一人だけはやっぱり厳しい。だってこわいもん。
会長を隣の部屋のソファに寝かせ、旭葵と再び生徒会室のドアの前に立つ。
〈優斗〉
「行くぞ」
両開きのドアをゆっくりと開ける。先程入った時にヤツは見かけなかったが、隅々までは確認していない。
〈優斗〉
「目に付くところには居ないっぽいな」
〈旭葵〉
「...そうね」
辺りを見渡すも目視で見える範囲には居ない。
〈優斗〉
「とりあえず散らかっている書類やら本やらを、全部あのデカい机の上に並べて、安全な床を確保していこう」
指差したのは普段は会議用に使われているのだろう縦長のバカデカい木の机。
先にヤツがいるかいないかの確認ができないと、片付けは進まないと判断。
〈旭葵〉
「わかったわ。でもそれって紙をめくった時に––––」
〈優斗〉
「お願いだそれ以上は言うな」
〈旭葵〉
「...じゃあ私は手前の水で濡れてる書類の方を担当するわ」
〈優斗〉
「俺は奥の本が散らかってる方か。了解した」
奥側はさっき見ただけでも、辞書みたいに分厚い本が床を埋め尽くしていた。
Gという黒ひげ危機一髪的な要素に加えて、単純に力仕事としても大変だ。
〈旭葵〉
「お互い何もないことを祈ってるわ」
〈優斗〉
「あぁ。きっと窓から飛んで逃げた」
〈旭葵〉
「...室内の窓閉まってるわよ?」
〈優斗〉
「じゃあ窓開けて飛んで窓閉めた!!」
〈旭葵〉
「そんなことある!?」
軽くジョークを交えながら、俺たちは地獄の作業を始めた。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
半分くらいは、片付いただろうか。恐怖と隣り合わせの状況は精神的にも辛く、早く終わらしたい。というか帰りたい。
旭葵も必死に戦っているようだが、足場が悪いのもあって苦戦している様子。
向こうは会長が雑巾がけするつもりだったのだろうバケツがひっくり返っていて、より一層難易度が上がっている。
仕事効率が下がるのは仕方のないことだった。
うん。まだまだかかりそうだな...
そんな時脳裏に浮かんだのは、朝の
俺は部屋の時計を見る。11時半...ってもうこんな時間か!如月夏に連絡しといた方がいいな。
俺がスマホを取り出そうとしたその時、
〈旭葵〉
「キャァァァァァアアアア」
〈優斗〉
「出たか!?どこだ!!」
俺は近くに備えていた丸めた新聞紙を手に取り、旭葵の方へと向かう。
〈旭葵〉
「あ、あそこ!」
〈優斗〉
「あれか!うおおおぉぉー」
旭葵の活躍により、遂にヤツを視界に捉えることに成功する。
うわっ、気持ち悪っ!
よし、止まっている今がチャンスだ!
俺は全力のフルスイングで見事にヤツを仕留め...
〈G〉
「(じゃあの)ブーン」
損ねた。
〈優斗〉
「ぎゃぁぁぁぁぁ!飛びやがった!!」
〈旭葵〉
「え、うそ...こ、こっち来てる!?やだ...やめて!」
〈優斗〉
「危ない!!」
〈旭葵〉
「え...ちょっと...?有海くん?止まって!!」
俺は決死のダイブで旭葵を抱き抱える。
も、勢い止まらず。放置していたバケツの水地帯に突撃する。
〈優斗〉
「ご、ごめん!助けようと思っ...て!?」
図らずも俺が旭葵に馬乗りになってしまった。
〈旭葵〉
「...ッ!?!?はやく!どきなさいよ!!」
〈優斗〉
「す、すまん!!今どくから!ちょ、あばれないでくれ!あっ...」
旭葵が抵抗するので俺は大きく足を滑らせた。転ぶのを防ごうと左手で濡れた床を。
右手で...旭葵の豊満な胸を揉んでしまった。
"ふにっ"という、擬音が脳内に聞こえ、右手にマシュマロのような柔らかい感触が。
や、やわらけぇ...初めて女の子のおっぱい触った...ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ!
〈優斗〉
「わっ!ごめん!!」
急いで右手をどかす。も、時すでに遅し。
〈旭葵〉
「ッッッッ!?!?な、な、ななな...!!」
旭葵を見ると旭葵の顔は真っ赤だった。それが怒りか恥ずかしさなのかその両方なのかはわからない。
〈優斗〉
「ほ、本当にごめん!すぐどくからちょっと落ち着いてく...れ...」
と、旭葵が俺の方を見てないことに気づいた。嫌な予感がし、その視線の方角を恐る恐る辿ると...
––––都井先生が俺のことをゴミを見る目で見ていた。
〈都井先生〉
「悲鳴が聞こえたから来てみたんだが...警察呼んだ方がいいか?」
〈旭葵〉
「お、お願いします!!コイツはケダモノでした!!」
〈優斗〉
「誤解だぁぁぁ!!」
⭐︎★⭐︎★⭐︎
ちょうど今来たらしい都井先生に、なんとか事の顛末を伝えて警察沙汰にはならなかったが...
〈旭葵〉
「お願いだから!早く出て行けぇぇ!!」
仲良く出来そうだった旭葵の好感度は0に等しく...いや、むしろマイナスになった。
ちなみにGは先生が目の前でワンパンでやっつけた。
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