第5話 青春宣言
ステージに上がると生徒(ほぼ女子)の多さ、そしてみんなが自分に注目しているという状況に足が竦んだ。
そしてそのステージの真ん中に立つ。
何か、喋ればいいのだろうか。何か...
〈
「有海優斗さんは、本校設立以来初めての男子転入生です。拍手でこの学園に向かい入れましょう」
その拍手は、
...全く。何が拍手で迎え入れましょうだ。さっきフルシカトされたの忘れてないからな。
あくまでも仕事だからか?それでも、旭葵のおかげで俺の緊張感は解けていた。
〈旭葵〉
「有海優斗さん。これから始まる、この学校での抱負をお願いします」
〈優斗〉
「はい!」
勢いよく返事した後、会長がマイクを持ってこようとして、それを手で制した副会長がマイクを持ってくる。
〈旭葵〉
「...頑張りなさい」
俺だけに伝わるように、小声で声をかけられる。
なんだよそれ。さっきは話そうともしなかったクセに。そんな言い方されて燃えない男なんている訳がない。
マイクにスイッチを入れる。ここからは完全にアドリブ。やらかしても、後悔は全部後回しだ。
〈優斗〉
「わたしは、この学園で...たっくさんの青春を学びたいです」
「わたしは今、みなさんには想像つかないような、ワクワクした気持ちでいっぱいなんです」
「これから始まるいろんな行事を、全部後悔の無いように楽しみたい」
「だって、高校生ってそれだけ青春に溢れていて、振り返ったら一瞬で過ぎちゃうようなものだから」
「そしてこの学校を卒業する時に、"ここに転入して良かった"って、みなさんの前で言えるような学校生活を送りたい」
「その為にもわたしは...わたしは!!」
心臓が高鳴る。
俺は一度だけ深く息を吸って、
「生徒会に、入ります!」
「生徒会に入ったら、みなさんの希望を叶える為に尽力し、様々なイベントにも積極的にお手伝いをします」
「それが、わたしにとっての青春になると思うから」
「だからみなさん...き、清き一票をよろしくお願いします!!」
「これがわたしの抱負...いや、"青春宣言"です!!」
マイクを切って、深々と勢いよく礼をした。
......し、しくじったぁぁぁぁあああ!!
なんだよ清き一票って!ここは任命式でも何でもないぞ!!しかも...生徒会に入るって...流れで、つい!
これで、運命が変わってしまったら、俺は–––
パチ...パチ...パチ...
顔をあげられない(怖くてあげれない)なかどこからか聞こえてくる音。
恐る恐る俺は、顔を上げる。
その音は副会長からだったことに気づいた。金髪のツインテールが微かに揺れる。
なんで、君は...
音は周りを巻き込んで次第に大きくなり、さっきとは比べ物にならないほど大きい拍手へと変わった。
会場が拍手で包まれる。
笑ってるやつなんていなかった。これが前世(死んだ覚えはない)の高校なら男子が馬鹿笑いしてそうなものだが。
...いや、1人笑ってる。都井先生だ。優しい先生かと思ったが、気のせいかもしれない。あとで文句言ってやろうか。
〈旭葵〉
「有海優斗さん、ありがとうございました。以上で転入生紹介を終わります」
会長が俺にマイクを受け取りに来たので、マイクを渡してステージを降り、先程いた場所に座る。
マイク受け渡しの際、会長に何か意味深な笑顔を向けられたが、恥ずかしかったので会釈をするだけに留めた。
そうだ。俺はこんなにキラキラした場所にいるんだ。本心をあの場所で曝け出してようやく気付くことができた。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
〈
「すっごい良かったよ!これからいっぱい青春しようね!」
とは、教室に戻った後すぐ話しかけてきた之愛の第一声である。
俺はあの副会長...もとい旭葵と話したいんだが...
生徒会の仕事で少し遅れて来るのだろう。まだ来る気配はない。
〈優斗〉
「お、おう。そう言ってもらえると嬉しい」
〈之愛〉
「ってやっぱり優斗は女子が多いから
〈優斗〉
「そそそ、そげなことは...」
無いとは言えないかもしれない。
実際、青春=恋愛みたいなところはある。
なかでもこの女子95:男子5みたいなこの学園ではなおさらだ。
〈女子A〉
「それでー、有海くん生徒会に入りたいんだ」
〈優斗〉
「うん...俺は男だし雑用でも力仕事でも役に立てることがあると思う」
〈之愛〉
「へぇ〜立派だね!」
〈女子B〉
「でもそういうことなら〜やっぱり
今は空席となっている隣の席を指される。
〈優斗〉
「うん。そうなんだけど...」
今なら対等に話してくれる...なんてのは思い上がりだろうか。
でも、あの宣言をした後に見た彼女の目は、どこか優しい目をしていた気がした。
〈女子C〉
「あ、水倉さん来たよー」
揺れる長い金髪ツインテ。彼女のその容姿はよく目立つ。
〈優斗〉
「えっと...」
之愛達から離れ、旭葵のすぐ前に立つ。
〈旭葵〉
「先生、この後の予定は大掃除後、解散ですよね」
が、彼女は一度俺を見た後、華麗にスルーし、教室に居た都井先生の方を向いて今後の確認をした。
あれ...もしかしてまたシカトされた...?
〈都井先生〉
「ん、まぁそうだが」
〈旭葵〉
「じゃあ有海くん貰って行きます。彼、生徒会に入りたいらしいので」
と思ったが、どうやらそういう訳でもないらしい。ん...俺を、もらっていく?
〈都井先生〉
「ほう。というのは?」
〈旭葵〉
「これから会長と生徒会室の掃除をするので、手伝って貰おうかと」
〈都井先生〉
「なるほど。好きに使え」
〈優斗〉
「俺を都井先生の物みたいに!?」
〈旭葵〉
「ほら、行くわよ有海くん。青春...するんでしょ?」
〈優斗〉
「は、はい!!」
〈之愛〉
「わーお」
どうやら少しは認めてくれた...のか?俺は金髪ツインデーレの副会長に連れられ生徒会室に向かう。
旭葵に先導してもらい、少し後をついていく。どこに生徒会室があるかぐらいは覚えておかねば。
そうやって歩いているうち、こちらに振り返りもせず、まるで独り言のように旭葵が話し出した。
〈旭葵〉
「勘違いしないでよね!私は別にあなたを認めたわけじゃないんだから。
おー、生ツンデレ。初めて見た。そして俺に興味を持ってるのは、どうやら会長の方らしい。声真似までしてくれた。
でも、それでもだ。
〈優斗〉
「それでも、ありがとうな。おまえのおかげですげぇ勇気でた。それだけは、間違いない」
あの時の緊張を解いてくれたのは会長じゃなくて、目の前にいる副会長の旭葵で。お礼を言いたかった。
〈旭葵〉
「........そ」
旭葵は、少し素っ気ない返事をして顔を逸らした。そしてその彼女の頬が薄ら赤くなっているのを俺は見逃さなかった。
チクショウめちゃくちゃ可愛いじゃねぇか副会長。
このまま副会長ルート突っ走っても全然OKだと思った。でも、それはまだ先だ。俺はあくまでもヒロインみんなと青春を送りたい。
だってそれが俺のあの場で語った本心だから。
〈旭葵〉
「着いたわ。ここよ」
〈優斗〉
「ここが...」
俺のオアシス(予定)の場所だ。両開きの大きいドアがあって中は見えないが、外観から見た感じ、中もとても広そうな感じだ。
これから始まる学校生活に期待を込めていざドアを...!!
〈旭葵〉
「ただいま戻りま...っ!?」
〈優斗〉
「え?何があった?うわっ」
先にドアを開けた旭葵がすぐ閉めたので、反射的に俺は反対側のドアを開け中に入る。
すると、中は書類や物が散乱、更に水浸しのところもあり、目を背けたくなるような惨状だった。
一瞬意識が呆然としたがなんとか決心し、足の踏み場に気をつけて部屋の中に入っていく。
旭葵も意を決して入るようだった。
すると一際大きいゴミ山から声がした。
〈恐らく会長〉
「た、たすけてくださ〜い」
〈旭葵〉
「こ、
〈優斗〉
「お、おう!」
⭐︎★⭐︎★⭐︎
〈胡依美〉
「助かりました。ありがとうございます」
なんとか旭葵と力を合わせゴミ山から会長を救出した。
〈旭葵〉
「いえいえ!胡依美先輩がご無事なようで何よりです!」
〈優斗〉
「右に同じく」
〈胡依美〉
「あ!君がさっきの青春君ですねっ!」
〈優斗〉
「俺そんな覚え方されてるんですか!?」
やばい。穴があったら入りたい。
〈胡依美〉
「わたしも、青春...大賛成です!ね、旭葵ちゃん」
〈旭葵〉
「え!?あ、はい!」
〈胡依美〉
「そんなわけで、歓迎します!ようこそ!生徒会へ!」
ゴミ山の上で、会長はそう俺を歓迎してくれたのだった。
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