第4話 始業式

〈優斗〉

「よろしく、天見あまみさん」


之愛のあ

「名字で呼ばれることってあんまりないから、名前で呼んでー!わたしも優斗って呼ぶから!」


〈優斗〉

「分かった。之愛...さん」


〈之愛〉

「呼び捨てで良いよー」


〈優斗〉

「了解。之愛、ね」


クラスメイトの女の子を、名前かつ呼び捨てで呼ぶなんてことは、小学生以来だろうか。


妹キャラである如月夏きさなとは、勝手が違う。


〈之愛〉

「優斗はどこから転校して来たの?」


〈優斗〉

「え、えーと」


いや、そんなの俺が知りたい。


俺と之愛が会話していると転入生が珍しいのか、それとも俺が男だからか俺の席の周りに人だかりができた。


もちろん全員女子。迂闊なことは言えないな。


〈優斗〉

「親の関係でちょっといろいろあって...」


質問の答えとしては苦しい。が、矛盾も恐らくしていない。そしてこれ以上この話題を聞きにくい雰囲気作りをする。


〈之愛〉

「へぇ〜お仕事とか?」


あれ?まだ切り込んできた。それはちと予想外。


〈優斗〉

「う〜ん。まぁそんな感じかな」


とりあえず濁す。というかそれしか出来ない。親の安否すらも俺は知らないのだ。


都井とい先生の言い方的に何かあったのは間違い無い。単に仲が悪いのか、不幸な何かがあったのか、お仕事なのかもさっぱりだ。


〈之愛〉

「えぇ〜どんな?わたしのパパはー」

〈女子A〉

「ちょっと之愛...それ以上はやめてあげた方がいいんじゃ...」


止まらないドリブルを続ける之愛を、名前の知らない子が俺の雰囲気を察してか止めてくれた。ファインプレーすぎる。


〈之愛〉

「な、なんかごめん!男の子と話すことなんてそうそう無いから舞い上がっちゃって!」


〈優斗〉

「あぁ、いや!気にしないで!」


少しは気にして欲しいが他の女子もいる手前こう言うしかない。まぁ単純に超絶美少女と話してるのは楽しい。


〈女子B〉

「じゃあー、なんでこの学校にしたの?やっぱり女の子が多いから?」


...それで"はいそうです!"って言ったらドン引きされるだろ!?と、エロゲー主人公としてツッコミを入れておく。


ここは先程先生から得た情報で、乗り切らせていただく。


〈優斗〉

「もともとこの町に引っ越すのは決まってて。それでできるだけ近場で極端に偏差値の低くないとこを探したらここだった」


〈之愛〉

「へぇ〜優斗って頭良いんだね」


〈優斗〉

「...えっ!?そんなことはないと思うけど...」


ん?都井先生に聞いた話じゃここの偏差値はそこそことか言ってたような...


〈之愛〉

「うそー!ここの転入試験って難しいってことで有名だよー?今年もいろんな人が受けたど受かったの優斗だけなんだって!」


〈優斗〉

「そうなのか」


之愛が暴走してるのかと思ったが、周りの子も一切否定しない。どうやら本当のようだ。


マズイ。まさかの主人公は頭が良いキャラとは。俺は馬鹿ではないと思うし前世(死んだ覚えはない)の記憶を活かせばなんとか...


〈之愛〉

「じゃ、勉強で分からないとことか、教えてね!」


〈優斗〉

「りょ、了解」


まいったな。ちゃんと空き時間見つけて勉強しよう。少しでも矛盾を生じさせたら終わりと思っていい。


それほどエロゲーというのは奇跡の連続で運命のようにヒロインと結ばれるものなのだ。


今のところは...大丈夫と思いたい。


〈都井先生〉

「お前ら廊下に出席番号順に並べ〜体育館に行くぞー」


その後質問もほどほどに先生の声で俺たちは廊下に並び出す。俺は出席番号1番なので先頭になる。


そうか。始業式って言ってたっけ。



⭐︎★⭐︎★⭐︎



やっぱり。俺の読みは正解だったようだ。


旭葵あさぎちゃんが生徒会副会長と言うのを之愛から聞いた時にも思ったが、これで確定だった。


舞台は体育館。


そこで俺は整列し最前列に座っている訳だが、司会を担当しているのは恐らく生徒会長。その人は見覚えがあった。


北条ほうじょう 胡依美こよみちゃん。


ウェーブがかった黒髪は腰辺りまで伸ばされていて、白のカチューシャが似合っている。


清楚で人当たりの良さそうな、どこかのご令嬢のようなイメージ。


円周率もでかく、大人な魅力のある間違いなくこの世界のヒロイン。


つまり俺の攻略対象。


多分...というか絶対に先輩属性だな。そして隣に副会長である金髪ツインテールのツンデレ、略してツインデーレの旭葵あさぎちゃんと。


そう。もう既に4分の2のヒロインが生徒会にいる。やはりこの世界の本筋は生徒会ということで間違いなさそうだ。


ひとまずは生徒会に入る路線で、計画を立てよう。


今日中にあの会長ともフラグを立てておきたいが...いや、無理に攻めるのはなんか違うな。話すことも特に無いし。


胡依美こよみ

「続きまして、校長先生からのお話です」


ただそれにしても落ち着きのあって、聞く人の耳を癒すようなとても良い声だ。


如月夏きさなの時も思ったがいい声優さん使ってるな...ってこの世界では生身なのか!!


見た目だって二次元と三次元で違和感ゼロとか、神かよこの世界。一生ここにいたい。


〈旭葵〉

「それでは、始業式を終わります。生徒、起立!」


旭葵も完全シカトされたっきりで初めて声を聞いたが、とても可愛い声をしている。うん、可愛い。おっと、やべ。立たなきゃ。


1番前なのもあって、周りが立っているのに遅れて気付いた。慌てて立つ。


あっ...!!


急いで立ったのもあって盛大に足を滑らせ...


       ドタッ!!


体育館に俺の倒れた音が鳴り響く。


...俺は思いっきり転んだ。


前に人が居なかったので誰かに当たる事はなかったが、めちゃくちゃ恥ずかしくなり何事も無かったかのようにすぐ立ち上がる。


旭葵あさぎ

「......礼!着席」


旭葵を見てみると目が合った気がした。どこか笑いを堪えているように見えたのは、気のせいであって欲しい。


最前列かつ周りが女子だらけというのも災いして、身長的にも目立った。くそ、恥ずかしい...


なんて恥ずかしがっていると、


〈旭葵〉

「続きまして、このままをします」


一瞬俺は耳を疑った。


なにそれ!?聞いてない!はっ!都井先生!


都井先生を見つける。都井先生は"やってしまった"と言わんばかりに顔を抑えていた。


わ、忘れてたな!!ってか今日俺が学校に急いで行ったのってこれが理由か!!


本来ならこの打ち合わせをするべき時間だったのだろう。都井先生と雑談なんかしてる場合じゃなかった...


いや、まぁお陰でそこそこ情報は掴めたが...それはそれ。これはこれ。


それに俺は今日転生した身。そんなイベント知ってる訳がない。


〈旭葵〉

「有海優斗さんです。ステージに上がって下さい」


〈優斗〉

「は、はい!!」


無情にも俺は晒し者にされるらしい。


ただでさえさっき転んだ名残りで、まだ顔に熱が籠っているというのに...


俺は急いで立ち上がり、ステージに続く階段を、不安と緊張を抱いて上っていった。

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