第3話 負けヒロイン
鞄から上靴を取り出して靴を履き替える。
靴箱はどこを使えばいいのか分からなかったので、上靴を入れていた袋に履いていた靴をしまった。
職員室...だよな。
ただその職員室がどこかわからない。適当に探すには広すぎるが...
〈???〉
「お、来たか。
そんな不安に駆られた中こちらに向かって女教師が近づいてくる。
紫がかった黒髪をミディアムヘア...だったか?肩ぐらいまで伸ばした女教師が近づいてくる。
エロゲー世界だからだろうか?実際の年齢はわからないが、20代前半に見える。
〈優斗〉
「...あ、俺ですか!?」
〈???〉
「他にどの有海優斗がいるんだ」
反応に遅れたのは、自分の名前すらろくに確認出来ていなかったのが原因。
確かに如月夏と同じ名字だもんな。名前が優斗と。よし、覚えた。
〈優斗〉
「あはは...すみませんボケっとしてて。先生は?」
〈都井先生〉
「お前のクラスの担任の
〈優斗〉
「は、はい。都井先生ですね」
それより去年まで女子校だった?
この情報は先の展開を読むのに大きく役立ちそうだ。
学園を主軸としたエロゲーは、部活や生徒会に主人公が入ることでストーリーが始まることがある。
そして去年まで女子校だったという情報...これは主人公が生徒会に入る可能性が高い。
恐らくだが、俺は生徒会初の男子的な役回りにされるということ。"男手が欲しい"とか"男の子の意見も聞きたい"とかで。
という事は...俺は生徒会に誘われるのを待ってればいいのか?それとも何か入りやすいアクションを起こすべきか?
〈都井先生〉
「とりあえず職員室まで着いてきてもらうぞ」
〈優斗〉
「は、はい!」
都井先生が先に歩き始めたので思考を一度止めて、続くように後ろを歩く。
〈都井先生〉
「大変だな。お前も」
不意に先生が話しかけてきた。
〈優斗〉
「大変...ですか?」
〈都井先生〉
「あぁ、すまない。親御さんのことだ」
なるほど。エロゲーあるある主人公の両親は基本いないの法則だな。そりゃえっちシーンで両親が居たらしらけるもん。
因みに主人公のお母さんは、他のヒロインと遜色ない程可愛い、なんてこともよくある。
〈優斗〉
「俺には如月夏がいるので」
〈都井先生〉
「その調子なら大丈夫そうだが...学内でも、家庭でも困ったことがあったらいつでも相談してくれ」
〈優斗〉
「ありがとうございます」
見た目的には若そうだが、とても良い先生なのかもしれない。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
その後俺は職員室に連れられ、都井先生と雑談していると朝のチャイムが鳴った。
その後また先生に連れられて階段を登り、3階の教室についた。
まず先生が教室に入り、"呼ぶまで教室前で待っているように"と命を受けたので、俺はそれに従う。
ちなみにクラスは2ーAで、出席番号は2番。席や靴箱は出席番号から推理すればOK。
朝のホームルームが始まり、先生が挨拶を済まして俺を呼んだ。そう、転入生挨拶の時間だ。
〈優斗〉
「皆さん初めまして。有海優斗です。男だからと言って気遅れせずに話しかけてください。よろしくお願いします」
特に黒板に字を書いたりはせず、口頭で無難に転入生挨拶を済ませる。あと分かってはいたが、クラスの子は俺以外全員女子だ。
先生の話では一年生は10人以上男子がいるらしいが、二年生は俺だけ。三年生は0。つい去年まで女子校だったんじゃ仕方ない。
エロゲーでよくある主人公の友人枠の男子は一年生になるのか。はたまた居ないのか。
ちなみに共学となった理由に、近くの高校が老朽化とかで廃校になったんだとか。そしてもう一つある高校は偏差値底辺のバカ高。
そう言った理由から主人公はこの学校を選んだと推測できる。先生と雑談しといて良かった。
〈都井先生〉
「みんな仲良くしてやってやれよー。席はそこの空いてるとこだ」
勝手に席も出席番号順かと思ったが、そんなことはなく、右から2列目で前から3番目の席だ。
〈優斗〉
「は...い...」
俺はその自分の席の隣の人物を見て、思わず見惚れてしまった。
相手は俺の方を一切見ておらず、廊下側に顔ごと背けているが、その横顔と金髪に、つい目を奪われる。
一目で分かる。間違いなくこの世界のヒロイン。
座っているから分かりづらいが、金髪のお尻くらいまで届きそうな長いツインテールの、お嬢様感バリバリ美少女だ。
女性的な膨らみも大きく如月夏とは違ったベクトルの美しさ。
4人のヒロインのうちの1人。金髪碧眼ツインテの
〈優斗〉
「よろしく」
〈
「.........」
ん?話しかけたらシカトされた。聞こえてない...わけないもんな。
普段の俺ならここで引くが今の俺はエロゲー主人公。エロゲー主人公らしく振る舞うべし。
〈優斗〉
「おーい、聞こえてる〜?」
彼女の視界に映るよう手を振り必死にアピール。
〈旭葵〉
「...............」
そっぽむかれ完全シカト。一瞬だけムカっと来たがすぐ落ち着く。これ以上行くかどうか悩みどころだが流石に引くことにした。
なるほど。旭葵ちゃんツンデレキャラと。
この嫌われている理由はまだ判明しないが、最初主人公に当たりキツいキャラは、攻略さえすればめちゃくちゃ甘々になりがち。
それを想像すると今の無礼も可愛く見える。いや、可愛いしか出てこない。
なにはともあれこれで旭葵ちゃんとはフラグが立ったということだ。
あとは...黒髪の子と桃髪の子か。
チャイムが鳴ってホームルームが終わり、隣の旭葵ちゃんがいそいそと席を立ち、教室から出て行ってしまった。
そんなに俺の隣が嫌だったのだろうか。
空いた席を見つめてると...
〈???〉
「あー水倉さん生徒会の副会長だから。それで始業式の準備があるんだと思うよ」
赤髪で腰程までポニーテールを伸ばしている女の子に話しかけられた。他ヒロインに遜色無いほどめちゃくちゃ可愛い。
πは見た感じ、如月夏と旭葵ちゃんを足して2で割った感じの大きさ。
これは......どこの誰さんだ。
〈優斗〉
「えぇとー」
〈之愛〉
「
先程の旭葵ちゃんとは打って変わって笑顔で手を振られる。...まさかこの子は。
女子Aとかじゃなく名前もちゃんとあるし出番もあるが、攻略ルートが存在しない友達止まりで終わるキャラ。
続編や追加コンテンツなどで新たに攻略できる激アツ展開も珍しくはないが...PVでは残念ながら4人。つまり...
エロゲー界の負けヒロインだ。
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