武
武はソファーに腰掛け、ワインを味わっていた。
足元にいるダルメシアンはうつらうつらしている。
目の前には、肉食泥鰌が蠢く巨大な水槽がある。
ここはリビングルームではなく、中町至を泥鰌の餌にした地下室だった。
この地下室は実はシェルターでもある。
核戦争がいつ起きても構わないよう、シェルターを作っておいたのだ。
戦争が起きるのは大歓迎だ。
武が親から譲り受け、今なお増え続ける資産は武器や核の販売により成り立っている。
しかし自分が被害を被るのは勘弁だった。
今、外ではビル街や警察署、皇居までが爆破し、人々が混乱している。
戦争ではないようだが、戦争のような状態だ。
静まり次第海外へ飛び、しばらくそこで過ごそう。専用ジェットでの迎えを寄越すのだ。
最後に生き残るのは、自分のような賢い金持ちだ。
武は優越感に浸りながらワインを舐めた。
目の前でものすごい爆破音と共に、ガラスが粉々に弾け飛んだ。
あっという間に部屋が肉食泥鰌の海になり、武は何が起きたのか考える間も無くその海に飲まれた。
断末魔の叫びが部屋中に響いた。
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