高橋

「何か食っておくか?」


高橋はステアリングを軽く握りながら健児にたずねた。


「必要ねぇよ。シャブをキメれば食事などせずとも元気いっぱい、健康でいられるんだ。

食事なんてもんは、シャブの救いを得られない下等な生き物のする事だぜ。」


助手席に座る健児は眉と口角を上げ、得意気に胸を張って答えた。

シャブを決めたので絶好調だ。


健児は冗談ではなく、大真面目にそう思って言っている。

そうとうシャブに頭をやられているらしい。


「なあ、あんたどうやって俺をあの建物から連れ出せたんだ?

だってよ、白い服着た強そうな男が何人も居るじゃねぇか。言っちゃ悪いけど、あんた腕っぷしがそんな強いようには見えねぇ。」


「その男達の中に、金に困ってる奴がいたんだ。」


看護師一人一人、興信所を使って調べた結果、ギャンブルに嵌まり借金で首の回らなくなっている者を見つけた。

そいつはギャンブル依存性、つまり病気だった。

依存性の患者が治療も受けずに精神病棟の看護師をしている。医者の不養生というやつかと思った。

彼は借金取り以上に、ギャンブルをできなくなる事を恐れていた。依存性とはそういうものだ。

高橋のおかげで借金を返したその看護師は、これでまた金を借りる事ができ、ギャンブルができると喜んでいた。


興信所、看護師の借金、金はいくらでもあるから困らない。

子供のため夫婦で積み立てていた貯金、その他の貯金…全て必要無くなった。

住んでいたマンションも売りに出し、安アパートで暮らしている。

妻子の生命保険だけは使う気になれず、妻の両親に引き取ってもらった。自分には必要無い。



高架道路を走っていると、ものすごい音と振動が起きた。

辺りを見渡し、車を端に止める。

背後を見ると、遠くの方でビルが次々とゆっくり崩れていく様が見える。


「陛下だ!陛下のお怒りだ!陛下がとうとう、ご自分の力を示すためにこのような事を!人類め、反省しろ!」


健児が騒いでいる横で、高橋は気付いた。

奴が動き出した、と。

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