健児

陛下の命を受けて両親、弟を葬った健児は警察にもちろんその事を訴えた。

これは天皇陛下の勅命であると。


警察にはもちろん話が行っているはずだから、話はあっさり済み釈放されると思っていた。

ところが、あろうことか警察は陛下の声を握り潰し無かった事にした。なんという不敬。


そして健児は消毒液の臭いのする建物に閉じ込められ、白い服を着た屈強な男達に監視されるようになった。

シャブを与えられずにいて、一体何日経つのだろう?

シャブを得ようと暴れる度、注射を射たれ意識が泥濘に沈む。

目が覚めると再びシャブを得ようと暴れざるをえない。この繰り返しだった。


そして今、見知らぬ男が目の前にいる。

初めて見る男だ。白い服も着ていない。

そして今居る場所は、あの消毒液の臭いのする建物の中ではなさそうだ。


見知らぬその男は普通の、どこにでもいるような顔をしている。

ただ、かなりやつれて見えた。目の下の隈も酷く瞳は暗い。

スーツ姿だが、シャツは皺が寄っておりスーツもよれよれだ。

みすぼらしく見えた。


朦朧とした目玉を動かすと、そこは部屋の様だった。

健児の部屋ではない。おそらくこの男の部屋だろう。

テレビが一台、少し離れた場所にテーブル、そしてテレビの前にあるソファーに健児はもたれかかっている。


男が何かを取り出した。

白いものが入ったパケ、シャブだ!


健児は男の持つパケに飛びかかった。

視界が暗転し、顎に痛みが走る。床に腰を打ち付けた。

蹴られたか、殴られたらしい。


それでも諦められなかった。シャブのためなら、どれだけ殴られ蹴られても構わない。


這いずりパケへ手を伸ばし、また蹴られた。


「頼む…それを…それをくれ…」


健児は這いずり、涙を流しながら哀願した。


「無料でやるわけにはいかないんだよ」


男は無表情で健児を見下ろし言った。


「金…金は…家に帰れば…」


「帰れるわけないだろう、お前の家は実家共に今、警察が捜査中だ。行けばまた病院に連れ戻されてもう二度とこれをやれなくなるぞ。」


男はそう言って、パケを軽く振った。


「それに俺の要求は金じゃない。」


「何だ?!何でもやる!何でもやります!」


嘘ではなかった。シャブが手に入るなら、この男の糞を食べたって構わない。


「お前に最初、シャブをやった奴は水玉男だな?」


「へ?…水玉男って、顔中に穴あけたり、タバコの穂先押し付けたりして回ってるヤバい奴の事か?」


「そうだ。」


「いや、それは分からねぇ…黒いキャップ被ってサングラスした男だって事しか…」


「お前にシャブをくれてやる前に、奴は何か要求したか?」


「ああ…中身は分からねぇけど、これくらいの物を皇居の寝室とか、まあ色んなとこに置けと。」


健児は両手を使い、30センチ程の幅を作って見せた。


「やっぱりな、俺と同じだ。俺もそれをある場所に置くよう言われた。

お前はその水玉男にハメられたんだよ。

お前を良いように使った後は、口封じのためジャンキーにした。」


「ハメた…なぜ俺を…」


「良いか、よく聞け。

あいつの正体は極左だ。だから天皇陛下のお気に入りであるお前をターゲットにし、ヤク中にする事で陛下を悲しませようとしたんだ。」


「そ、そんな…なんて事だ…あいつ…!」


「お前の今の責務は、陛下のため奴に制裁を下す事だ。

その計画に乗るなら、今後これを欠かさず与えてやる。」


男がパケを指して言った。


パケの中で陛下(シャブ)が健児を見据え、深く頷いている。

健児はそれに向かって敬礼した。










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