健児
給料日が遠いというのに、シャブは既に残り2グラムしか無い。
おまけに目の前にいる美保が、しばらく金を用意できないと言う。
美保は現在、健児の住むマンションで共に暮らしている。
この顔ではメンズエステで働けず、実家に度々金を無心する事もできない彼女は、生活費を切り崩し始めた。
これ以上崩すと家賃も払えなくなると言うので、健児の方からうちで一緒に暮らそうと誘ったのだ。
何をやらせても無能な美保は、ハウスキーパーとしては使えない。しかし金のなる木にはなれる。
自分と同棲している事は隠させ、生活費として入れられる金を健児は手に入れていた。
しかし徐々に覚醒剤の切れる速度が上がり、中毒症状も酷い今、美保の生活費だけでは追い付かなくなってきている。
俯く美保に、健児は一枚の用紙を投げた。
醜女専門のSM風俗をネットで見付け、求人面をコピーしたものだ。
「…何?…これ…」
「ここでなら美保も働けるだろう?」
「けんちゃん…私がここで働けるって…そう思ったの?」
美保は驚愕していた。無理もない、健児は常に美保を「可愛い」だのと心にも無い安いお世辞を言いまくっていた。美保の顔が健児に殴られ、崩壊した後でさえも。
そして余程自惚れの強い女なのか、簡単に真に受けた。
「美保…金が必要なんだよ。なあ、君の今の顔をSNSのフォロワーに見られたり、実家からの仕送りで生活してる事を知られるのとどっちがマシだ?」
美保の顔が凍り付く。彼女にとってはSNSの、あの狭い世界が全てだ。
自分にとって職業、肩書き、実家の名声、父親の目がそうである様に。
「お願い…やめて、けんちゃん…」
美保が涙を流し、健児の足にすがり付く。
彼女が次に言う台詞は容易に予想できた。
ここで働くようになれば、彼女の弱みをまた一つ握る事になる。
美保が風俗へ行かずメンズエステに留まる理由は、性依存性へのせめてもの抵抗だけではない。
フォロワーからの蔑視を避けるためだ。
彼女の属する狭い世界では、風俗嬢は蔑視の対象だった。メンズエステ勤務がギリギリ許されるラインなのである。
なので美保だけでなく、この手の女はメンズエステ勤務である事が多い。そして生活費も当然実家の仕送りであろう。
つまり道楽でやっているのだ。
自分の様に、苦労して働いた事の無い怠け者の女達に働く事の大変さを教えてやる、そう考えると自分のやっている事も罪ではない気がした。
弱みを握れば、もう泣き落とし等で媚びる必要も無くなる。
「ようやった、ようやったぞ」
美保の背後に立つ陛下、天皇陛下が自分に微笑みかけお褒めの言葉を述べている。
「ようやった、さすが朕の親戚じゃ。朕も鼻が高い。」
ーーーーー陛下、勿体なきお言葉…いたみいります。
健児は感涙し微笑み返した。
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