健児

最近職場の人間は皆、健児を避けている。

職場いじめというものではなく、まるで触れてはいけない存在の様に目を合わさない。

それ以前から彼は職場で空気のような存在であったのだが、避けられるようになって初めて存在感を得、妙な満足感を得ていた。


皆がこの俺を恐れている、今まで取るに足らない存在として無視していた俺をーーーー


鏡に映る自分の姿を見れば、周囲が怯える理由は一目瞭然。

頬はこけ、土気色の荒れた肌。爛々と光る目、薄くなった頭髪、痩せこけた体、まるで骸骨かゾンビの様だった。

醜い肉体は覚醒剤による代償だ。


しかしそれでも、薬をキメた健児の脳は劣等感や後悔、恥辱とは無縁だった。

シャブがあれば、もう劣等感や被害者意識に苦しむ事は無い。不眠不休でも元気いっぱい、無敵の怖いもの無しだ。


美保から貰った七万円で一グラム一万円の覚醒剤を七グラム買えた。

これで一週間は安心できる。


何らかの書類の入った段ボールを詰んだ台車をひきながら、健児は不気味な笑顔をたたえている。

たまに「ウヒヒ…」と君の悪い声を漏らしながら。

爛々と輝く目はどこを見ているのか分からない。


周囲の職員はそそくさと道を開け、目が合わないように違う方向を向いたり俯いたりした。

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