武は怒りのあまり、手にしていたマイセンのコーヒーカップを液晶画面に叩きつけた。


液晶画面のテレビは頑丈なのかコーヒーカップが脆いのか、ヒビも入らず辺りにカップの破片が飛び散る。


液晶画面では、何事も無かったかのように水玉男の話を続けている。


テレビに出ている者達は、今や誰も水玉模様を身に付けていない。

水玉男の出現により、水玉模様は不吉の象徴と化しつつある。


「許せん…」


武は声を震わせながら、水玉模様のソファーに腰掛けた。

カーテン、ベッドカバー、衣類のみならず床や天井、壁までもが水玉模様の部屋に彼の殺気立つ声が響いた。


水玉模様流行の火付け役、それが武だった。

大資産家の息子である彼には兄弟姉妹がいたが、皆密かに暗殺し財産全てを相続した。


莫大な資産を使い彼がやりたかった事、それは愛する水玉模様にこの国での地位を確立させる事だった。

一時的な流行では満足できない、千代に八千代に苔のむすまで、国民皆が水玉模様を崇め支配下に置かれる事を望んだ。


そのために芸能プロダクションはもちろん、政界、皇室まで買収し水玉模様の地位を築かせたのだ。


それが突如現れた猟奇犯罪者によって、水泡と化されようとしている。


武は電話のプッシュボタンを押した。出てきたのは、今テレビに流れている番組のプロデューサーだ。


「おい、何だこれは?!誰一人水玉模様を身に付けていないじゃないか!スタジオ中も水玉模様で統一しろと言ったはずだぞ!」


「す、すみません!その、視聴者から苦情があって…」


「いいから直ぐに水玉模様にしろ!」


命令を下すと、返事も聞かずに電話を切った。

大手スポンサーである自分の命令に従わないはずがない。


政界、皇室にも釘を刺しておかねばならない。

武は再び子機を手に取った。











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