吉彦
深夜2時、居酒屋からターゲットが現れたのを確認した吉彦は人混みに紛れながら後をつけた。
繁華街を抜け、人通りの無い所に入ったところで素早く近寄りスタンガンを押し付ける。
くずおれたターゲットを、酔い潰れた知人を介抱するていを装い、近くのコインパーキングに停めておいた車に押し込んだ。
車は今回も偽の名義で借りたレンタカーだ。
着いた先は山奥の廃墟ビル。
吉彦はターゲットを全裸にし、柱に縛りつけた。
目を覚ましたターゲットは驚愕と恐怖の色を顔に浮かべ、辺りを見回した。
「誰だお前は?!一体、何の目的でこんな…」
「どうして最近また水玉模様を全面に押し出し始めた?」
ターゲットは、あるテレビ局のプロデューサーだった。
水玉男、すなわち吉彦への恐怖から、水玉模様は忌むべき存在となりつつあり、テレビからも水玉模様は消えつつあった。
ところが最近になって、再びこのプロデューサーの在籍する番組では水玉模様に埋め尽くされるようになってきたのだ。
誰かが背後にいる、そう直感した。そして水玉模様の火付け役に繋がる可能性を感じた。
「なぜって…そりゃ、水玉模様は流行ってるから…視聴者から要望が来たんだよ…」
季節は12月中旬、山奥の廃墟はおそらく氷点下に至るだろう。プロデューサーが震えているのは恐怖だけでなく、凍りつくような寒さもあり、歯はガチガチ音を立てている。
哀れみや罪悪感は微塵も感じなかった。
水玉模様に世界が汚染されて、吉彦は徐々に自分にしか哀れみを感じなくなっていった。
世界で最も不幸であるのは自分ーーー
理性は違うと言っているが、感情がそれに蓋をしている。
物心つかないうちから虐待され、ボロをまとい飢えと寒さに苦しむ子供を見ても、今の自分は哀れみを感じないだろう。
吉彦はスタンガンのスイッチを入れた。
バチバチと光るスタンガンに恐怖するプロデューサーに再び尋ねる。
「その視聴者ってのは誰だ?」
良い淀むプロデューサーを前に、吉彦はタバコに火をつけ紫煙を吹き付けた。
そしておもむろにタバコの先をプロデューサーの額に押し付けた。
暗いビルの天井に絶叫がこだまする。
「そんなに水玉模様が好きなら、ずっと水玉模様と一緒にしてやるよ」
吉彦の三日月形に歪んだ目が残虐に光った。
この為に、タバコを2カートン持って来ている。
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