第313話 交通警備員
夏休みは実家に帰っても何もすることがないので、バイト三昧にすることした。
手っ取り早く稼ごうと思って、時給の高いところを選んだのが間違いだった。
日給15000円。
それは俺にとってかなり破格の値段だったから、何も確認しないで飛びついた。
バイトの内容は道路の誘導警備員だ。
ハッキリ言って、1日目で後悔した。
まず、日給として考えると高いが、実際は時間が12時間で、誘導場所に向かうまで片道1時間かかる。
なんだかんだ言って、15時間くらいは拘束されるようなものだ。
時給に換算すると1000円ちょっとだろうか。
なにより炎天下の中、立ち続けないといけないのが拷問に近い。
これなら多少時給が低くても、コンビニやスーパーの店員とかの方がいいだろう。
エアコンの効いた職場にすればよかった。
とはいえ、なにも12時間ぶっ通しで立ってないといけないというわけじゃない。
2時間に1回30分くらいの休憩がある。
結構、休み時間が多いじゃん、と思うかもしれないが、逆に30分じゃ体力が回復できないくらい辛い。
ホント、太陽ってヤバいよ。
だって、鉄を置いておいたら、太陽の熱で肉が焼けちゃうこともあるらしいし。
まあ、とにかく、一度やることになったのだから、諦めてやるしかない。
来年は絶対にやらないと心に誓った。
車の中で、ガンガンエアコンを付けたいところだけど、ガソリンも高くなっている今、それもなかなかできない。
とにかく、冷たい物を飲んで乗り切るしかないのだ。
飲み物を飲んで、ぼーっとしていると、アラームが鳴る。
休憩の交代時間だ。
また、地獄の2時間の始まりだ。
俺が今、来ている現場は土砂崩れかなにかで、山の2~3合目のところを片側通行にしているために、車を止めたり誘導するのだ。
山の中の現場だから暇かと思ってたけど、観光シーズンのせいか、意外と車が通る。
しかもバスやトラックをうかつに停めると、運転手にブチ切れられたりする。
はあ、やってられん。
ドンドン、憂鬱になる。
俺が向かっていく中でも、何台かの車が通っていく。
「……交代ですよ。休憩どうぞ」
俺とペアの人は70歳のじいさんだ。
よく、こんな炎天下の中、平気な顔で立ってられるもんだ。
ホント、凄いよ。
だが、俺が声をかけても、じいさんは無反応だ。
「休憩どうぞ!」
叫ぶように言うが、またも無反応。
立ったまま気絶してるのかと思ったが、耳のところに補聴器が入っていない。
じいさんの足元を見ると、案の定、補聴器が落ちている。
俺は補聴器を拾い上げて、じいさんの肩を叩き、補聴器を渡す。
「ああ! ありがとう! 通りでさっきから聞こえづらいと思ったわけだ」
「休憩ですよ」
「ありがとう。じゃあ、よろしく」
じいさんは俺にトランシーバーを渡して、休憩のために車の方へ歩いていく。
さてと。
また2時間頑張りますか。
……あれ? なんかサイレンの音がするな。
なんだろう?
終わり。
■解説
トランシーバーを使っているということは、車のストップやゴーは無線を通じてやっていることがわかる。
つまり、トランシーバーで「車を通すので、そっちの車を止めてください」という連携を取っているのだ。
だが、おじいさんは補聴器が取れていたため、『トランシーバーの声』は聞こえていないはずである。
(語り部が大声を出しているのに、おじいさんは反応できていない)
そして、交代をするとき、語り部の横を車が通っている。
さらに、最後、サイレンの音がしていることから、誘導ミスによる追突事故が起きていることが考えられる。
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