第304話 皆既日食
この時代でも、未だに未接触部族が存在する。
そういう部族は大体が排他的で暴力的なことが多い。
男が接触を試みている部族も、今まで一度も接触に成功した事例がなかった。
というより、接触を試みて、帰ってきた人間はいない。
それでも男はその部族の神秘的な儀式に魅入られ、なんとか接触を図ろうと機会を伺っていた。
いつも遠くから双眼鏡で儀式を見るだけでは物足りなく、やはり直接、近くで見たいと思っているのだ。
遠くからこの部族を観察している男は、その部族が言葉ではなく、身振りで大部分のコミュニケーションを取っていることに気づいた。
さらに、100年前のその部族のことが書かれた文献が見つかり、研究することで部族の理解が進んだ。
この文献の作者も男と同様に遠くから部族のことを観察していたのだろう。
その文献を元に、遠くから双眼鏡で様子を見ていると、どんなコミュニケーションを取っているのかがわかるほどになった。
そして、男は文献を見て、あるチャンスを待っていた。
皆既日食。
その部族は太陽を神と讃えているのだという。
その太陽が月に覆われる皆既日食は、最大の接触のチャンスだと書かれていた。
男は待った。
それから5年ほど待ち、ついに長年待ち続けた皆既日食の日がやってくる。
男は皆既日食が起こる時間を見計らって、その部族に接触した。
男は部族に捕まり、村の中心に連れていかれる。
普通であれば、外界の人間は例外なく殺される。
しかし、男には皆既日食のことがある。
男は部族に「自分は悪魔の使いだ。太陽(神)を隠すことができる」と伝えた。
部族の人間たちは大いにざわついていた。
どうやら、悪魔の使いの再来だと騒いでいるようだ。
よかった。これなら信じてもらえそうだ。
男が安堵し、そう考えていると、空では皆既日食が始まった。
終わり。
■解説
この部族の人間は悪魔の使いの『再来』と言っている。
ということは、100年前に文献を残した人間は、皆既日食の際に部族に接触していると考えられる。
文献を残した人間は、男と同じように「自分は悪魔の使いで太陽を隠せる」と言っている可能性が高い。
しかし、この部族に接触を試みて、帰ってきた人間はいないはずである。
つまり、文献を残した人間は、『生きて帰ってきていない』ことになる。
この後、男も100年前に文献を残した人間と同じ運命を辿ることになるはず。
この部族は悪魔の使いを殺すことで、太陽が復活すると思い込んでいる可能性がある。
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