第300話 初恋の人

私の初恋は結構、遅かった。

 

中学1年生の時の同級生の男の子だった。

不良っぽい人で、よく問題を起こして、先生に怒られたりしてた。

 

あの頃の年の頃って不良が妙にモテてた記憶がある。

今思うとなんでなんだろうって不思議だけど、当時の私もやっぱり、その男の子が好きだった。

妙にぶっきらぼうで、乱暴な口調で話すあの人が気になって仕方なかった。

 

たぶん、好きになったきっかけは、先生に荷物を倉庫に運んでほしいって頼まれてて、一人で四苦八苦してたのを、あの人に手伝ってもらったからだと思う。

 

自分でも笑っちゃうくらい単純だよね。

 

でも、本当に好きだったんだ。

あの人のことを考えて、胸が痛くなるくらい。

 

でも、高校生になると新しい人を好きになった。

 

仕方ないよね。

だって、高校は違う学校だったんだもん。

噂だと、隣町の会社に就職したとか聞いた気がする。

 

とにかく、私はずーっと、ずーっと、あの人のことを忘れていた。

 

大学を卒業して、就職した頃だった。

事故のニュースで、死亡した人の名前と写真であの人が出ていた。

 

本当にびっくりした。

まさか、こんなことであの人のことを思い出すなんて。

 

考えてみたら10年以上会ってないのに、なぜか涙が出た。

 

倉庫に物を運ぶときに、少しだけ話した思い出。

そして、はにかんだ笑顔。

 

私は懐かしくなって、中学校の頃の友達に連絡を取った。

あの人が亡くなったって、という。

 

でもね。

驚くことに、みんな覚えてない。

3人に聞いてみたけど、誰も覚えてないと言い出した。

 

そんなわけないと思い、私は実家に行って、中学校の卒業アルバムを引っ張り出した。

そして、あの人のことを探してみる。

 

私は衝撃を覚えた。

全クラスの生徒を、何度探してみても、あの人の名前が見つからない。

まるで、あの人が最初からいなかったかったかのように。

 

どうしてだろう?

 

私の記憶違いだったのだろうか?

でも、初恋の人の記憶を間違えたりするだろうか?

 

私はなんとも言えない寂しい気持ちになりながら、卒業アルバムを閉じた。

 

終わり。












■解説

語り部の初恋の人は中学を中退した。

だから、卒業アルバムに載っていなかっただけである。

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