第298話 変質者
俺は妻と別れて娘と2人で暮らしている。
最初は男手一つで娘を育てられるか心配だったが、娘は人懐っこい性格であることもあり、家政婦さんともすぐに打ち解けてくれた。
仕事が忙しいときなんかは、頻繁に家政婦さんに来てもらっている。
多少、お金がかかるが、娘を一人にする時間が少くなるのなら、これはこれでいいだろう。
本当は俺が娘の近くにいてやれば一番いいのだが、仕事の関係上、それもままならない。
ついつい、家政婦さんを頼ることが多くなってしまう。
娘は友達が多いこともあり、家政婦さんからはあまり寂しい思いはしてないと言われている。
それはそれで父親として寂しい思いがあるが、ここは素直にホッとしておくことにする。
仕事が落ち着いたら、娘と2人でどこか旅行に行こうと思う。
そんなあるとき、家に帰ると家政婦さんがまだ家にいてくれた。
いつもであれば、俺が帰る時間より2時間くらい前には帰るはずなのである。
なにかあったのかと聞くと、どうやら近所に変質者が出たのだという。
外で何人もぬいぐるみをあげると声をかけられたり、中には一人で留守番している子供のところに尋ねてくるほどらしい。
だから、娘を1人にするのが心配で残っていてくれたようだ。
俺は助かりますと伝え、事態が収まるまで2時間ほど延長してもらうことにした。
娘の方も、変質者の話を聞いて怖がっているらしく、寝るときは俺のベッドに来るようになった。
こういうときは父親がしっかりしてやらなくてはならない。
俺は娘に、大丈夫だ、お父さんが守ってあげるからと言い聞かせて、寝かしつけていた。
だが、こういうときに限って、仕事が忙しくなったりする。
終電を逃し、タクシーで家に帰ることもあった。
娘は家で怖くて泣いてるだろうか、と心配しながら家へと帰る。
すると、娘は意外なことに既に自分の部屋で寝ていた。
ホッとする反面、こういうことをするのはやめようと心に誓う。
それからはどんなに仕事が忙しくても、家に仕事を持ち帰ることで、なるべく娘を一人にしないように心掛けた。
だが、俺の帰りが遅くなった日から、娘は俺の部屋に来ることもなくなった。
どうしたのかと問いかけてみると、もう怖くないから大丈夫なのだという。
ぬいぐるみを抱きしめて寝ることで、不安が消えたのだろうか。
そして、それから1ヶ月後。
テレビのニュースで変質者が捕まったところが放送される。
自分の近所がテレビに映っていたからか、娘は目を丸くしていた。
これでもう安心だ。
俺は家政婦さんの時間を元に戻し、ホッと一息をついた。
だが、その日の夜。
娘が俺の部屋にやってきた。
怖いから一緒に寝て欲しいのだという。
俺はもう怖い人は捕まったから大丈夫だと言っても、首を横に振って自分の部屋に戻ろうとしない。
まあいいかと思い、娘と一緒に寝ることにする。
娘は寝ていても、しっかりとぬいぐるみを抱いて放さない。
よほどのお気に入りなんだろう。
家政婦さんのプレゼントだろうか?
遅れてしまったが、明日、お礼を言うことにしよう。
終わり。
■解説
娘が怖がらずに1人で寝るようになったとき、語り部はぬいぐるみと一緒に寝ることで不安がなくなったのだろうと推測している。
しかし、最後、娘はぬいぐるみを持ったまま、語り部のところに来ている。
つまり、娘が怖がらなくなったのは「ぬいぐるみのおかげではない」ことがわかる。
そして、娘が再び、怖がるきっかけとなったのは「犯人が捕まったというニュース」を見た後である。
娘は犯人が捕まったのを見て、怖がって、語り部のところに来たことになる。
変質者は娘の部屋に入っていて、娘はその変質者がいたから「怖くなくて」眠れていた。
だから、その変質者が捕まったことで、「もう家に来てくれない」と思い、「怖くなった」というわけである。
娘は人懐っこい性格であるところからも、変質者に気を許してしまった。
そして、娘が持っているぬいぐるみも変質者から貰ったものと推測できる。
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