第171話 ホラーゲーム

俺は今、ゲーム会社でシステムエンジニアをやっている。

 

務めている会社は個人サークルかってくらい少人数の零細企業だ。

まあ、会社のメンバーが馬鹿ばっかりなので仕方ない。

 

大体、今の時代、ゲームを作るといえばソシャゲだろう。

なのに、この馬鹿会社はコンシューマーゲームを作っている。

宣伝が重要なのに、零細企業が大手に勝てるわけがない。

ホント、終わってる。

 

当たり前だけど予算もギリギリでいつも、こっちは超ハードなスケジュールでやっている。

2、3日連続の徹夜なんて当たり前だ。

ホント、頭おかしいだろ。

 

で、今作ってるのはホラーゲームなんだけど、これも内容が酷い。

この話を書いてるのも会社のやつなんだけど、ホント終わってるだろ、これ。

これのどこがホラーなんだよ。

コメディの間違いなんじゃねーのか?

こんなの、俺が書いた方がマシだろ。ホントに。

 

けど、俺はエンジニアだから、そこは口出ししないことにしてる。

俺は俺の仕事を完璧にやればいいだけだ。

ついでに言えば、この会社の社長もシステムエンジニアだ。

 

まあ、言わなくても想像つくと思うけど、社長ももちろんヤバい。

ホントにエンジニアなのか?って問いただしたいくらいレベルが低い。

こんなの専門学生の方が全然、マシだろ。

俺はいつも、この社長が書いたシステムを修正して尻拭いしてる。

 

それなのにいつも「早くしろ早くしろ」とオウムのように同じことしか言わない。

ホント、マジでクソな会社だ。

 

今日ももちろん、徹夜で作業だ。

眠気も限界を超えると目が冴えてくるのが不思議なんだが、いったい、どうなってるんだろうか。

 

いつも通り、コードを書いていると俺はふと、いいことを思いついた。

いわゆる仕込みというやつだ。

ある条件を行うと、用意したメッセージが表示されるというもの。

 

そのメッセージにはこの会社の馬鹿な奴らの悪口と、最後にこのゲームを買ったやつが呪われるという意味のことを書いた。

しかも、この条件はかなり厳しいので、普通にプレイしてるだけでは、まあ、表示されない。

100万回に1回くらいってところだろうか。

 

だからテストプレイをしたところで見つからないだろう。

まあ、システムを解析できるやつがいれば別だけど。

どちらにしても、この会社の中にはそんなことができるやつがいないから、まず見つからないだろう。

 

コードを仕込み終わって、満足してた俺に社長が話しかけてきた。

 

「おい、真面目に仕事しろよ。ホラーゲームなんだから、ふざけて作ってたら呪われるぞ」

「あ、すみません……」

 

ホント、頭の中までお花畑だなこいつ。

呪われるって……。

んなのあるわけねーだろ。

 

社長はこういうところがある。

このゲームを作る際にホラーゲームってことで、社員全員でお祓いに行っている。

そんな金があるなら、給料上げろよって話だ。

 

とはいえ、ローンチも近い。

ここからはスピードを上げてやっていこう。

 

そして、その日から2週間後。

ゲームはほぼ完成し、社内で最終的なデバックを行うフェーズになった。

もちろん、エンジニアの俺も最終チェックをやる必要がある。

 

そこで俺はあの仕込みがちゃんと出るかも検証してみた。

特定の条件を満たして、メッセージを表示させる。

 

俺は思わず、悲鳴を上げてしまった。

 

なぜなら、画面いっぱいに「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ」と赤い字で表示されたのだ。

俺は慌てて仕込んでいたメッセージを削除した。

 

今考えてもあれは怖かった。

呪いって、ホントにあるんだと思い知った。

 

これからホラーゲームを作るときはふざけるのはやめよう。

 

終わり。













■解説

語り部が、仕込んだものはコードを解析できるエンジニアがいれば見つけられると言っている。

つまり、これは呪いではなく、エンジニアによる単なるメッセージの書き換えである。

そして、この会社のエンジニアは語り部以外では社長だけとなる。

そう考えると社長に「社員の悪口」を見られていることになる。

この後、語り部が社員たちからどんな仕打ちをされるのかは、火を見るより明らかであろう。

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