第167話 アラーム

運転免許を取った。

 

周りからは「お前がよく取れたな」とか、「お前が運転する車には絶対に乗りたくない」なんて馬鹿にもされた。

そりゃまあ、仮免で3回、本免で2回ほど実技試験に落ちてるけどさ。

 

親もそこが心配らしくて、成人したことも含めて凄い良い車を買ってくれた。

 

教習所では見たことのない、運転席からモニターで後ろも確認できる。

これなら後ろをぶつける心配もない。

 

あとは前の車との車間距離が近くなると自動的に減速してくれるところも安心だ。

 

さらに凄いと思ったのが、今の車は人間さえも検知してくれるところである。

人が通れば、それを感知してアラームを鳴らしてくれるのだ。

 

さすがにこれだけの高性能の車なら事故らないだろうと失礼なことを言う友人たちとドライブに行くことになった。

 

最初は楽しくドライブをしていたが、辺りが暗くなってから、突然、友達の一人が肝試しに行こうと言い始めた。



初めてのドライブテンションが上がっていたこともあり、その場にいる全員が「行こう行こう」と盛り上がった。

 

肝試しの場所は地元でも心霊スポットとして有名なダム。

ここでは何人も自殺者が出ているらしい。

 

そのダムに向っている途中だった。

いきなり車の中にアラーム音が鳴り響いた。

 

びっくりしてモニターを見ると『人』を感知したようだった。

前を見てみるが、人がいるとしているところには誰もいない。

ゆっくりと近づいていくと、アラーム音が大きくなっていく。

そして、その場所を通過すると、嘘のようにピタリとアラームが止んだ。

 

「幽霊だったんじゃね?」と友人の一人が言った。

なんでも、こういう人を感知するシステムは霊にも反応することがあるらしい。

 

その場の全員に鳥肌が立ち、その日はもう帰ろうということになった。

 

しかし、それからというもの、車の感知システムがおかしくなってしまった。

普通に道路を走っていても、突然アラームが鳴り始める。

もちろん、その場所には人はいない。

 

夜に車を乗っているときなんか、特に酷かった。

30分に一度は幽霊を感知してしまう。

 

さすがにこれだと運転ができないと親に相談してみると、保証の範囲でシステムを見てもらえるということになった。

 

それから1週間が過ぎてから車は無事に戻ってきた。

試しに走ってみるが、アラームが鳴ることはなかった。

 

でも、まだ直ったとは言えない。

夜に走ってみないと。

 

そして、夜に一人で車を運転してみる。

頻繁にアラームが鳴っていた場所へと侵入してみた。

すると、アラームが鳴り響き、ドンという衝撃が走った。

 

全然直ってない!

 

ため息をついて、もう一度点検してもらわないと、と考えながら車を走らせて家へと向かった。

 

終わり。














■解説

今度は幽霊ではなく本当の人を轢いてしまった。

その証拠に、ドンという衝撃が走っている。

(幽霊なら衝撃はないはず)

そして、語り部はそのまま出発してしまっていることから、轢かれた人間を放置して逃げたことになる。

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