第166話 ペット人間

俺は今、人間を飼っている。

同居ではなく、飼っているのだ。

まあ、あっちからしたら飼われているとは思っていないのかもしれないけど。

 

どういうことかというと、あるとき、俺は天井裏に何かが住み着いていることに気づいた。

それが人間だと気づくまで、そう時間はかからなかった。

 

冷蔵庫の食料の減りが早い。

電気、ガス、水道の料金が上がっている。

家を出たときと、帰ってきたときで微妙に物の位置が変わっている。

 

そのことから天井裏には人が住み着いていると判断できた。

 

普通ならすぐに警察を呼ぶところだろうが、俺は逆に気づかないふりをすることにした。

そんなの危ないと思うやつもいるかもしれないが、危害を加える気なら、とっくにやっているはずだ。

それに、俺に危害を加えてもあっちにはなんのメリットもない。

 

だから俺はあえて気づかないふりをして、経過を見守ることにした。

食べ物も多めに買い、なるべく数が多い物を選ぶようにする。

すると気兼ねなく盗れると思ったのか、食べ物の減りが早くなった。

 

また、同じ種類で味の違うものを置いておくことで、好みも把握しつつある。

相手は隠れているとは言え、なにかしら形跡は残してあるから、そこから色々と推理できるのだ。

 

これがまた面白い。

なんて考える俺はきっと変わり者、というより一種の変態なんだろう。

昔からよく変態扱いをされていた。

 

こんなことをやっているうちに、俺はすっかり相手のことを可愛く感じ始めてきた。

顔はもちろん、年齢や性別さえも知らないのに、だ。

 

あと、自分の生活が覗かれていることにも抵抗はなかった。

というより、なんか見られると興奮する。

 

うん。やっぱり俺はかなりド変態みたいだ。

 

そんなこんなをしているうちに、数年が過ぎた。

その間はいつもと変わらない生活が続く。

最近は食欲が上がってきたのか、若干、食べ物の消費が早くなってきている。

 

だが、最近、ちょっとした異変が起き始めた。

というのも、異臭がし始めたのだ。

天井裏から。

何かが腐ったような臭い。

 

今までこんなことはなかった。

俺はとっさにあることが頭を過った。

だけど、信じたくなくて無視するようにしていた。

食べ物も減っているし、元気なはずだと自分に言い聞かせる。

 

だが、日に日に臭いがきつくなり、ついには大家から苦情がくるようになった。

そこで俺は覚悟を決めて、天井裏を覗いた。

 

やはりそこには死体があった。

すぐに警察に連絡し、俺は天井裏に人がいたことなんて気づかなかったと話した。

 

死体はほぼ白骨化するほどになっていた。

警察の話ではおそらく、男性ではないかと言っていた。

 

この部屋が一気に事故物件に早変わりとなったわけだ。

それでも俺はここを出る気はないと言ったら、大家はかなりびっくりしていた。

 

一度も顔を見ることもなく、言葉も交わすことがなかった男だったが、俺にしてみればペットを亡くしたような感覚がしていた。

今はまだ引っ越す気にはなれない。

 

そして、今日もいつもの癖で、食べ物を多く買ってしまった。

今は猫でも買おうかと検討している。

 

終わり。














■解説

天井裏で見つかった死体が白骨化しているということは数ヶ月前には死んでいることになる。

では、なぜ食料が減り続けているのか。

天井裏には死体となった男以外に誰かがいる可能性がある。

また、白骨化した男は、もう1人に殺されたのかもしれない。

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