第165話 交換殺人

高校生になるまでは普通の、幸せな家庭だった。

けど、高校2年になる頃、突然、親父のDVが始まった。

 

いつもイライラしていた親父は俺の顔を見るたびに暴力を振るった。

母さんは親父のDVに気づいていたようだったが、庇ってはくれない。

親父と母さんの関係も明らかに悪くなり、同居内別居という状態だ。

 

だから家にはなるべく帰らないようにしていたが、学生の身ではそれもなかなか難しい。

バイトを始めてみたが親父はなぜかそれさえも邪魔してくる。

 

本当に理由がわからない。

ただ、イラついているのは会社をクビになったからだと思う。

一時期、親父は鬱のような状態になって、1、2ヶ月休職だとかなんとか言って、部屋に閉じこもっていた。

 

その休職が終わり、部屋から出るようになった頃から暴力が始まったと思う。

最初はあんなに優しかった親父が突然、そんなことをしてきたことに驚いた。

俺は鬱のせいだろうと思い、我慢してきた。

 

だが、間もなく会社をクビになり、ずっと家にいるようになってからも親父の暴力は続いた。

親父が働かなくなった分、母さんがずっと働きづめという状態だったから、家では親父と俺の2人だけということも多い。

 

どうしていいかわからなかった。

家に帰りたくなくて町をぶらぶらしていると、俺と同じくらいのやつに声を掛けられた。

夜中に町をうろついている同級生ということで、俺たちはすぐに仲良くなった。

 

話を聞いてみるとあっちも俺と同じような環境で、家族の中がギクシャクしていて家の中に自分の居場所がないのだという。

それから俺たちは毎日のように遊ぶようになった。

半年もすると、親友と言えるような存在となっていた。

 

そんなあるとき、あっちがいきなり変なことを言い出した。

それは「交換殺人をしよう」というものだった。

 

相手の殺したい人間をそれぞれが殺すことによって、動機がバレにくく捜査を困難にできるらしい。

しかも、俺たちは別々の学校で、第三者から見ればまったく繋がりがあることはわからない。

これなら絶対に成功すると、あっちが熱弁した。

 

正直、俺も親父に死んでほしいと思っていた。

そこで、俺たちはお互いの父親を殺すことを決めた。

 

お互い、自分の父親の行動は熟知しているから、犯行は簡単だった。

俺はあっちの親父を殺し、あっちは俺の親父を殺してくれた。

 

数日は警察やマスコミが家にやってきていたが、2週間もすれば収まった。

家はびっくりするほど平和になった。

 

しばらくはあいつから、会わない方がいいと言われ、あの日以来会っていない。

あと数ヶ月したら、会いたいなと思っていると、いきなり警察が家にやってきた。

 

俺は逮捕され、取り調べを受けた。

あいつの父親を殺したという証拠を並べられ、俺は認めるしかなかった。

 

なんで、こんなに早く警察は俺に辿り着いたんだろう?

あいつの話では俺にはあいつの親父との接点はないから、動機がなく、バレにくいと言っていたはずだ。

 

まさか、あいつがチクったのか、と思ったがそうではなかった。

 

ついに俺の裁判が始まった。

俺の罪状は『父親殺し』だった。

 

終わり。














■解説

語り部の本当の父親は「あいつの父親」だった。

DVをしていた父親は、子供が自分の子供ではなかったことを知り、鬱になり、精神が病んだ。

それにより会社をクビになり、語り部に暴力を振るうようになった。

母親は浮気をしていた負い目があり、語り部を庇うことができなかった。

そして、「あいつ」もそれを知っていて、語り部に声を掛けて交換殺人を持ちかけたのだ。

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