第163話 ノンフィクション

男は作家をしている。

 

だが出す本、出す本、すべての売り上げが鳴かず飛ばずだった。

このままでは食べて行けず、引退を考えていた男は物の試しでノンフィクションのホラーを書いた。

 

すると意外なことにその本は大ヒットした。

出版社からは次の本も出して欲しいとオファーが来るくらいだ。

 

しかし、そうそうホラー系の本当の話は引き出しにない。

各地を回ってホラー系の話を収集してみたが、どれもインパクトが弱く、聞いたことがあるような話ばかりだった。

 

さらに出版社からは人気があるうちに次の本を出さなければ一発屋になってしまうと急かされる。

そこで男は聞いてきた話にかなり脚色した上で、ノンフィクションとして本を出した。

 

その本もたちまち人気となり、なんと前回出した本よりも売れる結果となる。

 

そうなると出版社や読者からも次の本を求められる。

 

男は悩んだ。

また脚色して出せば、今度はノンフィクションじゃないとバレてしまうのではないかと。

 

だが、また売れない作家に戻るのは嫌だった。

男は半分ヤケクソ気味に、次々と脚色した話をノンフィクションとして出していく。

しかも、徐々に脚色の部分が多く、派手になっていった。

さらには完全に創作した話さえも、ノンフィクションとして出版するようになった。

 

数年が経った頃、男はそろそろバレるだろうと思っていたが、意外と世間は気づいていないようだった。

それどころか、男が書いた本は預言書などと呼ばれて、ありがたがる読者さえもいた。

 

男はあるとき、そんなにバレないものだろうかと不思議に思った。

そこで、男は色々と調べてみたのだが、驚愕する結果となる。

 

なぜなら、脚色したはずの話が現実に起こっていたからだ。

それどころか創作の話さえも実際に起こっている。

 

男はゾッとした半面、この偶然を神に感謝した。

これでしばらくは大丈夫だと考え、再び、次々と創作の話を作り続ける。

 

さらに数年後が経つと、男は段々と虚しくなってきていた。

本が売れるためとはいえ、こんなものを書きたかったのか、と。

自分の話を読者が夢中になって読むというのを夢見て小説家になったということを思い出す。

 

そこで男は心機一転してやり直すことにした。

ペンネームを変えて、新たな作家人生を歩もうと決意したのだ。

 

ホラー作家としても終わらせるため、男は最後に作者が自殺して死ぬという話を書き、最後の本として売り出した。

 

これで出版社からも世間からも、ノンフィクションの本を望まれることはない。

男は解放された気分で、新しい小説の執筆を始めた。

 

終わり。














■解説

創作したお話が現実になるということが続くのはまずあり得ない。

そして、その男の本を「預言書」と言われていることから、その本が書かれてから「その本の内容のことが起こった」と考えられる。

つまり、男の本を読んだ誰かが、その本の内容に合わせて事件を起こしていると考えられる。

男は最後に「作者が自殺して死ぬ」という話を書いたということはその誰かが作者を自殺に見せかけて殺しにくる可能性が高い。

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