第162話 快速電車

その日は大事な会議のため、取引先のところまで電車で移動する必要があった。

 

ただ、会議は夕方からだったので、昼過ぎに出発すれば十分間に合う。

逆にいつもより家でゆっくりできるからラッキーだ。

 

なんて考えていたのが間違いだった。

前の日に夜更かしをして、なぜか酒まで飲んでしまい、あっさりと寝坊してしまったのだ。

 

時計を見て、一気に血の気が引いた。

慌てて準備をして家を飛び出す。

一応、前の日に資料やパソコンの準備をしていたのは不幸中の幸いだ。

 

駅までダッシュする。

いつもの出勤時間とは違い、昼過ぎだったせいか駅は割と空いていた。

 

これなら座れるかも、なんてことを考えながら待っていると電車がやってくる。

 

ドアが開き、電車の中に入る。

案の定、電車の中はガラガラで座ることができた。

 

心を落ち着かせて、スマホの時計を見る。

これならまだ少しの余裕をもって相手の会社に到着することができそうだ。

 

安堵して、背もたれに寄りかかる。

ふと、電光掲示板を見たとき、驚きのあまり立ち上がってしまった。

 

自分が乗ってしまったのが快速電車だと気づいたからだ。

相手の会社がある駅は当然、普通じゃないと止まらない。

しかも、次に止まるのは、相手の会社がある駅を遥か先の駅だ。

降りてから、戻りの電車に乗っていたのでは確実に間に合わない。

 

ヤバい!

 

なんとか降りる方法はないかと考えるが、そんな方法はあるわけがない。

ここで緊急停止ボタンなんか押せば、さらに時間を取られるだけじゃなく、下手をすれば訴えられてしまう。

 

神様、お願いします。なんとかしてください。

 

椅子に座り祈るように手を合わせた。

 

そのとき、奇跡が起こった。

なんと電車が停まったのだ。

そして少ししてから近くの駅に停車して、ドアが開く。

 

奇跡だ! 助かった!

 

慌てて降りてそこからはタクシーを使って相手の会社へと向かった。

かなり痛い出費だったが、そんなことは言ってられない。

 

だが、そのおかげかなんとか会議に間に合うことができた。

 

無事、会議が終わった後、名前も知らない誰かにありがとうと感謝した。

 

終わり。














■解説

電車が停まったのは飛び込み自殺があったから。

語り部はその自殺した人間に対してありがとうと言っている。

どうやら語り部は不謹慎な人間のようだ。

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