第161話 ある奴隷の話

その少年の家は、元々は富豪であった。

 

そのため少年は幼い頃から何一つ不自由なく、周りには奴隷を従わせて生活していた。

少年にとってそれが当たり前で、当然のことだと思い込んでいた。

 

しかし、父親が事業に失敗し、一気に没落した上、奴隷たちに恨まれていたこともあって少年以外の家族は皆殺しにされてしまう。

かろうじて命を奪われなかった少年だったが、奴隷として売られてしまうこととなった。

 

売られた先は強欲で非情な大富豪の男の元だった。

その男は誰も信じることはせず、家族も持たず、大勢の奴隷だけを従わせて生活している。

まるで、以前の少年のように。

 

だが少年と違うところは、男は奴隷を家畜のように扱い、時には腹いせにいたぶり殺すことも少なくなかった。

奴隷たちはいつも男に怯えながら暮らしている。


少年は、今までとは正反対の生活に、最初は戸惑ったがすぐに受け入れて真摯に働くようになった。

数年が経つと、少年は奴隷たちの中で信頼されるようになっていった。

 

それを知った主である富豪の男は、面白くなく感じ、また、元は同じような立場だった少年をいたぶり殺そうと考えて部屋に呼んだ。

 

少年は男の目を見るなり、殺されることを悟った。

狂気に満ちた目はまるで獣のようで、人間とは思えなかった。

 

恐怖にさらされながらも、少年は男に対してあるお願いしをした。

 

それは、奴隷を殺すのはこれで最後にしてほしいというものだった。

 

男は薄く笑い、わかったと頷いた。

少年は自分の命が無駄に終わるわけではないことに喜び、男に命を捧げる覚悟を決めた。

 

しかし、それが嘘だということに気づくのに、長い時間はかからなかった。

 

次の日。

男の部屋から無残にも喉が引き裂かれた死体が運び出された。

 

その死体を見て、奴隷たちは涙して、神に祈りを捧げた。

 

そして、その日以降、この家で奴隷が殺されることはなくなった。

 

終わり。














■解説

殺されて部屋から死体となって出てきたのは大富豪の男の方。

それを見た奴隷たちは歓喜の涙を流し、神に感謝の祈りを捧げた。

少年が大富豪に成り代わったことで、奴隷の迫害は行われなくなった。

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