第156話 LINEの友達

僕は昔から、暗いだの、ボッチだの、何考えているかわからないだの言われてきた。

 

学生の頃は友達なんか作らなくてもやり過ごせていた。

だが、就職して仕事となるとそうもいかない。

 

最低限のコミュニケーションを取るように強要される。

僕にはそれが苦痛だった。

極力、コミュニケーションを取らないように仕事をしてきたが、やっぱりそれだと支障がでるということで問題になった。

 

最初は上司になにかにつけて飲みに付き合わされていた。

お酒でも飲めば、打ち解けるとでも思ったんだろう。

だけど、僕はお酒が飲めないというか嫌いだ。

だから、はっきり言って、迷惑だった。

おっさんと2人で酒を飲むのが楽しいわけがない。

 

そんな僕の様子を見て、周りの人たちが上司にパワハラになると言ってくれた。

それからというもの、上司からお酒を誘われることはなくなった。

 

当然だけど、やっぱり仕事での僕のコミュニケーション不足は変わらない。

 

そこで今度は、上司がある本を渡してきた。

それは会社での人間関係を上手くやる方法みたいな、本だった。

 

ほとんど興味はなかったが、読まないというのも失礼かと思い、ザっと目を通した。

そこに書いてあることで目を引いたのは「今の若者は直接的な繋がりでは本音を言わない。逆にSNSのような見も知らない人の方が本音を話すものだ」という部分だ。

 

確かにその通りかもしれない。

顔を合わせて話すよりも、知らない人とネット越しで話す方が本音を言えるような気がする。

 

そして、その本には「本音が言える人ができれば、日々のストレスも減り、実社会でも上手くいくことが多くなる」なんてことも書かれていた。

 

とはいえ、今のところ僕にはSNS上で話をする友達なんかいない。

かといって、これから作るというのも面倒くさいし、どうやってやればいいのかもわからない。

 

次の日、上司に本を読んだことを報告すると、一枚のカードを渡してきた。

それにはLINEの友達を募集できるサイトのURLが書いてあるらしい。

一応、ありがとうございますと受け取っておいた。

 

面倒くさいが登録だけはやっておいた。

でも、こっちから動くなんてことはしなかった。

 

それからしばらく経って、すっかりサイトのことを忘れた時にLINEに連絡が来た。

サイトを見て連絡してきたのだという。

 

最初は面倒くさいからブロックしようかと思ったが、相手は女性らしかったので僕はドキドキしながらも話しかけてみた。

するとすぐに返事が来た。

 

ただ、僕はこういうとき何を話していいのかわからない。

だから、それをそのまま送ってみた。

すると、なんでもいい、日ごろのことを書いてくれればいいよ、と返ってきた。

 

それからというもの、僕はその人とLINEでやり取りすることが楽しみになった。

あの本の言う通りだ。

ネット上でも話せる人がいれば、会社でのストレスが減っていくのが自分でもわかった。

 

その頃から僕は会社でも明るくなったと言われる機会が多くなった。

それは自分でもそう思うくらいだ。

 

今日も会社であったことを書き込む。

ただ、今日は凄く嫌なことがあったので、そのことを書いた。

僕の上司は、ホントクソみたいな奴で、ホント死んでほしい、と。

 

次の日。

僕はチームから外され、窓際の部署に異動になった。

 

終わり。


 











■解説

語り部がずっとやりとりしていたLINEの相手は上司だった。

本もサイトも上司から渡されている。

上司も本を読んで、ネット上で語り部の悩みを聞こうとしてやったのだと思われる。

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