第155話 カムイ

男は猟をするのが趣味だった。

 

狩猟期間になれば、猟銃を持って山に入る。

そして、シカやイノシシを撃って帰ってきては、周りの人たちに振舞っていた。

 

あるとき男は山で熊に遭遇した。

いきなり襲われたので、男は持っていた猟銃で熊を撃ち殺した。

 

だが撃ち殺した熊は子供を連れていた。

男は無視して山を出ようと思ったが、見捨てることが出来ず、子熊を連れて帰ることにした。

 

幸い男は山の近くに別荘のような家を持っていて、そこには滅多に人はやってこない。

そこに檻を作ってその中で育てることにした。

ある程度大きくなったら、山に帰そうと思っていたようだ。

 

数年が経ち、熊はかなり大きく育った。

その頃になると熊の食べる量も膨大になり、男の経済力では維持するのが難しくなってきていた。

そのため、熊はいつも空腹状態になっている。

 

そこで男は熊を森に帰すことにした。

 

しかし、熊は森へと帰らずに町に降りて行ってしまった。

食べるために人を襲い、3人の人間が亡くなった。

 

一度、人間を食べた熊は人を襲い続ける。

町はすぐに猟友会に頼んで、熊を射殺してもらった。

 

多数の死傷者を出した獣害事件により、町で猟に出掛ける人はほとんどいなくなってしまったのだという。

 

終わり。












■解説

逃げた熊は町に降りた時点で「食べるため」に人を襲っている。

子熊の状態から育てられたはずなので、「人を食べた」ことはないはずである。

では、どこで「人を食べた」のか。

それは山に帰そうと「檻を開けた」ときだと考えられる。

つまり、空腹だった熊は育ててくれた男を襲って食べてしまったのである。

また、熊が町へ降りて行ってからは、男のことは一切出てきていない。

その時点で死んでしまっているからである。

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