第153話 シリアルキラー

妹が殺された。

 

妹は人当たりもよく、誰かに恨みを買うようなやつじゃなかった。

惨い殺害方法から、警察は怨恨ではなく快楽殺人だと判断したようだ。

 

だが俺は知っている。

妹をずっと付け回していた男を。

 

妹は気にしていなかったが、おそらくストーカーの類だろう。

もちろん、俺はそのことを警察に知らせた。

 

だが、警察はそのことを取り合ってくれなかった。

 

だから俺は自分で探すことにした。

その、妹を付け回していた男を。

 

一週間、駅で張り込みをしていた甲斐もあり、俺はその男を見つけることができた。

その男を観察していると、その男もどうやら人を探しているようだった。

 

というより、それは次の獲物を探しているような、そんな目付きだ。

男は目星をつけたのか、ある少女を尾行し始める。

その少女は妹と同じような年や背格好で、髪も艶のある黒で長い少女だ。

 

間違いない。あいつが妹を殺したんだ。

 

俺はすぐに理解した。

こうやって妹も、あいつに選ばれたのだと。

 

俺はその男を尾行し続けた。

男はやたらと周りを気にしていて、犯行を行う機会をうかがっているようだった。

 

絶対にあいつを捕まえてみせる。

その思いだけが俺を支えていた。

 

だが、事件は思わぬ方向へと動いた。

 

なんと、新たに少女が殺害されたのだ。

被害者はやはり妹と同じような年齢で背格好。

そして、黒く長い髪だった。

これで3人目の被害者だ。

 

俺は混乱した。

あの男からは目を離していなかった。

だから、犯行は無理なはずだ。

 

……やっぱりあいつは犯人じゃないのだろうか?

 

そう思ったが、その考えはすぐに掻き消えた。

俺の勘が言っている。

――あいつが犯人だと。

 

そこで、俺はあることに気づいた。

俺が尾行を始める前に、既にあいつは犯行を行っていたのではないかと。

 

つまり、俺が尾行を始めた時にはもう、あの少女は殺されていた。

それなら説明が付く。

 

だから俺はあの男の尾行を続けた。

あの男はいまだに見つけた少女を尾行し続けている。

 

しかし、連日の尾行で俺の体力は限界に来ていた。

あの男を見張っているときの、わずかな気の緩みで、俺は数分の間、眠ってしまったのだ。

 

あの男と、あの男が尾行していた少女を見失ってしまった。

俺は慌てて2人を探した。

だが、見つけることはできなかった。


俺が目を離したすきに少女が殺されてしまったらと考えると、口惜しさと自分への怒りで気が狂いそうだった。

 

そんな中、あるニュースが流れた。

犯人が捕まったと。

 

映像に映し出された犯人の顔はあの男のものではなかった。

つまり、警察は誤認逮捕をしたというわけだ。

 

俺は警察にタレコミという形で、あの男の情報を伝えた。

だが、警察は俺の伝えた情報を無視して、捕まえた男が犯人と断定している。

 

このままではあの男が野放しになってしまう。

また、妹のような少女が殺されてしまう。

それだけはダメだ。

 

俺は決意した。

 

――あの男を殺すしかない。

 

たとえ俺が捕まることになったとしても。

 

俺はあの男の部屋に忍び込み、眠っているところを刺した。

何度も。何度も。

 

男は声を上げる間もなく死んだ。

 

俺はホッとした。

これでもう男に殺される少女は出ない。

妹にも顔向けができる。

 

自首するために電話がある部屋へと行く。

すると、そこにはたくさんの少女の写真が貼ってあった。

 

そして、そこには妹の写真も。

 

警察に捕まった後、俺はあの男が探偵だと聞いた。

 

終わり。














■解説

語り部が殺した男は、警察に協力していた探偵だった。

探偵は推理で、次の被害者を予想して少女を尾行していたのである。

語り部の妹に関しても、同様に尾行していたところを見られていた。

そして、その探偵の情報により、警察は真犯人を捕まえることができた。

(探偵のおかげで尾行している少女は助かった)

つまり、語り部は真犯人が捕まっているのに、事件に協力していた探偵を殺してしまったということになる。

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