第150話 連続殺人犯

俺は長年、ある殺人事件を追っている。

被害者に共通点はなくバラバラで、犯行を行う期間も法則性はない。

唯一わかっているのは、同じ凶器を使っているということだけだ。

 

おそらくナイフを使っているようで、刺し傷は独特な形になっている。

その凶器で被害者の心臓を一刺しという犯行だ。

 

既に被害者は2桁に達するというのに、犯人像はもちろん、手がかりさえもつかめない。

上司にはずっと小言を言われ、世間からは警察は無能だと叩かれる。

 

正直、精神的にもキツくて何度も警察を辞めようかと悩んだ。

 

だが、そんなとき俺を支えてくれたのが妻だった。

いつも愚痴を聞いてくれ、事件についての相談にも乗ってくれる。

俺の推理も、うんうんと頷いて聞いてくれるのだ。

これだけで、どんなに癒されたことか。

 

そんな彼女は格闘技をやっていたらしく、囮捜査に協力しようか? なんて冗談も言ってくれた。

 

ただ、冗談だとしてもそれは絶対にやめて欲しい。

いくら格闘技をやっていたからといって、危険ということに変わりはない。

だが、妻は「じゃあ、私もナイフを持っていけば、格闘技をやってる差で勝てるよ」なんてことを言う。

 

妻はわかっていないようだが、武器を持っていても奪われてしまっては逆効果だ。

自分の持っていた武器で刺されて死ぬなんてこともある。

 

だから俺は妻には事件には関わらないで欲しいと言っている。

とはいえ、犯人の手がかりも人物像も、犯行の規則性もわからないので、気を付けようがないとは思うが。

 

とにかく、一刻も早く犯人を捕まえるしかない。

それ以外、この町の脅威は消えることはないのだ。

 

だが、犯人はそんな俺の決意をあざ笑うように犯行を続ける。

いつも警察の裏を突いてくる犯人。

 

捜査員を増やしても一向に状況は変わらない。

俺は日々、苛立ちを募らせていた。

 

そんな中、事件は意外な方向へと動く。

 

なんと、犯人が捕まったのだ。

そして、その被害者は妻だった。

 

妻は何度もナイフで刺され、出血多量で死んだ。

 

そんな犯人はなんと正当防衛だと主張した。

だが、凶器が今までの被害者の傷口と一致したことにより警察はそれを証拠に逮捕した。

 

上層部もこれ以上、事件を長引かせたくないという思惑もあったんだろう。

連続殺人犯が逮捕されたことは全国に大々的に放送された。

 

裁判が行われて、犯人の死刑が確定したことで世間は満足したのか、事件のことを忘れ去っていった。

 

犯人が捕まってから既に5年が経った。

あれから新たに被害者は出ていない。

やはり、あいつが犯人だったのだろう。

 

唯一、心残りがあるとするなら、もう少し早く逮捕していれば妻を失うことはなかったということだ。

妻を亡くしたことのショックで虚無感に悩まされ、俺は警察を辞めた。

 

終わり。















■解説

連続殺人の本当の犯人は語り部の妻。

犯行を行おうとして、返り討ちに遭ってしまった。

 

今まで連続殺人犯は心臓を一刺しだったのに、そのときは何度も刺されている。

凶器は一緒でも、犯行の方法が異なっている。

また、いつも警察の裏をかかれていたのは、語り部である夫から情報を聞いていたからである。

 

新たに被害者が出ないのは、真犯人の語り部の妻が死んでいるので当然である。

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