第149話 終電

今日は会社で新年会があった。

年末は忙しくて、忘年会が出来そうになかったので、新年会にしたというわけだ。

 

仕事も落ち着いたということもあり、俺は会社の忘年会が終わった後、仲のいい同僚と二次会に行った。

忙しさからの解放と、久しぶりのお酒ということで少々飲み過ぎてしまった。

 

帰るとき、同僚にタクシーで帰った方がいいと言われたが、今ならギリギリ終電に間に合う。

それでなくても、二次会で結構、出費したので少しでも金は浮かせたい。

 

俺はヨロヨロとしながらも駅へと向かった。

 

久しぶりの酔いは実に心地よかった。

柱に寄りかかって電車を来るのを待つ。

 

数分が経つと電車がやってきた。

ドアが開くと一気に乗客が電車に乗り込んでいく。

もちろん、俺もその人の波に乗って電車へと乗り込む。

 

ギュウギュウ詰め。

この時間はいつもそうだ。

座れることなんてほとんどない。

 

せっかくの酔いが冷めそうだとイラつきながらつり革を掴む。

重いため息をついて、ふと顔を上げると、あることに気づく。

 

――あ、逆だ。

 

酔っていたことと、いつもと違う駅からだったということもあり、家とは逆の方向の電車に乗ってしまったことに気づく。

 

うわ、最悪……。

 

次の駅で慌てて降りる。

 

はあー、ついてないな。

でも、すぐに気づいたからまだマシか。

これでずっと気づかずに乗ってたらと考えたら、ゾッとする。

 

駅のベンチに座って逆側の電車が来るのを待つ。

 

10分くらいすると電車が到着したので乗り込む。

椅子に座り、ホッと一息をつく。

 

明日が休みでよかった。

これは二日酔いで、明日は動けないだろうな。

 

そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

終わり。














■解説

最初の電車に乗った時に、既に『終電ギリギリ』だったはず。

つまり、既に終電は過ぎてしまったはずである。

そして、語り部は「この時間(終電)」はいつも電車が混んでいると言っている。

なのに、容易に椅子に座れている。

今、語り部が乗っている電車はなんなのか?

それは本来存在していない電車なのかもしれない。

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