第147話 アルバイト

SNSで友達が炎上した。

アカウントからすぐに特定されて、今は精神的に病んで家に引きこもっている。

 

その友達と撮った写真なんかも、私のアカウントでアップしてたりしたから、慌てて友達に繋がるツイートは全部消した。

そんなにフォロワーもいないし、私の方までは飛び火しないだろう。

 

だけど今回のことで、SNSは怖いものだと思い知った。

簡単に個人情報が特定されてしまう。

これからは絶対に個人的なことがバレるようなことはツイートしないように気を付けよう。

 

そんなことを考えているとき、1通のDMが届いた。

 

アルバイトしませんか?

 

いかにも怪しいDMだ。

どう見ても詐欺としか思えない。

 

私はすぐに送ってきたアカウントをブロックしようとした。

だけど、送ってきたのは昔から私をフォローしてくれていて、私のツイートにもよく反応をしてくれたアカウントだった。

 

だから簡単にブロックとするというのは気が引けた。

念のため、DMを開いてみる。

 

アルバイトの内容は「ある物を作る動画を撮ってほしい」というものだった。

その動画は顔や声を出すのではなく、単に作っている手元をスマホで録画するだけらしい。


10分くらいの動画で報酬は1万円。

正直に言って学生の私には喉から手が出るほど欲しい金額だ。

 

でも、詐欺じゃないとは言い切れない。

だから私は詳しい話を聞いてもいいですか?と返した。

 

もし、初期費用がかかるとか言い出したら、すぐにブロックしようと思っていた。

だけど、相手からの返事は初期費用もかからないし、報酬もギフト券で払うとのことだ。

これなら住所や名前などの個人情報も出す必要もない。

なにより、ギフト券のIDをDMで送ってきてくれるから、親にもバレない。

これは美味しいと思った。

 

だから私は、やりますと返した。

 

すると次に用意するもののリストが送られてきた。

マニアックなものばかりで、リストのほとんどを、私は持っていなかった。

 

相手は「ホントはこっちから送ってあげたいんだけど、住所とか教えるのは嫌でしょ?」と送ってきた。

 

そのへんも配慮してくれるのは嬉しかった。

 

そして、すぐにギフト券のIDが送られてきて、「これ、初期費用分。先に送っておくね」と来た。

正直、ここでIDだけもらってブロックすれば、この分は丸々得する。



でも、ここまでしてくれたのは、相手が私を信用してやってくれたということでもある。

私は、相手が悪い人じゃないと思い、最初に疑ってごめんと心の中で謝った。

 

とはいえ、動画は結構急ぎらしく、今日中に撮って欲しいらしい。

なので、リストにあるものはネットで買うんじゃなく、お店に買いに行って欲しいと送られてきた。

 

でも、正直、それがどこに売っているのかが見当もつかない。

それを伝えると、「近くに●●●(店名)ない?」と返ってきた。

 

だけど、私の記憶を探ってみてもそんなお店は思い浮かばない。

それでもなんとか思い出そうとしていると、またDMが来た。

 

「図書館の斜め前にあるんだけど、知らない?」

 

それを見て、ピンと来た。

そう、確かに図書館の斜め前にお店があった。

 

行くことがないだろうと思っていたから気にしていなかったけど、確かにそんな店名だった気がする。

 

すぐにこれから買いに行くと伝えて、家を出た。

言われたものを買いそろえるのに少し時間がかかったが、無事に買い終えて家へと戻る。

 

そして、「買ってきました。次はどうすればいいですか?」とDMを送る。

 

すると、こう返ってきた。

 

「今から説明する」


同時に、家のインターフォンが鳴った。

 

終わり。














■解説

語り部の住んでいる街を知らない限り「図書館の斜め前にある」という情報は出てこないはずである。

つまり、相手は語り部がどのあたりに住んでいるかを知っていることになる。

おそらく、友達が炎上して個人情報が特定された際に語り部の情報のアタリもつけていたと思われる。

また、写真もアップしていたことから、顔もバレている可能性が高い。

そして、「今から買いに行く」と来たら、あとはそのお店で張っていれば語り部がやってくる。

さらに帰るところをついていけば、家がわかるということになる。

相手はもう語り部の家の前にいる可能性が高い。

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