第146話 カミングアウト

俺には付き合って3ヶ月の彼女がいる。

 

大学のサークルの飲み会で出会い、可愛かったことと酔った勢いで付き合うことになった。

基本的に彼女は優しく、気が利くタイプなのだが、怒るとかなり怖いところと強引な部分が気になっていた。

 

ただ、話も合うし、趣味や嗜好も似ているから彼女と一緒に過ごすのは楽しかった。

何度もデートをしたし、そろそろ……と思っているが、なかなかカードが固い。

 

自然な感じでと思い、泊りで出かけようと言ったがどうも反応が鈍かった。

お預けを食らっている反面、彼女と過ごすのは楽しいということもあり、俺の中では段々と彼女というより、女友達のような感覚になっていった。

 

だけど、それが彼女にも伝わったのか、最近はやたらと彼女アピールをしてくるようになった。

女の子と出かけることはもちろん、男同士の集まりでも行かないで欲しいと言い始めた。

 

……それならさせてくれよと思うが、それは拒否される。

純情なのはいいけど、ほどほどにしてくれ。

 

そんなことが続き、俺は彼女に対して冷めつつあった。

そんなとき、彼女に対してある噂を耳にした。

 

なんでも、彼女が前に付き合った彼氏に危害を加え病院送りにしたのだという。

原因は男側が別れ話を切り出したかららしい。

 

確かに彼女にはそんな部分があった。

一旦、火が付くと止めるのが難しいくらい狂暴になるのだ。

 

しかも執念深いところもある。

その前の彼氏も病院送りにしたのに、その後、しばらく付きまとってストーカー化したのだという。

 

その話を聞いて、俺は完全に引いた。

彼女に対しての好きという感情も一気に冷めた。

 

だけど、別れ話なんてできるわけがない。

俺もその前の彼氏と同じ道を辿ることは火を見るよりも明らかだった。

 

だから俺は女友達に相談した。

どうやったら、あっちの方から分かれて欲しいと言わせることができるかって。

 

その友達はうんうんと唸って考えていたが、ふと冗談じみた感じでこう言った。

 

「本当はゲイなんだってカミングアウトしてみたら?」

 

最初は馬鹿か、と思った。

けど、考えてみればなかなかいい手なんじゃないかと思う。

別れさえすればいいのだ。

 

彼女が他の男を好きになれば、俺のことなんか構わなくなるだろう。

それにゲイだと言えば、ストーカー化することもないはずだ。

 

俺はその案に乗ることにした。

そして、その夜、さっそく彼女を呼び出して俺はゲイだとカミングアウトした。

 

すると彼女は――。

 

「よかった」

 

そう言って微笑んだ。

 

終わり。














■解説

彼女は実は男だった。

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