第143話 駅
大学を卒業し、就職をして毎日を忙しく過ごす中、ある一つの連絡がきた。
それは通っていた高校が閉校になるというものだった。
確かに、私が通っていた時からクラスは2クラスだったから、少子化の今ならもうほとんど学生がいなくなっていてもしょうがないだろう。
それよりもショックだったことは駅も閉鎖されることだった。
閉校された次の日に閉鎖されるのだという。
確かに学生しか使っていなかった駅だったから、高校が閉校になるなら仕方ないだろう。
でも、それでもショックだった。
そして、友達から高校が閉鎖される前に一度、集まらないかという提案があった。
私は行くと即答した。
正直、高校よりも駅が閉鎖される前に一度行っておきたいと思っていた。
なにもない平凡な高校生活で、少しだけ私に思い出をくれた駅。
私は最後に駅員さんに「お疲れさまでした」と言おうと決めていた。
そして、駅が閉鎖される当日。
珍しく高校の前の駅で人身事故があったようで、3時間ほど待たされてしまった。
最後だというのに、なんとも締まらない。
まあ、私らしいといえば私らしいけど。
長く待たされたのち、私は10年以上ぶりに駅に降り立った。
ホント、なにも変わっていなかった。
一気に当時の記憶が思い出される。
もう少し感傷に浸りたかったが、辺りも暗くなり始めている。
私は用意した小さな花束を持って改札へと向かった。
「長年、お疲れさまでした」
それを言うためだ。
だが、駅には乗客はおろか、あの駅員もいない。
私は大きくため息をついた。
そっか。
あまり使われていない駅だったから無人駅になってしまったのかもしれない。
それに、あの駅員が10年以上もこの駅にいるとも限らなかったということにも気づいた。
私は虚無感に包まれながら、帰りの電車が来るまでの1時間を駅のベンチに座って過ごした。
終わり。
■解説
語り部の思い出の駅は「学生以外」は人が降りない。
そして、閉鎖の日はすでに高校は閉校しているので、乗客は誰もいないはずである。
では、この駅で起きた「人身事故」は誰によるものだったのだろうか。
それは「駅員」だった可能性が高い。
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