第141話 海賊

最近、海で海賊が出るらしい。

 

時代錯誤かと思うかもしれないが、海賊というのはどこの時代にも存在する。

ただ、今回、有名になっている海賊は少し変わっていて、誰も知らないというのだ。

 

誰も知らないのに有名というのも変な感じがするのだが、海賊の正体が一切わからないらしい。

どんな人間かいうのはもちろん、海賊の人数、そして、どんな船を使っているのかさえわからないのだという。

 

その原因としては、海賊は捕まえた人間をすべて殺してしまうらしい。

目撃者をすべて始末し、その船のありとあらゆるものを強奪し、あろうことか、その船まで沈めてしまうのだと言われている。

つまり、海賊に襲われた船は何の形跡もなく消えてしまうのだ。

 

普段、海に出ない人間からすると興味がないかもしれないが、私は小さなクルーズ船の船員をしているので、毎日が気が気じゃない。

 

航海中は何人かであたりを監視することは絶対に怠らない。

私が見張りに立つ際は、何もないことを祈りながら監視している。

 

そんな中、一人の監視員が小さな船が漂流しているのを見つけた。

小さいとはいえ、もしかすると例の海賊かもしれない。

船長は細心の注意をしながら、その船に遠くから呼びかける。

 

するとその小さな船の中には3人しかいなかった。

夫婦とその子供が1人。

しかも船にはろくな備品も食べ物も置いていないような状態だった。

 

船長はさすがに海賊ではないだろうと判断して、3人を船に上げた。

 

その夫婦の話では、船で進んでいる途中で、例の海賊船を見かけたのだという。

怖くなって慌てて逃げてきたらしい。

 

船長はすぐに国の会場警備隊に連絡し、夫婦から聞いた、海賊船の位置情報を伝える。

ようやく得た海賊の情報。

国は威信をかけて海賊をとらえるだろう。

 

これでもうこの船は海賊に襲われる心配はなくなった。

クルーズ船の乗客はもちろん、私たち船員も安堵した。

 

危険のない海はこんなにも美しく、壮大なんだと改めて思った。

 

終わり。













■解説

誰も見たことがないはずの海賊船を、なぜ夫婦は「海賊船」だとわかったのか。

また、航海している中、食料も備品も積んでいないというのはおかしい。

つまり、この家族を装った3人が海賊だという可能性が高い。

このあと、乗客や船員は全員殺され、船ごと奪われてしまうだろう。

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