第135話 映画

俺は今、映画を見ている。

 

この映画はある意味、話題作だが客は全然入っていない。

宗教を批判するような描写があったことで、その宗教から上映の差し止めがあり公開が見送られていた。

 

それが近年、規制が緩くなったのか、その宗教の影響力が下がったのか、この映画が公開されることになったのだ。

 

ただ、とはいえ問題作であることは変わらないため、田舎の映画館のみで上映されるという流れになったようだ。

 

それにしても、本当にガラガラだ。

平日だからとか、田舎だからとかはあまり関係ないだろう。

 

全然客がいない理由は単純につまらないからだ。

アクション映画のはずなのに、30分が過ぎても一向にアクションが始まらない。

客の中には寝ているやつもいるが、それは仕方のないことだろう。

実際、俺も眠くなってきていた。

 

時間の無駄だし、帰るか。

 

そう思った瞬間だった。

一発の銃弾の音と、数人の悲鳴が上がった。

 

スクリーンを見る。

そこには銃を持った男が立っていた。

 

威風堂々とした男はニヒルな笑みを浮かべている。

俺を含めて、観客はその男に釘付けになった。

 

まさかの急展開。

こんな展開、誰が予想できただろうか。

 

もし、映画評論家が見たら、ナンセンス、現実離れしている、なんて批評するかもしれない。

だが、俺にとっては最高の展開だった。

 

映画を見に来てよかった。

 

心の底からそう思った。

確かに強引で脈略もない、この展開を嫌がる人間がいるかもしれない。

 

いや、大半の人間は顔をしかめるだろう。

だけど、俺にとってはどんな名画よりも興奮した。

面白いと思った。

 

「おい! いい加減にしろ!」

 

青年がいきなり、男に向って叫んだ。

男は肩をすくめた後、平然とその青年に銃を向け、そして、撃った。

 

青年が倒れる。

 

その場が静まり返った。

観客は固唾をのんで男の動向を見守る。

 

すると、突然、男は懐からダイナマイトを出した。

昔ながらの、細長く、導線の付いた古臭い、いかにもというダイナマイトだ。

 

その光景はかなり滑稽で、どこかコメディ的だった。

観客の中でも、吹き出すやつもいた。

 

実際、俺も笑っていたのかもしれない。

 

男はマッチを擦り、導線に火をつける。

バチバチと火花を立てながら、導線の火はダイナマイトへと近づいていく。

 

さすがにこんな展開はないだろ。

あまりにもお粗末だ。

現実離れしすぎている。

 

俺の中の興奮が一気に覚める。

いつの間にか、汗が冷たいものになっていた。

 

一瞬の閃光と爆発音が響く。

 

どうやら終わりのようだ。

辺りが暗くなっていく。

 

「くそっ!」

 

俺は小さく舌打ちした。

 

終わり。














■解説

男が乱入してきたところから、映画ではなく現実で起きた出来事になっている。

映画館に乱入してきた男は、宗教に関連しており、抗議のつもりで映画館を襲撃した。

いわゆる自爆テロを行ったのである。

そして、語り部はその爆発に巻き込まれて死んでしまった。

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