第134話 チャイルドシート

なんだろう。

最近、事件や事故が多くなってきたような気がする。

 

去年までは大体は署内で書類整理とか、ダラダラとパトロールをしていた日が多かったのに、今ではひっきりなしに呼び出される。

 

現在も掛け持ちで車の窃盗グループを追っている。

いや、本当に掛け持ちは勘弁してほしい。

どれがどの事件のことかこんがらがってしまう。

 

俺は頭がいい方じゃないから、細かいミスとかしてしまうのだ。

 

朝から課長に怒鳴られた後、通報が入り、行って見るとデカいネズミが出たとか。

……俺は人間を捕まえるのが仕事であって、ネズミは管轄外なんだけど。

 

なんてことを言うわけにはいかないので、ネズミ捕獲作戦を実行する。

考えてみれば逆にサボる口実にはいいかもしれない。

 

なんだかんだやっていたら、3時間が経過していた。

この3時間の間、サボれたかと言われれば全然そんなことはなく、走り回ったりして結構疲れた。

 

こんなことなら、適当な言い訳をして断って、後で苦情を入れられて課長に怒られた方がよかったのかもしれない。

 

ネズミを捕獲していたせいで、お昼をとるのが遅れてしまった。

休憩がてら、昼食にしようかと考えていたら無線で連絡が入る。

 

事故だ。

3台の車が玉突き事故を起こしたらしい。

 

はあ。今日は本当についていないらしい。

 

昼食なんて言ってられず、すぐに現場へと向かう。

その現場はかなり騒然としていた。

 

他の人はもちろん、まだ救急や消防も来ていない。

中にはまだ運転手が乗っている事故車もある。

 

現場でどうしようか考えていると、いきなり炎が舞い上がった。

どうやら、事故を起こした車からガソリンが漏れ、それに引火したらしい。

 

とにかく、まだ車内にいる運転手を下さなければならない。

俺はすぐに事故車の運転手に駆け寄り、運転手を引っ張り出すことに成功する。

 

「ほかに同乗者はいますか?」

「いえ、いません」

 

ホッと安堵の一息をついた瞬間、俺は車に貼ってあるステッカーが目に入った。

慌てて事故車へと戻り、後部座席を確認した。

 

最悪なことに、この事故で1名の死者が出てしまった。

そして、この後、この事故車の運転手を逮捕した。

 

終わり。













■解説

語り部が見たステッカーは「赤ちゃんが乗っています」というもの。

つまり、後部座席には赤ちゃんが乗っていた。

しかし、その車の運転手が「他に同乗者がいない」と言ったということは「赤ちゃんがいたことを知らない」ことになる。

この車の運転手は車の窃盗グループのメンバーだった。

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