第133話 ルーレット

俺は昔からどちらかというと運が悪い方だった。

 

福引とかビンゴとか、小さいところではよく当たるくらい運がよかったが、大事な部分で運任せにすると、大体は悪い結果になる。

まあ、そういうのは俺だけじゃなくて、大体の人はそうなのかもしれないけど。

 

そんな俺も学生の頃までは平凡に過ごしてこれた。

彼女が出来て楽しい学園生活……とまではいかなくても、友達同士でバカをやってそこそこ楽しく過ごすことができた。

 

就職に関しても多少は苦労したけど、就職浪人することなく、大学卒業後からすぐに働くことができた。

 

新入社員としても、仕事上で多少の失敗をしたこともあったが先輩や上司の助けもあって大事になることもなかった。

そういう点でいうと俺は運がいいというか、恵まれていたのかもしれない。

 

だが、仕事に慣れた3年目のときだった。

ふと、後輩に誘われてパチンコに着いていった。

 

今考えると、あそこが人生の分岐点だったと思う。

 

俺はあっさりとパチンコ、というかギャンブルにハマった。

宝くじのようなものはもちろん、競馬や競輪なんかにも手を出した。

 

お盆休みや年末年始のような長い休みがある日は、海外のカジノにも行くようになった。

気づけば、俺には多額の借金が残っていた。

 

借金取りから逃げるため、会社を辞めて、各地を転々とする生活。

日銭を稼いではそれをギャンブルにつぎ込むという繰り返しの毎日を過ごした。

 

でも、あるとき、母親は病気で死んだことを父親から聞いた。

香典を出すことも、葬式に出るための喪服を買う金さえもない。

 

考えてみると俺は母親に一度も親孝行どころか迷惑しかかけていない。

 

このままではダメだ。

せめて父親には親孝行をしたい。

 

そこで俺は人生で最後で代々の勝負をすることにした。

 

自分の臓器を担保に、数百万を闇金融から借りてラスベガスへと飛ぶ。

そして、一世一代の勝負を仕掛ける。

 

ルーレット。

俺が選んだのは今までやったことのないギャンブルだ。

 

なんとなくビギナーズラックを狙っていたというのもあるかもしれない。

ルーレットの席に座り、まずは10万円分ほど「赤」に賭ける。

すると、21の赤に球が止まった。

 

勝った。

勢いは今、俺に来ている。

 

俺は全財産をまた「赤」に賭けた。

球がルーレットの盤上を転がっている間は、とても長く気が狂いそうな時間だった。

心臓の音がやけに大きく聞こえてきて、息が荒くなり、すべての脳内麻薬が大量に出ている感覚がする。

 

頭の中では今までの思い出や、母親のこと、父親のことがグルグルとめぐっている。

そして、球が止まった瞬間、俺の目の前が真っ白になった。

 

必死に目をこすり、ルーレットの盤を見る。

11の「赤」。

 

勝った。 

俺は人生最大の勝負に見事勝つことができた。

 

俺は借金を返して、実家に戻り、就職して普通の生活に戻った。

彼女もでき、結婚をし、子供が生まれた。

 

今、俺は本当に幸せだ。

 

ギャンブルというのは身を亡ぼす。

本当にそうだと思った。

 

俺はもう二度とギャンブルはしないと心に固く誓った。

 

終わり。













■解説

ルーレットの盤で11は「黒」である。

語り部は「勝ったという幻」を見ていたことになる。

つまり、語り部は負けたショックを受け入れられず、精神が崩壊してしまった。

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