第104話 長距離バス

年末になると俺たち長距離バス運転手は忙しくなる。

帰郷で実家に帰る人が多くなるからだ。

 

なので会社はこの時期にあるとバスの本数を増やす。

まあ、稼ぎ時なのだから当然と言えば当然なのだが。

 

ただ、バスの本数が増えても運転手が増えるわけではない。

必然的に、俺たち運転手の稼働が高くなる。

 

もちろん俺も最近の運転続きで、疲労がピークに達している。

それは周りの人たちも同じだから、自分だけが疲れたと言って休むわけにはいかない。

今日ももちろん、出勤だ。

 

今日の担当バスは8時間の寝台バス。

400キロを越す距離だから、2人体制だ。

 

俺は後半の運転を担当する。

みんな疲労困憊だというのを知っているため、前半の運転担当から「寝てていいよ」と言われた。

お言葉に甘えて、俺はバスの乗客の数を確認し、バスの出発後に隣の席で座りながら仮眠を取らせてもらった。

 

3時間くらい寝た時だっただろうか。

ふと目を覚ますと、運転手が体を小刻みに動かしていた。

 

おそらくトイレに行きたいのだろう。

 

俺は運転手に「トイレ休憩を取ろう」と提案した。

そして、少し早いがトイレ休憩後に運転を変わることにする。

乗客にトイレ休憩をする旨をお知らせし、公衆トイレに立ち寄る。

 

本来停車する場所ではないので、周りに売店も自動販売機もないような場所だ。

とりあえず10分の休憩と告げる。

 

ここから5時間近くの運転と考えると気が滅入る。

少し早く運転を変わるといったことに少し後悔していた。

 

そんなことを考えながら運転席に座っていると、ついウトウトしてしまった。

 

乗客に「もう時間ですよ」と声を掛けられ、慌て飛び起きた。

時計を見るともう15分が過ぎていた。

 

俺はすぐに乗客を数え、全員そろっているのを確認して、バスを発車させた。

 

終わり。














■解説

普通、時間が過ぎていて声をかけるとするなら、交代要員の運転手のはずである。

そして語り部は「乗客」しか確認していない。

つまり、もう一人の交代要員の運転手をトイレに残してしまっていることになる。

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