第67話 トイレを貸してください

会社でテレワークが進み、俺も自宅で仕事をするようになった。

 

ある日、部屋で仕事をしているとインターフォンが鳴った。

出てみると、そこには若い小柄な男性警察官が立っていた。

 

「この辺りで不審者を見ませんでしたか?」

「いえ……。特には。なにかあったんですか?」

「連続の強盗殺人が起こってるんですよ」

「ええ……。それは怖いですね」

「犯人は女性で、男ばかりを狙っているみたいです」

「え? 女性が男を狙うんですか? それはまたリスクが高いことをしてますね」

「犯人は、男のそういう油断を狙っているのだと思います」

「あー、なるほど」

「被害者は全員、犯人を家の中に入れています。これは油断の現れですね」

「確かに、女性にいきなり襲われるなんておもいませんもんね。でも、知らない人を家に入れるって……。やっぱり下心とかがあって、そこにも付け込まれたんですかね?」

「そうですね。とにかく、油断させていたことは間違いないです。後ろからナイフで一刺しですから」

「……気を付けます。知らない人は家に入れないようにしますよ」

「それがいいですね」

 

そんな会話をした後、警察が帰ろうとしたとき、急にその警察官がもじもじとし始めた。

 

「あの……。こんなことをお願いするのは心苦しいのですが、トレイを貸してくれませんか?」

「え? トイレですか?」

「はい。もう、おしっこが限界で」

「いいですよ」

 

照れ笑いする警察官に笑うのをこらえながら、トイレに案内する。

そして、10秒ほどがたったとき、トイレの中から警察官が話しかけてきた。

 

「すいません。トイレッとぺーバーが切れてますけど……」

「あ、すいません」

 

俺は慌てて、しまってあったトイレットペーパーを1ロール持ってトイレへと戻る。 

 

「持ってきました」

 

すると少しだけドアが開き、手がニュッと出てきた。

その手にトイレットペーパーを渡す。

 

ほどなくして、トイレの流される音がして、中から警察官が出てきた。

 

「いやあ、危なかったです」

 

また照れ笑いをする警察官。

 

「では、失礼します」

 

そう行って警察官は玄関へと向かった。

しかし、ピタリと立ち止まる。

 

「なんか、変な音しません?」

「え? そうですか?」

「部屋に誰かいます?」

「いえ、誰も」

「ちょっと見てきた方がいいかもしれませんよ」

「そうですね」

 

それはそう言って、警察官に背を向け、部屋へと向かった。

 

終わり。















■解説

男が小便をする場合は、トイレットペーパーを必要としない。

そして、強盗殺人は女で、男ばかりを狙っている。

犯人は男の家の中に入って、強盗をする手口である。

このことから、家に入ってきた警察官は偽物で、実は強盗殺人犯であると考えられる。

また、警察官なのに、「部屋に不審者がいるかもしれない」状況で、語り部に見に行かせるというのもおかしい。

この後、語り部は後ろから強盗犯に刺されてしまう。

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