第63話 爪とぎ

私は猫を飼っている。


友達が拾ってきた猫を1匹引き取ったのだ。


 


生まれてから2ヶ月くらいの子猫はとても可愛らしくて、一緒に遊びだすと数時間はあっという間に過ぎてしまう。


うちの猫は比較的、大人しいらしく、他の猫と比べても鳴かないし悪戯もしないし、トイレも失敗しない。


 


ただ一点、困っていることと言えば、爪とぎだ。


色々な物で爪を研ぐ……というわけではない。


中には壁やソファーで爪を研ぐ猫もいるらしいが、うちの猫はそんなことはしない。


壁もソファーも綺麗なままだ。


どこも爪の跡なんてない。


 


問題なのは時間だ。


 


夜の2時か3時頃。


寝ているとカリカリカリカリと延々と爪を研ぐ音が聞こえてくる。


 


何かを催促するときに、爪を研ぐことはある。


餌が無くなったとか、水がないとか、トイレを掃除してくれとか。


 


だけど、夜の爪とぎのときは、何を催促しているのかがわからない。


起きて、電気をつけて見てみても、ご飯や水もあるしトイレだって綺麗な状態になっている。


単に爪を研ぎたいから研いでいるのかもしれないが、時間が長い。


30分くらいは平気で研いでいる。


友達に聞いてみても、普通は爪とぎなんて一瞬で1分もやらないそうだ。


 


なんで、あんなに爪を研ぐんだろう?


ちゃんと爪は切ったりしてるんだけど。


 


猫がうちに来てから、大体半年が過ぎた。


友達からもそろそろ去勢した方がいいと言われたので、動物病院に連れて行くことにした。


 


猫は去勢手術で一日、動物病院にお泊りすることになった。


急に家の中が静かになった気がする。


猫が来る前はこんなことを思ったことないのに。


 


でも、たった一晩の我慢だ。


明日には家に戻って来る。


 


私はいつもより早く寝ることにした。


丁度ウトウトしていた時だった。


遠くで爪を研ぐ音が聞こえる。


 


私は「あ、夜のご飯あげてなかった」と思って慌てて起きた。


キャットフードを出して、お皿に入れようとしたとき、猫は病院に預けていることに気づいた。


 


「早く帰ってきてくれないかな」


 


すごく猫が恋しくなった。


終わり。















■解説

猫がいないのに爪を研ぐ音が聞こえるのはおかしい。


つまり、猫がいなくても爪を研ぐ音が聞こえるということは、今まで爪を研いでいたのは猫ではないということになる。


語り部の家には猫以外の何かが住み着いているのかもしれない。

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