第49話 トンネル
トンネルってさ、心霊スポットになることが多いよね。
異世界に繋がってるとかっていう都市伝説とかもあったりするし。
どこにでも一つくらいはあるんじゃないかな。
トンネルが心霊スポットになってるところって。
もちろん俺が住んでるところにも、心霊スポットになってるトンネルがある。
きっかけはなんだったかは忘れたけど、とにかく肝試しをしようってことになって、友達と3人でトンネルに行こうって話になったわけ。
3人の中で車を持ってるのは俺だけしかいなくてさ、俺が運転していくことになったんだよね。
まあ、深夜のテンションってこともあって、行くときは車内はすげー盛り上がってたんだよ。
けどさ、友達の1人が急に怪談話を始めたの。
結構、ガチ目で怖いやつ。
しかも、そいつ、話が上手くて俺ともう1人は凄い聞き入っちゃうくらい。
ドンドン背筋が寒くなっていったのが、自分でもわかったんだよね。
それはもう1人の友達も同じだったみたいでさ、時々、生唾を飲み込んでたよ。
さらに最悪なのが、その話のオチが、今から行くトンネルの話だったって言い出してさ。
あれにはマジで殺意が湧いたね。
本当は帰ろうって言いだしたかったけど、行く気満々で出発したこともあって、誰も帰ろうって口に出さなかったんだ。
しばらく車内が沈黙になってたときに、目的のトンネルに着いた。
このトンネルは心霊スポットになるくらいだから、ほとんど車は通らない。
だけど、封鎖されているってわけじゃないから、もしかしたら車が通る可能性もある。
俺はトンネルに向かって、左側の端に車を停めた。
これなら他に車が通っても邪魔にならないだろう。
停めてからしばらくは、誰もしゃべらないし、動こうとしなかったんだ。
で、俺は言っちゃったわけ。
「着いたぞ」って。
そしたら、怪談話をした友達が「ああ」って言って車を降りてしまった。
もしかしたら、この時「帰ろうか」って言えば2人とも同意してくれたかもしれない。
でも、1人が降りたもんだから、俺ももう1人も車から降りるしかなかった。
いや、深夜のトンネルってホントヤバいよ。
しかも古めのトンネルだから中に電灯とかついてないんだよね。
ホント、真っ暗。
怪談話をした友達がスマホを出して、ライト機能を使って中を照らす。
そして、「行くぞ」って言い出した。
マジかよ。
歩き出したそいつを先頭に渋々俺達はついて行く。
トンネルの中は妙に静かで、俺たちの足音だけが響いてた。
音が反響するのも、凄い怖かったよ。
3人とも無言で進んで行ったんだけど、トンネルの半分くらいまで来たときだったかな。
いきなり「はは」っていう笑い声が聞こえたんだよね。
俺はそのとき、2人のどっちかが怖すぎて思わず笑ってしまったんだと思ったんだ。
けど、それは2人も同じだったみたいで、3人が顔を見合わせた。
で、全員が首を横に振った。
誰も声なんか出してなかったんだ。
すると今度は笑い声と一緒に、コツコツコツって足音が近づいて来るのが聞こえた。
絶対、俺達じゃない。
だって、俺達は立ち止まってたから。
3人とも固まってる中、足音が近づいてくるのがわかる。
前の方からゆっくりゆっくり、こっちに近づいて来る。
「逃げるぞ!」
ライトを持った友達が叫んで振り返り、入り口に向かって走り出した。
その声で俺ももう1人もハッとして、そいつの後を追って走り出すことができた。
そしたら、コツコツコツって足音も早くなってきてさ。
あっちも走ってる。
もう全力で走ったね。
息が苦しいとか足が痛いとか、そんなの考える間もなく、とにかく全力で走ったんだ。
物凄く長く感じたよ。
そのときは、このままトンネルから出られないんじゃないかって思ったくらい。
で、やっとトンネルの入り口が見えてきたわけ。
助かったって思ったけど、後ろから追ってくる足音も近づいてきてるのがわかったから、気が気じゃなかったよ。
トンネルから出て、3人でそのまま駆け込むように車に乗り込んだ。
「早く出せって!」
友達に急かされて、俺は慌ててエンジンをかけた。
同時に、後ろでバンって車を手で叩くような音が聞こえた。
「なにやってんだよ!」
友達が怒鳴る。
俺は思い切りアクセルを踏んだ。
車は急加速して発進する。
とにかくアクセル全開で逃げたね。
30分くらい走って、ようやく街灯がある場所に辿り着いた。
後ろを見ても何かが着いて来ているってことはなかった。
とりあえず、その日は俺ん家で3人一緒に寝たんだ。
まあ、実際は3人とも寝られなかったんだけど。
それにしても、もしあのとき発車するのがもう少し遅れてたらどうなってたんだろうか?
いや、ホント、無暗に心霊スポットなんかに行くもんじゃないよ。
終わり。
■解説
トンネルに入る前、語り部は車を「左側」の道路に停めたと行っている。
つまり、車はトンネルに向かう方向で停められていたことになる。
しかし、トンネルから出たときは、乗り込んで、そのままアクセルを踏み込んで逃げている。
本来であれば、トンネルに向かって車を停めているのでそのまま進めば、トンネルに入って行くことになる。
しかし、語り部たちはそのまま走り出して逃げることに成功している。
つまり、トンネルに入る時と出た時で、車の向きが変わっているということになる。
もしかすると、語り部たちはトンネルに入った時とは別の世界に出たのかもしれない。
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