第28話 留守番
夜の12時。
寝ていると、窓をコンコンとノックされる。
俺は最近、霊障とやらに悩まされている。
一週間前に友人と肝試しの為に心霊スポットに行ってからだ。
どうやら、ついて来てしまったらしい。
このところ、毎日、夜になると窓や壁をノックされたり、「入れて」と声をかけられたりする。
そのせいで、一週間の間、ほとんど寝ていない。
さらに厄介なところは、そのノックする音や声は俺以外の人には聞こえないということだ。
だから、精神的な病気じゃないかと言われてしまう。
だが、俺としてはどう考えても精神的なものではないと確信している。
というのも、窓に鍵をかけ忘れた際に、ゆっくりと窓が開き始めたのだ。
慌てて、窓を閉め、鍵を掛けると「どうして入れてくれないの?」という声も聞こえてきた。
こうなってくると、本当に気が狂いそうになる。
そんなとき、母親が、同窓会があるとか言って、出かけると言い出した。
父親が出張で家にいない状態で、母親まで家を空けるなんて、冗談じゃない。
なんとか説得をしてみたが、11時には帰って来るというところと好物のお寿司を買って来るから、と押し切られてしまった。
まあ、俺ももう大学生だ。
こんな我儘を言い続けるわけにはいかない。
夕方になると母親が出かけていく。
大丈夫。6時間くらい耐えればいいだけだ。
母親が出て行ってからは、部屋に閉じこもって、布団を被る。
もちろん、窓やドアに鍵がかかっていることは確認済みだ。
寝ていなかったせいか、少しうとうとしていると、突然、インターフォンが鳴った。
一気に、心臓の鼓動が高くなる。
まだ、時間は7時。
こんな時間から、霊が現れることなんて今までなかった。
まさか、俺が家に一人だと言うことを知って、狙ってきたのだろうか。
再び、インターフォンが鳴る。
恐る恐る、ドアののぞき穴から見ると、配達員だった。
ドアを開けて、荷物を受け取る。
もう、配達が来るなら言っておいてくれよ。
俺は安堵して、再び部屋に入って布団を被る。
すると、いつの間にか眠ってしまっていた。
目を覚ますと、夜の11時。
そろそろ母親が帰って来るはずだ。
それに、この時間なら、まだ霊は現れないだろう。
トイレに向かおうと廊下を歩くと、リビングの電気が付いていた。
ドア越しに母親に声をかける。
「あれ? 母さん。帰って来てたのー?」
「うん。早く解散になっちゃって。それより、お腹空いたんじゃない?」
「あー、うん。減った」
「ハンバーグ作ったから、ご飯にしましょ」
「トイレ行ってからねー」
トイレに向かっていると、突如、ドンドンドンとドアが激しくノックされた。
一気に心臓が跳ね上がる。
「お願―い! そこにいるんでしょ! 玄関のドア、開けてー」
母親の声だ。
嘘だろ。こんなことも出来るのか?
「鍵を落としちゃったの。開けてー」
危ない。
先に母親が家に帰って来ていなかったら騙されて開けるところだった。
だが、さらにドンドンと激しくノックされる。
早く、母親の所へ戻ろうと思った時だった。
「開けちゃダメよ! 早くこっち来なさい!」
リビングから母親の声が聞こえた。
俺は慌てて、玄関のドアを開けた。
終わり。
■解説
霊のノック音と声は、語り部以外には聞こえないはず。
それなのに、「開けちゃダメ」と言ったところから、リビングにいる方が幽霊。
さらに、母親は「寿司」を買って来ると言ったのに、「ハンバーグ」を用意しているところもおかしい。
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