第14話 ここにいるよ
俺達は凄く貧乏で、家電も中古のものばかりを使っていた。
そんな俺と妻がお金を出し合って、初めて新品で買ったのはエアコンだった。
今まで扇風機で過ごしていた俺達は、エアコンの快適さに手を取り合って喜んだものだ。
あまりにも快適なせいで、俺はすぐにエアコンに頼るようになってしまった。
すぐに温度を下げたり、付けたまま寝たり、とにかくズボラだった。
妻はその都度、温度を調節したり、電源を消したりと調節してくれていた。
俺はずっと、電気代がかかるからと思って、やってくれてるのかと思っていたが、俺の体調を気にしてくれてということだった。
もし、電気代を節約するつもりなら、そもそも、エアコンを付けさせなかった、だって。
……確かにそうか。
そう考えると、妻の、俺への献身はかなりのものだったと気づく。
食事だって、バランスが考えられていて、しかも、飽きない工夫をしていた。
洗濯だって、掃除だって……生活の全てが、妻の思いやりに包まれていたんだ。
こういうのは、本当にわからないものだ。
実際に、自分でやってみないとね。
だから、よく夫婦仲が悪いなんて話を聞くけど、一度、家事とか全部やってみたら、と言いたい。
どれだけ自分が恵まれていたか、どれだけ自分が想われていたか、がわかると思う。
お勧めするから、是非、やってみてほしい。
話は変わるけど、今は、生活はそれなりに安定している。
極貧生活時代から見ると、給料は2倍以上。
しかも、当時、妻が働いていた分も含めての話だ。
今までのことを取り返すように、俺は家電を買い替えた。
冷蔵庫や洗濯機、掃除機。
最新の家電は性能がよくて、随分と楽が出来る。
あの頃、こうやって買うことができれば、生活も随分と楽になったんだろうか?
まあ、言ったところで、どうしようもないけど。
でも、買い替えられない家電がある。
……そう、エアコンだ。
なんていうか、妻との思い出の一品というか、どうしても買い替える気にはならなかった。
ただ、エアコンは使い方を変えなくてもまだまだ現役だ。
今でも快適に使わせて貰っている。
朝は起きて、すぐにエアコンのスイッチを入れる。
今日は少し暑いので24度に設定を下げる。
そして、朝食を用意する。
お弁当は、今はさすがに無理だけど、後々は作ろうと思ってる。
夕飯も、前はお弁当だったけど、今では材料を買って帰って作っている。
ただ、やっぱり、レパートリーはまだ少ない。
これも、後々は増やしていこう。
それにしても、今日は妙に暑いな。
俺はエアコンの設定を24度に下げた。
終わり。
■解説
語り部の男の妻はすでに亡くなっている。
そんな中、死んだ妻に心配をかけないように、ズボラな語り部も、色々と気を使っている。
しかし、エアコンに関しては、使い方を変えていないのに、朝にはエアコンが消えていることや、設定も変わっている。
もしかすると、語り部の妻は、心配で見守り続けているのかもしれない。
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