41話 最終決戦 急
ユーマはイザナミの前で、不敵に笑ってみせた。
「もう勝ったと思っている時点で、お前は理性を取り戻せていないよ」
イザナミの動きが、一瞬固まる。その直後、ガクッとイザナミの身体が揺れて、少し浮いていた身体がどすんと地面に落ちた。ユーマの頬に触れていた手もずり落ちるが、それをユーマは左手で掴む。
「――――――⁉」
イザナミの骨の手が、ユーマの左手の中に吸い込まれる。その引力に引っ張られるようにイザナミの身体が前のめりになった。
イザナミは咄嗟に自分の右腕を切り離し、後ろに飛びのいた。ユーマは後を追おうとするが、身体が言うことを聞かない。
「くそ、あと少しだっていうのに……」
イザナミは自分の身体を見る。先ほどまであった青白い光は、突如消えていた。
「イツのマニ……貴様らに触レラれた覚えナド――」
「自分が弱っているのをわからなかったなんて……だいぶ意識の幅が狭くなってるみたいだな」
その瞬間、細かい粒子のような物がどこからともなくユーマの元に集まり始め、そしてそれはやがて人の輪郭となり、二人――ユイとエリが姿を現した。
「姿を消シテ、いたト言ウノカ」
エリは得意げに笑う。
「そうよ。ユーマたちの方にだけ注意を向けて、気づきもしなかったでしょう?」
「ユーマ、大丈夫?」
ユイがユーマに肩を貸す。
「うん……作戦は成功したみたいで、良かった。あとは俺に任せろ、あのオーラが無くなればこっちのもんだ」
「そんなこと言って……もうボロボロじゃん」
「これ以上は命にかかわるよ、先祖の方たちに任せて――」
「エリ、ユイ……悪いけど、賭ける命があるのなら、今やるしかない」
イザナミが怒りのあまり戦慄いている。地面に突き刺さった矛が再びイザナミの周囲に浮遊して集まる。
「私ノ神気を……ヨクモ! これデハ計画ガ滅茶苦茶だ!」
ユーマはよろめき、ユイに支えてもらいながら立ち上がる。「物質消去」で周りの空気を吸収し始める。
「計画が、何だって?」
ミシミシと地面が音を立て、砂が舞い、吸い込まれていく。イザナミは自分の身体がじりじりと引き寄せられていることに気が付いた。
「――――! マ、マテ!」
「イザナミ! お前はここで消去する!」
ユーマは力をこめ、「物質消去」の威力を高める。じりじりとイザナミを引っ張るスピードが上がっていた。
「ア、アハハ! これデモ食ラうガ良イワ!」
浮遊していた無数の矛がこちらを向くと、加速してユーマ目掛けて突っ込んでくる。ユーマは歯を食いしばり、さらに力を強める。しかし、全てを吸収しきれそうにない。
「ぐっ――――」
そのとき、ユイが落ち着いた声で、言った。
「大丈夫だよ、ユーマ。能力を解除して」
すると、ユーマたちの目の前に人が数人、立ちはだかった。幽鬼だ。幽鬼たちが矛で身体を貫かれ、壁になるようにユーマたちを守る。
「さっき、気絶した幽鬼の身体を乗っ取っておいたの」
「ユイ、平気なのかよ……」
エリも慌てた様子で言う。
「そうだよ! 意識を移したら痛覚だって……!」
そのとき、ユーマに貸していたユイの肩がずり落ち、その場で倒れた。
「ユイ!」
「ごめん、ユーマ……ちょっと眠たいから……やっぱり、あとは任せる……」
ユイはうっすらと笑う。ユーマはユイの手をぎゅっと握った。
「うん。ユイが目を覚ましたときにはもう全部終わらせとくから、安心して休んでおいて」
ユーマが笑い返すと、ユイはゆっくりと瞼を閉じて、意識を失った。微かに呼吸の音が聞こえる。
怒りがこみ上げる。矛の攻撃が終わり、壁になっていた幽鬼が倒れ、再びイザナミが視界に入り相対した。イザナミが驚いたように声を上げる。
「ナゼ今の攻撃ヲ避ケキれル!」
「うるせえ。もう、終わりにしよう」
ユーマは最後の力を振り絞り、立ち上がる。そして力いっぱい、イザナミに向かって一歩、また一歩と踏みしめながら、近づく。
「ク、来ルナ!」
ユーマは左手を広げる。
「クッ――――」
イザナミは顔を歪めると、シュンやミオのいる後方へ大きく飛びのいた。大きく地面を揺らし、突風にシュンは思わず顔を覆った。
イザナミは声を震わせ、言った。
「認メヨウ……今回ハ、貴様ラ『無角』ノ勝チダ」
イザナミの目の前に何か黒いものが集まっていく。それが徐々に大きくなって濁った暗闇色の穴になった。ユーマは激昂して、叫んだ。
「この期に及んで、逃げる気か!」
「貴様ラノコトハ諦メヨウ。『幻影ノ扉』ヲ閉ジレバヨイワ」
「ふざけるな! お前はここで倒す!」
イザナミは下層に行く穴を広げ続ける。ユーマの頬に汗が伝う。息が、荒くなる。
(落ち着け、落ち着け! 何か打開策を……)
「よくわからんが、その穴から引き剥がせば良いんだな」
シュンの声が聞こえたその瞬間――イザナミの頭に衝撃が走る。巨大な岩だ。上空で動きを止めていた岩が、イザナミの身体に激突する。
「オ、オノレェエエエエ!」
イザナミは耐えきれずにあお向けに倒れた。岩が身体の上にのしかかって動きを止めさせる。イザナミはその場でじたばたと暴れている。起き上がろうとしているのだ。
ユーマはシュンと目が合う。――二人は不敵な笑みを浮かべた。
「ソーマさん!」
ユーマは叫び、人差し指を高く上げた。ソーマは少し驚き、そのあとに薄笑いを浮かべる。
「かしこまりました、ユーマ様」
ソーマはワープの入口を生成する。それとほぼ同時にイザナミが覆いかぶさった岩を振り払った。
「コンナモノデ邪魔デキルトデモ――――」
「イザナミぃいいいいいいいい!」
イザナミの上空からの声。イザナミが頭を上げると、ユーマが左手を構えて降ってきていた。
「――下僕タチ! 私ヲ守レ!」
イザナミは目の奥を光らせ、幽鬼や虫たちに命令する。しかし、周囲の幽鬼はうろうろと彷徨い続け、矛として突き刺さっていた虫たちも、動く気配はない。
イザナミのそばに、ミオがいた。微笑みを浮かべ、イザナミの身体に触れている。
「あなたの権能、無力化させていただきました」
「…………ア、アアア」
イザナミの身体が、不意に浮かぶ。ユーマの「物質消去」が、イザナミを引き付けていた。イザナミの一つの瞳が、大きく開かれる。
エリは両手を組んで、叫んだ。
「ユーマ、お願い!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
イザナミは目と鼻の先にいるユーマを見上げる。イザナミはただ呆然としていた。
「私、ハ。消エル、ノカ」
その一瞬、ユーマはイザナミの憎悪と恐怖に満ちた表情を見た。
「安らかに、眠れ」
ユーマの左手がイザナミの顔に触れる。その巨体を「物質消去」は一瞬にして、その断末魔の叫びすらものみ込んで消去する。
その瞬間―――ユーマの左手から光が漏れだす。その光はやがて大きく広がった。
影を取り込み、光は輝きを増す。「幽世」上層だけではない、「現世」にまでその神々しい光は及んだ。
温かい光が、ユーマを包み込む。
ユーマはまぶたを閉じ、光に身を任せた。
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